第23話
そこは数百人が収容できる古いホール。
オークションクラブが所有する建物の一つらしく、表向きは演劇や合唱コンクール用の舞台。裏では人や臓器や武器や盗品を売り捌く格式高い犯罪者者の集会場となる。
今日は瀟赦学園選りすぐりの犯罪者たちがここに集結する。
舞台袖は舞台の眩しい灯りのせいで相対的に暗く見え、僕の手元や足元はまるで視認できない。
正装のスタッフがインカムに叫びながら激しく行き交う。何重にも重なる声のせいで、それは正しく聞き取れないけれど、これは要は『学生主催の大きな催し』である――開場前に慌ただしく調整するのは治安が悪いからではなく、経験の絶対数が足りない若年者だからだろう。
荷台に乗せられた革張りの椅子、そこに座らされている。手首には淡い光を放つスリングで繋がる重い手錠、きついくらい椅子と胴に巻かれた鎖も幾何学な模様が浮かんでは消えていく特注品だった。
僕の周囲には他の商品が積み上げ、並べられている。
現代のオークションにおいて、こうして実物を競るときに見せることはほとんどないと聞くが、それはこの部活のこだわりだろう。
権威を示す。
オークションクラブを除く上位九つの部活は商品の入札金額で表す。
オークションクラブは威厳ある祭りで表す。
そんなところだろうか。
「緊張していますか?」
罵倒と叱咤に混ざって、やけに落ち着いた声が隣から聞こえた。
「あなたは突然現れるのが好きですね」
「驚きませんか。私、登場時に見せる皆さまの引きつった表情が大好きなのですが、ちょっぴり残念」
彼は商品が入っているはずの古い木箱に座り、両足をパタパタと揺らしている。
首は動かさず、視線をそちらに向けると、細い目を更に細めて手を振った。
「緊まり張ることなんてないです。僕はただ座って買い主が決まるのを待つだけなので」
「素晴らしい!やはりあなたは人が出来ている、全く売られ向きなお方だ」
にこにこ。
軽薄な笑みを浮かべ、心にもない賞賛――心ない賞賛を浴びせる。
「ああ、そう」
思い出した振りをして、球磨川さんは本題を切り出す。
「やはり本物の砂糖丸なんていませんでしたよ。彼女は隠れるのが上手いらしい、おかげさまで私は影武者を売りに出さねばならない。心苦しいです」
「影武者?僕が正真正銘砂糖丸ですが。僕の名を騙る人が現れるなんて……可哀想に、いない人を探すは苦労したでしょう」
「ええ、そう言いますよね。あなたが偽物であるならそう言わざるを得ない、楽しいお話でした」
彼は箱から飛び降りて、足を地に付け、両手をポケットに突っこんだまま振り返る。
「そろそろ開場です。覚悟しておいてくださいね」
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