第22話
夕食時を過ぎて夜に差し掛かった時間。
点々と光る街灯と車道走る自動車のライトが見慣れた通学路を抜き取り映す、それ以外はまるで見覚えのない風景だ。
「あのとき振りの景色かな」
砂糖を雇い遊んだ日のことを思い出して、あれはデートと言っていいのか、初心故の悩みにまた顔を赤くした。
両手で通学鞄を持ち、四角奈はいつもより歩幅狭く早く歩く。
焦る気持ちを行動で消化したところで、気持ちが収まることはない。
この世界に引き入れたのは自分だ。こんな事態になったのは多少なりとも責任がある。
蓄積する苛立ちを解消方法が分からず、それは歩みに分かり綾空く現れた。
横から人の気配がする。
振り向くことなく、一歩引いて、複数人が通り過ぎるのを待つ。
「こんな探し方で見つかんのか?というか見つけたんじゃないのかよ」
「知らねえよ!けど球磨川の野郎が急に言い出したんだから従うしかねえだろ」
柄の悪い複数の不良。この学園において不良は大抵裏部活に関わりを持つ。
球磨川とはオークションクラブの長の名前だったはず。まだ誰かを探しているのか、侮蔑を含ませながら彼女はそんなことを考えて、
「まさか砂糖丸に影武者がいたとはな」
彼女は横行く不良の目の前に立ち、鞄をその場に落とした。
瞳からは殺気が漏れ出ている。
「その話お聞かせ願えますか」
「……確かな情報筋から砂糖丸は女性と聞いているのに、捕らえた砂糖丸は男だったと。それは変だね」
「は、はひ。はので、俺らひたっぱが探すようひまれまして……」
顔が倍くらいに膨れ上がった不良は歩道に正座して、四角奈に正直に答える。
すっかり彼は怯え、周りにはかつて不良だった者たちが倒れていた。
四角奈は口元に手を当て考える。
これは嘘だ。
砂糖は間違いなく男性で、影武者を用意したという話も聞いたことがない。
いち裏部活が人員を割いてまで探す、ということは向こうはこれをある程度信ぴょう性のある情報だと思っているということ。
情報源と流布の方法までは分からない。
「チャンスだね」
「へ?」
「なんでもない。今日起きたことは誰にも言わないこと、私はもう行くから」
「もひろんです!姉さんのこと誰にも言ひません!」
トラウマの跡が見える彼はぺこぺこと頭を下げて、四角奈が歩き出すまで平身低頭を貫いた。
電話が鳴る。
四角奈のブレザーのポケットがバイブレーションで揺れた。
見知らぬ番号に体が強張り、警戒しつつ通話を繋ぐ。
「はい、四角奈です」
『翡翠だ』
「なんだ先輩でしたか。何か御用ですか?」
緊張を解いて、あからさまにトーンを上げる。
『単刀直入に言う。砂糖救出の件、俺にやれることはないか』
「やれること、ですか?」
『あいつが捕まったのは俺のせいだ。責任は俺にあるのに、今の立場でやれることは少ない。どんなに危険な事でも、恐ろしい事でもやる。頼む』
「そんなことはない」そう言い切ることができなかった。
自分に責任の一端があるように、彼も多少背負うべき十字架はあってしかるべきである。
おべっかでも、彼女はそんなこと言えない。
「……知ってますか。砂糖丸は女の子だそうです」
『は?いやあいつは男だろ』
「オークションクラブは影武者を捕らえ、本物を捜索中だそうです。これ、使えませんか?」
四角奈遠回しな提案に受話器の向こうでは、ぶつぶつと乗せるつもりのない独り言を翡翠は呟く。
『やりようはありそうだ。なんとかしてみる』
「はい、応援してます。きっと成功しますよ」
『貴様もな。絶対に、あいつを助け出すぞ』
電話は翡翠から切れる。
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