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前世のかなわなかった子育てが、終わりを迎えた事は、本人は本能的に理解したらしい。
女は長い、長いため息をつくと、だが観念した様子だった。
「先生、私、そろそろ子離れしなくちゃね」
大きなため息のあと、覚悟を決めたようにそう、例のごとく明るくニコニコと笑う顔は、悲しみは見えたが、清々したような、ハレバレとした笑顔だった。
「そうよ。次は新しい彼氏の相談を聞きたい所だわ。あなたまだまだ綺麗なんだから、こんな所でぐずぐずしてないで、はやくいい男と恋愛しなさいよ」
ミシェルはそう、口の悪いエールを送った。
この女の、長い、長い、春が終わったのだ。
ミシェルには、ぼんやりと、とてもかわいがってくれている叔母様とそのご主人の元で、幸せに甘やかされている女の姿が見えた。本来は、お金持ちの家の娘らしい。この素直な明るさは、そんな所からきているのだろう。
その後、顔はみえなかったが、少し年を重ねた男の隣で、相変わらずニコニコしている女の姿も。
女も少し年を重ねていたが、今のように、幼い雰囲気は消えて、大人の落ち着いた雰囲気をまとっていた。
おそらく、次の出会いで、この女は、幸せにしてくれる男性と出会うのだろう。
カロンに送られて、女は何度も礼を言うと、帰っていった。
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「すごいね!ミシェル、本当にあの人、ミシェルの事ありがたがってたよ!」
パタパタと、女を門まで送ってから、大急ぎで帰ってきたカロンは大興奮だ。
「よかったわ、カロン。大体こっちの悩みも、元いた世界の悩みも、似たようなものらしいから、なんとか、相談にのれそうだわ」
ミシェルはやっと、この離れで部屋着に着替えてゆっくりとカロンにお茶のお代わりをいれてもらった。
男と女の事は、どうやらこの世界でも同じらしい。
ちなみに、この部屋着から小物から、なにから全部、カロンにお願いして用意してもらったもの。
いつまでもべそべそと、ベアトリーチェを恋しがって、身一つで異世界から連れてきてしまった、ミシェルの身の回りのものなど用意する事すら、ダンテの頭にはなかったらしい。
ベアトリーチェの為には、ほんの小さな綿棒のような小物ですら、最高級のものを漏れなく用意するようなこまやかな心があるのに、だ。本当に鬱陶しい男だ。
少なくともちゃんとカロンに、身の回りを整えるものの金くらいだしやがれ、とミシェルに怒鳴られて、お金をゆすられてようやく気が付いたらしい。
「ねえミシェル、占いの鑑定料を預かってきたよ!」
この天使のような気の利く坊やがいなければ、ミシェルはいまごろ着の身着のままで、ダンテの事を恨み倒しながら、飼い殺しにされていただろう。
その上鑑定料まで預かってきたとは。なんという天使。
「ありがとうカロン!」
つかれてソファに寝そべっていたミシェルは、お金ときいてうっきうきだ。
「え、カロン、でも鑑定料金とかまだ決めてないし、この世界のお金の基準がわからないんだけど・・」
「大丈夫だよ、ミシェル。さっきのオーザっていう人にそう説明したんだけどさ、どうやら占いが趣味らしくて、あちこちの占いに行ってるんだって。それで相場を聞いたら銀貨7枚くらいっていうんだけど、ミシェルの占いはとても当たるから、金貨1枚がいいよって、教えてくれたんだ、それで、ほら」
カロンが見せてくれたのは、金色に光る硬貨。これが金貨、らしい。
「銀貨10枚で金貨一枚になるよ。大銅貨10枚で銀貨一枚だ。小銅貨10枚で、大銅貨1枚だよ」
金貨一枚が、どのくらいの価値かはよくわからないが、どうやら上の位のお金らしい。
「ちなみにさ、この国で、普通のパンを一人分買ったら、どのくらい?」
「ええと、お店によるけど、平民のパンなら大銅貨3枚くらいかな。貴族の店で買うと、銀貨1枚くらいだよ」
なるほど。
じゃあざっくり考えて、毎日一人の相談にのれば、生きていくには問題なさそうだ。
じゃあさきほどの女の人の提案通り、金貨一枚が、ミシェルの鑑定料金だ。
次の客がいつくるかはわからないが、とりあえず金貨をもらって気が大きくなった。
このかわいいカロンに、この一月のお礼もしたい。そろそろこの町の様子も、きちんと見てみたい。
「カロン、このお金で、お祝いしましょう、何かおいしいものでも一緒に食べましょう!」
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