第2話:駆け出し冒険者、ユウ

大英雄はいかにして誕生したのか。

話は一週間前にさかのぼる――


◇ ◇ ◇


ユウ・エイトライヴズはどこにでもいるような二十歳の青年で、駆け出しの冒険者であった。

城塞王国アークレスト……ではなく、その周辺国の一つカルディラが治める小さな農村の生まれである。彼は幼い頃から村の外の世界を見たいと思い続け、十八歳を迎えたことを期になんのあてもなく村を飛び出した。そして冒険者――ギルドからの依頼をこなして日銭を稼ぐ職業――となる道を選んだのである。


ユウは村では一番の剣術の使い手だった。また、魔法も多少ではあるが使えた。十五歳の頃には、村の畑を荒らす魔物であるワイルドボアを退治したこともある。ワイルドボアは最低レベルのFランクの魔物ではあったが、まだ若い少年が自信を付け、冒険者を志すようになるには十分な体験だった。


だが、現実は非常である。

ユウに才能が皆無だったというわけではない。人並みの素質はあったのだが、それだけだった。

ともかく、ユウは最初の冒険で盛大につまずいた。


ろくな計画もなくカルディラ王都を訪れたあと、ユウは冒険者ギルドに登録。勢いそのままDランクの魔物であるポイズンリザードの討伐依頼を受注した。

結果は散々なものだった。ユウが全力で振り降ろした剣はポイズンリザードの固いうろこはじかれて折れてしまった。続いて魔力を振り絞って自慢の炎魔法を放ったが、これもまったく効かなかった。ポイズンリザードは高い炎耐性を持つ――冒険者の間では常識だったが、田舎者のユウがそんなことを知る由もない。

事前に用意していた毒消しも全て使い切り、絶体絶命。このままユウがポイズンリザードに食われることは時間の問題かと思われた――


――Sランク冒険者パーティ【】がその場を通りがかったのは、少なくともその時のユウにとっては幸運な出来事だった。

【イプシロキア】のリーダー、ギルバルトはポイズンリザードに襲われている冒険者の影を見ると、すぐさま駆け出して魔物を一刀両断。そして、爽やかな笑みを浮かべてユウに近付いた。

「危ないところだったね、キミ。大丈――チッ。なんだ、男かよ」

「ハァ、ハァ・……え?」

必死に息を整えていたユウには、ギルバルトが最後に何を言ったかまでは聞こえなかった。

「なんでもねぇ。まあ、運よく俺に助けてもらったことに感謝してさっさと帰れ。ほら」

しっしっと手を振るギルバルト。

ユウの若い自尊心は粉々に打ち砕かれた。だが、その代わりに芽生えた感情もあった。

ユウはよろよろと立ち上がると、ギルバルトに向かって深く頭を下げる。

「あ、あの! 助けていただいてありがとうございました! よければ、僕をあなたの弟子にしてくれませんか!?」

「はぁ? 弟子ぃ?」

「あなたの強さに惚れ込みました! どうか、僕を鍛えてください!!」

そのままユウは土下座をした。

ギルバルトは面倒くさそうにユウの後頭部を見下ろしていたが、やがて思い直したような顔をする。

「……そこまで言うなら仕方ねぇ、お前を俺の弟子にしてやる。なんならパーティにも入れてやろう」

「本当ですか!?」

ガバッと頭を上げるユウ。だが、ギルバルトは「ただし」と付け加える。

「お前にはしばらく雑用係として働いてもらう。ちょうど前の身代みがわ――じゃなくてメンバーが困ってたんだよな。で、暇な時にでも稽古を付けてやるよ。それでいいか?」

「は、はい! ぜひ!!」

「決まりだ」ギルバルトはニヤリと笑った。「俺の名はギルバルト。お前は?」

「ゆ、ユウです! よろしくお願いいたします!」


こうして、駆け出し冒険者のユウはいきなりSランク冒険者が率いるSランクパーティの一員となることができた。

……それが不幸の第一歩となることも知らずに。

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