第7話:契約成立
「……?」
ユウは辺りを見回した。
こんな地下深くの穴に、自分以外の人間がいるのだろうか。
だが、周囲には誰の気配もない。
その代わり、再び声が聞こえた。
『周りじゃねぇーよ。こっちだ、こっち』
「…………?」
さらにキョロキョロと周囲を見回すユウ。
『ニブい奴だな。こっちだっつってんだろ』
「……………………」
ユウはまず、自分の耳を疑った。
次に頭を疑った。
そして、わけが分からないという表情で拾った剣を見つめる。
ユウの耳も頭もおかしくなければ――
――声は確かに、この剣から聞こえた。
◇ ◇ ◇
ユウはしばらく剣を凝視し、またしばらく迷ったあと、そっと剣に耳を近付ける。
『そうだよ!! 俺様が喋ってんだよ!!』
「うわぁっ!」
耳元から聞こえた怒鳴り声に驚いたユウは、思わず剣を取り落とした。
『あっ! 大事に扱えこの馬鹿!! 俺様に傷が付いたらどうする!!』
「け、け、けけ、剣が喋ったっ!?」
抗議の声を上げる謎の剣に構わず、ユウは後ずさりする。
この世界には数々の不思議な力を持つ道具や武具――いわゆる、マジックアイテムと呼ばれるものが存在していることはユウも知っている。
だが、喋る剣などというマジックアイテムは聞いたこともない。
ひょっとして、邪悪な魔剣とかの類では――?
『……お前、どうせ俺様が魔剣か何かだと思ってんだろ』
ギクッ。
「い、いやいやいや! そんなことは!!」
『図星の反応じゃねえか。はーぁ』
剣がため息を吐いた……吐く息などないはずなのに。
『……まあいい。それよりお前、俺様を拾ったな? いや、拾えたんだよな?』
「え? あ、はい。まぁ……」
すぐに取り落としたが。
『じゃあ契約成立だ。お前は今後一生、俺様の所有物になる』
「……は?」
この剣、いきなり何を言い出すんだ?
ユウは内心でそう思いながら、困惑の表情で剣を見つめる。
「あ、あの……ちょっと何を言っているのか分かりませんし、僕が、その……あなた? の所有物っていうのも意味不明です」
剣にあなたと言うのは自分が初めてだろうな、と考えながらユウはできるだけ丁寧にそう言った。
『分からなくてもいいんだよ。どうせ契約は結ばれたんだから』
「いや、そう言われても……」
『じゃあ、分かりやすく言ってやろうか? お前はこれからずっと死ぬまで、俺様の奴隷だ』
「ど、奴隷……!?」
突然の奴隷宣告に仰天するユウ。
(い、意味が分からなすぎる……!)
たまたま落ちていた剣を拾っただけなのに、いきなりその剣に奴隷扱いされるとは誰も夢にも思わないだろう。
これ以上この剣と関わったらもっと面倒なことになる。
そう直感したユウは、覚悟を決めて剣に近付き、丁重に拾い上げる。
『お? 自分の運命を受け入れたか。殊勝なことだな――』
そしてユウは迷うことなく。
「そぉい!」
ブゥゥン!!
「おおおおおおおおおおおおぉい!?」
剣を全力で投げ飛ばした。
剣を拾っただけなのに 冬藤 師走(とうどう しわす) @shiwasu8
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