不老の魔女の旅

pengin114

000 未来から

人が惑星の頂点に立ち技術を高めより良い世界を作っていく。


既に争いはなく、あるのは平和な日常。

そんな日常はある日突然破られた。


宙に亀裂が入り空間魔法の【裂空】を使ったかの様な黒い穴から強大な異形が現れた。


それが一度叫ぶと嵐が起こり地が揺れ津波が起きた。


たった一度、たった一度の叫びで何万人の命が潰えたのだろう。既に家屋は倒壊し、陸は海に呑まれ、人が空へ巻き上げられている。


そんな以上事態に素早く対応したのは魔法や魔術を身につけた魔法師や魔術師達であった。


彼らは魔法や魔術で身を守り、魔法および魔術で反撃に出た。

宙に飛び交うは焔に氷に隕石に雷。


一切の統一性が無い魔法、魔術が偉業に向かって飛んでゆく。


そして再び異形は吠えた。


ひとたび叫べば嵐と津波と地震が起き、ふたたび吠えれば途轍もない光と音と衝撃を周囲へと振り撒いた。


応戦していた彼らは殆どの例外なく目が焼け耳が破れ原型を留めなかった。天変地異が起きる中、空間隔離系の結界で何とか攻撃を凌いだ魔術師がいた。


その結界は彼が張ったものではなく彼の師匠が貼ったものだ。師匠は先程の攻撃で目を焼かれ耳が破れ体は内臓はぐちゃぐちゃになっていた。


それでも尚、浮遊の魔術を維持し彼に言う。


「あれは今の私達でどうにかなる存在ではない。だが、お前の固有魔術で遠い昔から対策が出来ればその限りではない。意志を繋げ!命を繋げ!例えこの未来が消えるとしてもだ。」


そう言い残して彼女は地に落ちた。

最後の気力で維持していた【浮遊魔術フロート】の効力が切れたのだ。


彼は空から地上を俯瞰する。

宙に現れたソレは大陸の如き大きさで、その叫びで惑星の大半は壊滅的な被害を被った。


見る限りまともな居住区は残っておらず在るのは瓦礫。数十秒で起きた惨劇は現実感を伴わない。僅か、僅か数十秒でここまで荒廃した世界になるのかと。


彼は怒りに燃えた。

自分の力ではどうすることもできないその無力感と不甲斐なさに怒りを覚えた。


でも、今は出来なくても。

未来過去では出来ないとは限らない。

未だ、使ったことの無い魔術。


世界の時間の向きをマイナスに変える魔術。

一度ひとたび使えば現在から過去に向かって時間が進んでいく。


マイナスに変えること自体の難易度はそれほど高くない。魔術や魔法は法則を操る術であり法であるからして。


困難を極めるのは魂の保護。

今日日きょうびの惨劇と意志と命を繋ぐために魂は必要不可欠なのだ。


時間の流れに逆らう大魔術。

魂もまた世界の一部のため、保護し切れても真の過去に戻る訳ではない。


それでも、こんな風に世界が終わって良いはずがない!


彼は師匠が残した結界の中で着々と魔術を構築していく。かねてより魔術陣そのものは理論として完成していた。


実際に使うのは初めてで理論上の魔術である。そして、この魔術を使えば自分は死ぬことになる。


肉体という世界の一部を保護すれば過去に大きな齟齬が生まれてしまう。

魂であればごく僅かな差だが肉体は流石に無視できないほどの差になってしまう。


魂だけになっても過去の適性のあるものに自分の記憶と知識と力を継承する。

未来の我々の身勝手で過去のものに迷惑をかけることになる事は申し訳なく思う。


しかし、もはやそれに頼るしかなかった。


魔法陣の構築が終わる。


「【時間逆行タイムリバース】」


斯くして時は逆転する。

世界は逆再生に流れてゆく。


死した人間が蘇り、赤子へと返ってゆく。

宙の亀裂も遡る様に消えていった。

文明は次第に退行していく。


そして3000年が経った頃、魂に刻まれた魔術が発動する。


それは先と同じ【時間逆行タイムリバース】の魔術であった。

戻すだけでは宇宙の始まりに戻るだけであるからして、予め時限式の魔術を彼は刻んでいたのだ。


果たして時の流れは正常に戻った。

逆行して情報の更新が出来ない世界から記憶や思考が出来る世界へとなった。


彼の魂も長き眠りから覚め過去に戻ったことを気づき目的のため適性のある人物を探し始めた。

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