episode 0-2 自殺の名所
駅から自宅に帰る途中に、噂について考えてしまった。
(謎の経済学部生か…悟ではないのは良かったけど。本当に今年も行方不明になる事件が起こるのかな)
僕が借りているアパートの近くには、自殺谷と呼ばれる自殺の名所がある。
人生に絶望したり、病気に悩まされた人が次々と飛び込んでいっていることからそう言われるようになった。
自殺谷には夜中に幽霊が出ると言う噂が出ている。そのためか、アパートの周りでは、夜に外出する人がいないらしい。
自殺谷の底には、何があるかと言われると遺体が放置されており、誰も近づかないらしい。
そんなところであるため、地域の人たちにより立ち入り禁止にもなっているそう。
深く考え込んで歩いていると、いつの間にかアパートに到着した。
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自宅に帰ると、すぐに料理の支度をして洗濯と明日の準備に取り掛かった。この時間は、考えることもなく生活をしている実感が湧くのでとても好きな瞬間である。お風呂でいつものように寝ていると、帰路に考えていたことが頭によぎった。
「ふぅ〜。やっぱり、風呂とトイレは別々にしておいて良かったな。こうして湯船に入れるのも1日の楽しみになる。」
「………やっぱり何か嫌な予感がする気がする。」
自殺谷の噂と謎の経済学部生の噂がどうにも引っかかっていたのだ。
「そもそも、多少起伏がある何にも歴史のない住宅街に幽霊の噂なんて起きるものなのかな。」
「考え事が増えるのは本当に嫌だな。このくつろぎの時間を邪魔しやがって〜。幽霊がいるならここに出てこいや。」
独り言が多いのはいつものことだが、こんな姿を誰にも見せられないなと思いながらお風呂の時間が終わった。
その後は、課題の処理をして明日の準備を確認したのち就寝した。
「明日も頑張ろう。」
そう意気込み、そっと目を閉じた。
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今日の大学の講義は、ほとんど数学の講義であった。経済学部でも基本的に高校で習う数Ⅲぐらいはできないといけない。今回の講義では、基本的に高校の授業の復習からであったため特に問題もなく進めることができた。隣では、悟が必死こいて問題を解いていた。
「お前やっぱりすげえな。全部できたんだよな。」
「まあ、このぐらいは高校で習っただろ。」
「いや、難しいと思うぞ。俺なんてこんなんだし…」
そう言って悟は自分の解答用紙を見せてきたが、綺麗なほどに真っ白な紙であった。
「お前。よくこの大学入れたな。」
「それは、まあ。運だけはあるからね。」
そう彼は言いながら問題に立ち向かっていた。僕は、早く終わり提出も終わったため、早めに教室を出て悟が終わるまでに調べ物をしようと図書館へ向かった。
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図書館に到着し、学生証を提示し中に入っていった。
なぜ、図書館で調べ物をしようと思ったかというと、課題をするためではなく噂について調べようと思ったからである。
「新聞、新聞っと。」
大学の図書館になっているがどの大学よりも大規模であるため、ない本がないと言われるほど有名である。調べ物をすればほとんどの確率で見つけることができる。
僕は、今年から7年前までの新聞を自殺谷をキーワードに調べていった。
そうすると、4件の記事に行き着いた。僕は忘れないようにメモをとった。一部、損傷がありメモできなかった部分があった。
メモ
1件目:2020年2月10日に大森谷にて飛び降りる人の姿を見たと通報があった。雪が多く降っていたため、すぐに捜索することは難しかったため、12日にて遺体の確認を行った。死亡者は、斎戒大学経済学部の早乙女翔。早乙女翔は、インターハイ優勝経験のある短距離専門の陸上選手だった。死亡時の姿は、頭部に落下による損傷があった。死因は、高いところから飛び降りたことで起きた頭部外傷である。死因時に雪が降るほど冷えていたため、凍死に近い形で見つかった。動物などによって食べられたのか下肢の欠損が見られた。
同大学の同級生からは、日々憂鬱な気分で生活していたらしい。時々、いないはずの友人の名前を挙げており、周囲からは不思議がられていたという報告がある。
2件目:2021年12月5日にて、大森谷にて遺体が見つかった。死亡者は、斎戒大学経済学部の佐城みみ。バレーの選手で多くの注目を集めていた。死因は、頭部外傷で凍死に近い形で見つかった。発見時は、上肢の両側の欠損が見られた。これ以上の情報は新聞が切れていたためメモできなかった。
3件目:2021年5月24日にて、大森谷にて遺体が見つかった。死亡者は、斎戒大学経済学部の伊藤雪美。大学での人間関係の辛さから飛び降りたと言われている。発見時は、頭部に大きな外傷があったもののそのほかに特記すべきことはなかった。右上肢の欠損が見られていたが、何かに食べられた跡があり動物の仕業として考えたらしい。
4件目:2022年4月29日にて、大森谷にて遺体が見つかった。死亡者は、斎戒大学経済学部の一条渉。高校で一番注目されていたサッカー選手である。1件目と同様に同級生にいないはずの友人の話ばかりしていたらしい。これ以上の情報は新聞が切れていたためメモできなかったが小さな紙切れに「…頭部に外傷はなく凍死したと考えている。胴体の欠損…他殺」とそれ以外は分からなかった。
メモを書き終わるとちょうど数学の講義が終わる時間に近づいてきた。
(そろそろ悟も終わったことかな。)
そう思い教室に戻り悟を待った。その瞬間に横から悟に声をかけられた。
「待っててくれてありがとな、孟。じゃあ、帰るか。」
そう言って彼についていく形で駅に向かった。
帰り道で悟は意味のないことばかり言って、僕のことを笑わせてきた。
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家に帰りいつものルーティンを行いほっと一息していると図書館で調べたものを再度確認しようと思い、鞄からメモを取り出した。少し考えるために、声に出しながら整理をしていった。
「整理すると、自殺谷での事件は今から3年前に4件起きていることになるよな。そのうち2件が同じ年に起きているのか…」
「次に共通点を整理すると、頭部外傷、斎戒大学の経済学部。凍死、体の一部の欠損は、3件目以外には共通していそうだな。」
「1、4件目に関しては、経済学部の噂に関わるような出来事の記載がされてるんだよな。凍死して体の一部がなくなっているっていうのも怖い話だな。」
「オカルト的に考えると、ある幽霊に近い経済学部生が新一年生として入った経済学部生と関わり、自殺に追い込む。その幽霊は凍死と体の一部を奪っていく。ってことになるのか。」
「でも………」
そう言いながら、深く考えているとガタガタとアパートの窓が震え始めた。4月ではあるが冬並みに寒い日であり天候も悪かったため、風かと思い窓を確認すると白いもやもやしたものが見えた気がした。そして、窓をじっくり見ると自殺谷が見えていた。
(まさか、窓から見えたのか。)
そう思っていたら、谷の上の方から何かが落ちるのが目に見えた。
「えっ??」
その瞬間、ゾッと背筋に寒気を感じた。気配を感じ後ろを振り向くが何もいない。
(気のせいか。流石に、通報はしないとだよな…)
そう思い、警察に今日のことを報告した。後日に確認すると言われ切られた。
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翌日に警察から連絡があったが自殺谷で遺体は見つからなかった。
僕の勘違いだったらしい。
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