001 生贄にされるは少女
巨大な大陸の最東端にある小さな小さな集落では生来、魔術を持つ【
いや、守られていたと言うにはやや語弊がある。集落と大蛇は共生関係にあったのだ。
集落は四半年に一度、うら若き純潔の乙女を大蛇に捧げ、その対価として集落を守護して貰っていた。
そんな生贄にまた一人少女が選ばれた。
白羽の矢が立ったのはまだ8つの少女で、身を清め、この集落にしては綺麗な衣装に身を包んでいた。
少女は集落の大人に連れられ大蛇の祭壇まで鬱蒼とした森の中を歩かせられる。
普段、激しい運動などしないので、肌には汗がダラダラと流れていた。
折角清めた体もこれでは意味なしである。
しかし、そんな事に気も止めず集落の大人たちは奥へ奥へと進んで行き、遂に祭壇に到着した。
そこで少女は両腕を縄と言うにはお粗末な紐で縛られ集落の大人たちは祝詞を読むなどの儀式をした後、森を引き返し帰っていった。
そして少女は思う。
私はこれから死ぬのだろうと。
8歳ながら子供も成熟しなければならず、長老ですら三十代が多いこの時代では現代に比べると比較的達観した考えを持っている子供が多かった。
背後より何かが這う様な音が聞こえる。
枝が割れ、草が潰れ、枯れ葉が砕ける音。
自由に動く首を後ろに向ければそこには巨大な蛇がいた。
【
その巨体ゆえ、既に蛇の隠密性は大きな意味を持たず、質量と魔術で敵を屠ってきたのだろう。
舌を出しシュルシュルと鳴き声を発しながらゆっくりと着実に大蛇は近づいてきた。
そして蛇の頭が顔に一尺ほどの距離になった時、何処からともなく声が聞こえた。
『なあ。聞こえるか?』
『すまないが、俺に目も耳も無いもんでそっちの話を聞かないのは悪いんだけどよ。』
『お前に力をやる。その対価として未来に出ずる異形の化け物、そうだな、あれは魔神とでも言うべき存在だったか?』
『兎も角、そいつを倒す事を誓ってくれ。』
『そうすりゃ今お前の目の前にいるそいつに喰われて死ぬ事もない。どうだ?お前はそのまま死にたいか?それとも生きたいか?』
『生きるための力が欲しかったら契約に同意しろ。対価として果たすことはして貰うが俺の記憶と知識と力を授ける。』
不思議な声だ。
誰もいないのに、頭に直接声が聞こえる。
もしかしたらこの声の主人はカミサマかもしれない。
マジンが何かわからないしケイヤクもなんだかよく分からないけど、確かに私は死にたくない。けれど集落の生贄たる私が生き残ってしまっていいのだろうか?
でも、何故だか、
「誓います」
そう、言ってしまったんだ。
『おっしゃ契約成立だ。』
『今ここに契約の魔術は施行された汝は未来に異界より出る魔神を倒す事を誓った。故に我は対価を差し出そう。対価は我が魂に宿る全て。記憶、知識、力は全て何時のものとなる。』
すると私の体が光り大蛇はやや警戒を見せる。そして流れ込んでくる記憶の濁流。
齢八歳の大した蓄積のない脳に二十年分の膨大な知識と記憶。そして、根源に宿る力。
確かに今の私には既に大蛇に喰われることはないだろう。こいつを殺してしまっては村に被害が出る事も、私が逃げればコイツが村を襲うだろう事もわかる。
でも、どうせ私を殺して自分達の安全を守ろうとした人達だから。
私は大蛇の首を刎ねた。
下級魔術【水刃】である。
高圧高速の水に細かな粒子を含むこの魔術は物理法則に伴って大蛇の首を一刀両断した。
それは別れ。
そして始まり。
時の大魔術師から時の力と未来の記憶を託され何れ現れる魔神の討伐を掲げる少女の物語。
不老の魔女は今日も今日とて旅をする。
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