第3話:ユウ、追放
ユウが【イプシロキア】の一員となってから二年間。
彼は雑用係として、それはもうこき使われまくった。
炊事、洗濯、荷物持ちは当たり前。時にはギルバルトや他のパーティメンバーの無茶な要望に応えるために
だが、二年間でユウがギルバルトから稽古を付けてもらったことは一度もなかった。まだユウの基礎体力が十分ではないから、今は依頼を優先しなければならないから、今日は疲れてるから、気が乗らないから……などなど。何かと理由を付けて、ギルバルトはユウを鍛えようとしなかったのだ。
やがて、ユウは稽古のことをギルバルトへ言わなくなった。その話を出す度にギルバルトが不機嫌になり、時には暴力を振るわれることさえあったからだ。
それでも、ユウは愚直に信じ続けた。いつかギルバルトは修業の相手をしてくれるだろう、と。そしていつの日か自分もギルバルトのように強くなれるのだ、と……
そして、運命の日が訪れた。
それは、Cランクの魔獣討伐依頼のためにカルディラ近郊のとある森を訪れていた日のことである。【イプシロキア】はSランクパーティであるはずなのに、どういうわけか低~中ランクの依頼を受けて日銭を稼ぐことが多かった。
「ユウ、今日は大事な話がある」
いつになく真剣な面持ちでギルバルトがユウに話しかけた。
その表情を見て、ついに修業が始まるのかとユウは思ったのだが……
「お前には、今日この時をもってパーティを抜けてもらう」
「ええっ!?」
突然の思いもよらない言葉に、ユウは驚きの声を上げた。
「ど、どうしてですかギルバルトさん⁉ いきなり抜けてもらうだなんて……!」
「この二年間、お前に見込みがあると思ってパーティに置いといてやってたが……はっきり言う。お前には才能がない」
「そ、そんな……!?」
まさか、自分は知らないうちに冒険者としてギルバルトにテストされていたのか。
そして今日になってギルバルトはユウの才能に見切りを付けたのか……ユウはそんなことを考えたが、実際はそうではなかった。
「そう。お前には雑用係としての才能がまったくないんだ!」
高らかに宣言するギルバルト。
一方のユウは、その言葉に思わずきょとんとしてしまった。
「ざ、雑用係の才能……ですか?」
「ああ。もう我慢の限界だ。これを見ろ!」
ギルバルトはそう言って、手に持っていた布を広げてみせた。
それは【イプシロキア】のパーティメンバー、ビアンキという魔法使いの女性がいつも就寝用に使っている絹のシーツだった。
「今朝、ビアンキから苦情が来たんだよ! このシーツが汚れてるってな!! ほら見ろ、ここ!」
ギルバルトがシーツの端にある小さな染みを指差す。おそらくここ数日の野営中のどこかで泥が付着して、染み込んでしまったのだろう。
洗濯はユウの仕事であったからミスは謝罪すべきかもしれない。だが、この時ばかりは流石のユウにも言い分はあった。
「こ、この近くは川がありませんし、水場がなければたとえ『洗浄魔法』を使っても完璧に綺麗にするのは無理なんです!」
ビアンキのシーツは数日に一度、汗や恋人であるギルバルトの体液で汚れることがある。その度に洗濯を押し付けられていたユウは、『洗浄魔法』という生活魔法の一種を用いて綺麗にしていたのだが、井戸や川といった水場の近くでないと『洗浄魔法』は十全に効果を発揮できないのだ。
それでもユウは可能な限りシーツの汚れを取り除いた。だというのに、小さな染み一つでクビを宣告されるのは納得が行かない。
だが、ユウはそれ以上文句を言わず、代わりにギルバルトへこう言った。
「染みはこれから綺麗にします。だからパーティにいさせてくれませんか?」
「駄目だ」
だが、返答はすげないものだった。
「お願いします! だってまだ、稽古も付けてもらってないのに……!」
ここでパーティを追い出されたら、自分の二年間は一体何だったのか。
せめて一回でもギルバルトに稽古を付けてもらわなければ、これまでの日々が完全に無駄になってしまう。
そう考え、ユウは必死に懇願した。
だが……
「稽古? なんの話だ、そりゃ」
ギルバルトは、約束を覚えてなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます