episode 0-3 友達
僕は人と関わることがとても嫌いである。
相手と話すときに、相手のバックグラウンドを予測して、相手にどう不快にならないかを考えて話す。そんな行為を続けていると疲れてしまうのだ。
友人は少ない方で、大学においては悟ぐらいしかいない。作りたいとも思わないため、できるにしても基本的には受け身の体制が多い。
そんな中、選択の授業が終わるとともに勇気を振り絞ってある同級生が僕に話しかけてきた。
「あの……事情あって今日から経済学部に入りました根尾さゆりと言います。間違ってたら申し訳ないのですが、同じ経済学部生ですよね?」
「こちらこそ、八須孟と言います。そうですね。同じ経済学部生ですよ。」
「本当ですか!…大きい声出しちゃってごめんなさい。大学に遅れてきちゃったので友達誰も作れなくて…。この後……」
と彼女はゴモゴモ話していた。
「いえいえ。同級生ですし、このあと学食に一緒に行ってそこで話しませんか?ここ2週間ぐらいの講義内容とかは話せると思いますしね。」
「本当ですか!…またごめんなさい。ありがとうございます。」
「ではいきましょう。」
「はい!」
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学食では、食券を購入して食券毎のカウンターにて配膳を待つ形式となっていた。僕は、かなり貧乏大学生だったため250円のカレーにした。
「根尾さんは何にするの?」
「私は、Aランチにしようと思います。八須さんは?」
Aランチのおかずの多さは、羨ましいほどである。値段も高めである。見た目もそうだが根尾さんは良いとこのお嬢様っていう印象があるので、納得はしている。
「僕は、カレーだよ。ちょっとお財布事情が…。」
「そうなんですね。よろしければ、おかずひとつあげましょうか?」
天使か。いや、流石に申し訳ないと思ったので断ろうとしたら、彼女は顔を赤くして僕のことを見つめていた。
「私、天使じゃないですよ…笑」
おっと声が出てしまっていたみたいだ。少し恥ずかしい思いを感じた。
そう言って各々のカウンターで配膳され、一緒の席に着いた。
「「いただきます。」」
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根尾さんは少し緊張気味にご飯を食べているのがわかる。少し場を和ませたいと思い彼女のことを聞いてみた。
「根尾さんは、2週間学校に来れなかったんですよね。何かあったんですか。すみません、言いたくない事情とかなら大丈夫ですよ。」
そう聞くと彼女は僕に振り向いて少し微笑んだ。
「聞いて大丈夫ですよ。そうですね、持病のため少し入院して経過を見ており学校にはどうしてもいけなかったですよ。オリエンテーションにはどうにか…と思ってたんですが間に合わず…。」
彼女はそう言って、少し悲しいような表情をした。
「持病って…?」
「すみません、そこまで詳しく言いたくなくて…」
「こちらこそ聞きすぎちゃって申し訳ないです。体調とかもし悪くなったりしたらなんでも相談してくださいね。少しは力になれると思いますので。」
「ありがとうございます。そんな重い症状とかは出ないので心配しないでくださいね。」
彼女は微笑んで、ゆったりと箸を進めていた。
「そういえば、午後の必修の授業については、準備などは大丈夫そうですか?」
「えっ?何か準備しないといけないんですっけ…私、何も準備してないのですが…」
そう言っていたので、この後食事を済ませて彼女の準備を手伝った。
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午後の講義が終わると同時に、根尾さんが僕の席に近づいてきた。
「本当にありがとうございました。」
根尾さんは、腰をかなり曲げてお礼をしてくれた。
「そんなに気にしないで大丈夫ですよ。ただ僕の準備した紙を見せただけですし…」
「いえ!本当に助かりました。八須くんってかなり頭良かったりするんですか?準備の出来が他の人と比べて格段にレベルが違くて驚きました。」
「そんなことないですよ。昔の知識を少し書いただけですから。」
「いつかこのお礼は必ずしますね!今日はこの後サークルの方に見学に行く予定なので、ここで失礼しますね。」
