episode 0-4 噂の男
今まさに大学生活を満喫していると感じている。これは自分の中での評価なので、一般的には残念な生活をしているのかもしれない。
大学の新学期が始まってから2ヶ月が経った。多くの大学生は、サークルや学部での集まりなどで多くのコミュニティで過ごしている。そんな中、いつまでも閉鎖的な関係しか持てないのは僕である。大学では、悟か根尾さんがいないとずっと一人で過ごしている。
必修の授業では、良く根尾さんと話す。根尾さんは、話してみるとやはりとても良い人で天使と言っても良いぐらいの性格である。
一方で、同じ選択の授業の時には悟とは良く会っている。彼は相変わらずだが、必修の授業ではたまにしか声をかけてこない。授業終わりに必ず話しかけてくるが、自分が授業でダメダメなところを僕と根尾さんには見せたくないらしい。
こんな感じに、一般の大学生の生活のようなことはできていないが、自分には十分な人間関係を保っていると思っている。さらに、この環境にかなり満足している。
しかし、そんな安心している生活の中に大きな変化があった。
それが、噂の男である佐々木九九(ささきくく)に話しかけられたのだ。彼は、一人で帰りの支度をして教室を出るぼっちの僕に擦り寄るように話しかけてきた。
「なあなあ、お前って斎戒大学の経済学部の新一年生か?」
「はい、そうですがなんの用ですか?」
僕はめちゃくちゃ不機嫌な顔を作り彼の質問に返答した。
「そんな怖い顔すんなって。そんな怪しいか、俺。佐々木九九って言うんだけど、知らないか?同期だろうが…」
彼は、僕の対応に少しイラついているように見えた。
「お前って確か、学部一位の八須……たけこ…だっけな。まあ、よろしくな。」
ふざけているのか、からかっているのかわからないがわざと間違ったような聞き方をされた。
「八須孟です。よろしくお願いします。あの…本当に何の用ですか。」
「いやいや、用がないと話しちゃいけないのか。ちょっと仲良くなりたいなって。たけこってこの中で物知りそうだしな。」
「はぁー。そんなにですよ。なので、あまり良い返事はできないと思いますよ。」
「あぁーそうかい。まあ、なんか嫌がっているし……これだけ教えてくれないか。経済学部の中で、誰かいなくなったっていう話って聞かないか?」
「何ですか…それ。」
そう言いつつも言葉に詰まった。いつもなら特に秘密にせずに話すのだが、今回の場合は別である。
なぜなら、誰かを行方不明にさせて自殺に追い込むと言われている名簿に名前がない経済学部生と言うのが彼であるからである。
噂に尾鰭がつくのはわかるが、本当に名簿に名前のない人物は彼なのである。このことについては、僕自身が確かめたわけではなく悟と根尾さんから聞いた話である。彼らも友人を通して彼が名簿に載っていないことを聞いたそう。みんなからはかなり避けられている存在でもあった。
「なんだ、お前知らないのか…噂のこととかは。なーんだ。一位って本当か?まあ、くらそうだし知らないもんか。わりーわりー。」
馬鹿にされすぎてかなりイライラするやつだが、あまり反応しすぎると面倒なので適当な対応をしてその場から離れた。
「クソだるいやつだな…」
言葉に出てしまうほどにだるかった。
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教室を出たあとは、フリーだったので図書館に直行した。課題の処理と新聞探しの続きするためである。
『良くわかる内分泌』を読みながら、課題に取りかかった。今回の課題は、副腎皮質についての課題であったため、その本を参考に大半を終わらせた。
その後、新聞を探しに図書館の奥へ進んでいった。
奥へ進むと司書さんがゆったりと話しかけてきた。
「またいらっしゃったんですね。今日も谷について調べるんですか?」
と、司書さんの松原砂沙美さんが笑顔で対応してくれる。
「はい、よろしくおねがいします。」
そういうと彼女は奥へいき探しにいった。
ここ最近、僕の近所では怪奇現象が多く起きている。実体験として僕がよく見てしまうのだ。僕は、いつものルーティンを終えると決まってベランダから自殺谷を見上げてしまう。谷というと見上げられなさそうだが山があり谷があるということだ。自殺谷は、ほぼ山みたいなものである。
誰かが飛び降りる瞬間を見てからあの谷にずっと見入ってしまっているのだ。
コーラを飲みながら谷を見上げると1週間に6度の頻度で人が飛び降りるのが見えるのだ。最初の頃は通報していたが、警察曰く全くもって何もないらしい。警察も最初からこの通報には慣れていたようで、いつからか忘れたが僕自身も通報しなくなった。
この自殺谷には何かある。そう信じて図書館に通う日々であった。初日の自殺の件以外はほとんど参考になる記載はなかった。今日こそはと思い、また探してもらっている。
「申し訳ございません。自殺谷と呼ばれるあの谷についての新聞記事はなさそうです。」
「ありがとうございます。自分でも現地など調べてみようと思います。いつもお忙しいところにすみません。」
「いえいえ、そんな。あまり新聞を読む人はほとんどいないので年に1か2人ぐらいしか利用しなくてかなり新鮮な気分ですよ。」
そう少し喜んだ表情をしている。
「そうなんですね。僕以外にはどう言った方が利用されるんですか?」
「そうですね。3年前ぐらいから毎年1〜2人で同じ人ですね。毎年、きている方もいますね。その方とかだとこの地域の新聞とスポーツ系の新聞とか良く読んでましたね。最近は、大学新聞なども読まれてましたよ。」
「大学とスポーツ系の新聞もあるんですね。面白そうで読んでみたい気がしますね。僕も機会があったら利用させてもらいますね。」
「はい!お待ちしておりますね。」
そう言って僕は図書館を後にして、帰宅した。
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図書館であまり良い情報が得られず、かなり難航している。僕自身、体験しているあの怪奇現象は何なのか。それと大学での失踪事件が引っかかりすぎて頭から離れないのである。
何かがある。そう自分は確信しているのだが証拠が何もない。そんなモヤモヤした状態にいた。
考え事をしつつ、いつものように電車からおり、いつものように家に帰ろうとすると同時に、後ろから聞き覚えのある声で話しかけられた。
「たけこ、お前ここに住んでるのか!」
そう佐々木九九がいたのだ。
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