第5話:ポイズンリザード

「ぐっ……くそぉっ……」

誰もいない森の中で、うめき声を漏らすユウ。

自分は今までずっと騙され、都合よく利用され続けていた。

ギルバルトのことは許せなかったが、それ以上にあんな人物を愚直に信じてしまっていた自分を許せなかった。

「う、うううっ……!!」

人目もはばからず、ユウは嗚咽おえつした。人の目など、この森にあるわけないのだが。


しばらく泣いたあと、ユウは深呼吸して気持ちを落ち着けた。そして、これからのことを考える。

(とにかく……足をなんとかしないと)

折れた状態のままにはしておけない。まずは添え木か何かで固定しなければ、動くこともままならないだろう。

ちょうど手の届くところに手頃な枝が落ちているのを見つけた。

それを拾って具合を確かめたあと、ユウは自分の折れた足を真っすぐにして枝を添える。

「うっ……」

気絶するかと思うくらい痛かったが、ユウはなんとか身にまとっていたマントを外して枝を足ごと巻き付け、折れた部分が動かないように固定した。そして足をかばいながら立ち上がる。

「……うん。大丈夫そうだ」

これでひとまず歩くことはできる。次はどうするか。

(街に戻る? いや、今はもう夕方だ。下手に動いて暗くなったら本格的に迷っちゃいそうだ)

今日は帰還を目指すのではなく、一夜を過ごせる場所を探そう。そこで野宿して、明るくなったら帰るのが良いだろう。

ユウはそう判断し、とにかく安全そうな場所を見つけることにした。


◇ ◇ ◇


移動を開始して、一時間も経っただろうか。日が段々と傾き始め、空に赤みが増していく。

ユウがいくら必死に歩いても野宿できそうな場所はおろか、一時的に身を隠せそうなところすら見つけられなかった。

折れた足を引きずり続けたせいで、今や骨折した部分はドス青く変色している。仮に街へ無事に戻れたとしても、果たして元のように治るのかとユウは不安になった。

(……弱気になるな。きっと大丈夫。早く野宿できそうなところを――)

その時、ガサリという音が鳴った。

ビクッ! と身を強張らせて、ユウは息を殺して音がしたほうを見る。

「……!」


数メートル先に、ポイズンリザードがいた。何の因果かユウが【イプシロキア】に入るきっかけとなったDランクの魔物だ。

まずい、とユウは思った。万全の状態であれば、二年前とは違って倒せていたかもしれない。だが、今は足を負傷している。機動力が削がれた状態では、流石に倒せないだろう。ひょっとしたら今度こそ本当に食べられてしまうかもしれない。

幸い、ポイズンリザードはユウに気付いていない様子で、呑気に穴を掘っている。土の中の小動物を食べようとしているらしい。


気付くな。

ユウは必死に願った。そのまま気付かないでくれ。そしてどこかに行ってしまえ――


バタタタッ!!

ユウの背後で何かが走り去っていった。

子鹿である。ユウと同じように近くにいたポイズンリザードに気付いて息を潜め続け、相手が油断している隙に逃げ去ったのだ。

幸運にも、近くに手負いのおとりがいたおかげで子鹿は助かった。

しかし、囮のほうにとっては不運でしかない。


絶体絶命。

ポイズンリザードが、ユウの顔を見て舌なめずりした。

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