と彼女は言うと帰る準備をして教室の外へ向かっていった。それを見届けていると、急に立ち止まりこっちを振り向いて手を振り、
「八須くん、またね」
そう言って彼女は教室を出ていった。
彼女を見届けた後に、僕自身も帰りの支度をして立ち上がると後ろから聞いたことがある声で呼ばれる。
「お疲れい」
「なんだ悟か。お前授業の方は受けてたんだよな。」
「もちろんだぜ、後ろの方で座ってちゃんと聞いてたからな。課題もほら。しっかりやってるだろ。」
そう言うと悟は、僕に課題の紙を見せてきた。
「ところで、さっきは誰と話してたんだ?お前が俺以外といるなんて珍しいなって思って。」
「根尾さんって言う子だよ。経済学部の同級生だよ。名簿に載ってるはずだよ。病気でオリエンテーションに来れなかったみたいで、少し手伝ってあげてたんだよ。」
「根尾さんか。根尾って初めて聞く名前だな。」
「まあ同じ学部に200人もいるし、そんなもんじゃないか。出席番号も俺と近くて65番で授業も隣だったんだよ。」
「そうか………まあ、いいか」
そういうと彼は少し悩んだ顔をしたように見えたがすぐに表情を変えた。悟とは、長い付き合いではないが、コロコロと様子が変わることがあり少し怖さを感じる。彼なりの特徴だとは思うので、もう慣れつつあるのだが根尾さんの名前を聞いた途端かなり表情を変えたような気がした。
「もう大学にいたくないし、帰ろうぜ。」
大学から早く帰りたい思いを悟に伝えると、そうだなと言って駅へ向かった。
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悟とは、駅で別れた。アパートに着くと同時に今日のことを振り返った。根尾さんのことが少し引っかかるところがあった。明らかに顔が広そうな悟も知らないような生徒の存在があったことがどうにも疑問でしかなかった。
「流石に考えすぎか…」
そう思って、いつものルーティンをする。この時間がやはり最高の時間である。お風呂に入り、ご飯を食べゆっくりとする。クソみたいな大学生活から早く解放されたいとずっと考えている。コーラ持ってきて、窓を眺めていると自殺谷でまた何か人影が見えたような気がした。
少しゾッとして視線を外した瞬間、ピンポンっと部屋のインターホンが鳴った。恐る恐る、玄関へ行きドアを開けると、自分よりも2倍くらいの身長の大男と顔が似ている二人の女性が立っていた。
「夜分遅くにすまない。俺たちはこう言うものだ。」
そう言って彼らはポケットから警察っぽい身分証明証らしきものを見せてきた。
「昨日、ここの近くの谷で人が落ちたのを見たと通報があったと聞いた。少しそのことについて聞いてもいいか。」
大男は、かなり渋い声でそう尋ねてきた。流石に警察の方と思い、言葉を選びつつ昨日のことを時間含めて詳しく話した。
「ワン、この話は本当に信じられるか?」
「ワン、姉ちゃんの言う通りだよ。なんかこいつ変わったやつっぽいし、もはやこいつじゃね。」
双子たちは、よくわからない会話をしていた。しかし、何か疑われているような気がして不快な気分になった。
「お前たちは少し黙っとけ……すまないね、こいつらのことは気にしないでくれ。ところで、あんたは、ここでの噂話は知っているか。」
「はい、自殺谷で幽霊が見られるって話ですよね。」
「そうだ。今、それについて聞いて回っている。その噂以外で何か知っていることとかはなかったりしないか。」
「そうですね。大学での噂話はあるんですが、それ以外は特に…」
「そうか。不思議なことを聞いて申し訳ない。」
大男は少し申し訳なさそうに言う。
「いえいえ、あまり協力できずこちらこそすみません。やっぱり警察的に事件性があったりするんですかね?」
「あまり詳しくは言えない。ただ一つだけ言うとすると冷えた時期には絶対に谷には近づかないようにした方が良い。……すまない、あまり気にしないで生活してくれ。改めて、ご協力感謝する。」
そう言って大男と双子の女の子たちは扉を閉めてどこかへ行ってしまった。
彼らがどこかへ行ったと同時に、携帯の通知がなった。悟からのメッセージが来ていたみたいだった。
明日の課題についての相談だったので、見なかったことにしてそのまま夜を過ごした。
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