第2話 魔法少女のマスコット獣はきっとメタファー

 怪獣が現れた日から世界は変わった。あの日怪獣以外にもいろんな人類に敵対的存在が地球のあっちこっちを襲ったらしい。世界各国の軍隊は多大なる犠牲を払いこれらを撃破。一応の平和を取り戻した。とここまではいいのだが。


「どうせまたなんか来るんじゃねぇの?」


 そう考えてんのは多分俺だけではないだろう。偉い人たちだってきっと考えている。まあそんなのどうでもいい。それよりもやっぱり担任のムチムチムチエロエロエロ先生が家に来て学校に行こうって言ってくるのがウザい。ウザいけどよくよく考えたら世界はもしかしたら明日にも終わるかもしれないのだ。美矛相手にまだリベンジをかましていない。学校に行った方が良いような気がしてきた。それで今度こそ飛び降りからの一生メンタルクリニック通いに放り込んでやるのだ。あと気がついたら一人称が俺の方が普通だと思ったので、これからは一人称俺で生きていこうと思ったのであった。





 やってきた学校。生徒たちのテンションは不自然だった。わざと明るく振舞っている。そんな感じに見えた。そういう状況で俺が久しぶりに学校へ来るとどうなるのか。


「YO!酷薄すぎる嘘告白!俺の企み皆微笑み!お前はボッチ!俺らはリッチ!」


「キャー!幸野谷くんのラップ素敵ー!」


 ディスってくるのはそれはそれでいいんだけど、むしろこのテンションの痛々しさは一体何?とは言えどもクラス全体がグルーブ感に包まれて俺にディスリスペクトでアゲ♂アゲ♂だとクラスにいるのがいたたまれないYO!俺はクラスから保健室に逃げたのである。






 保健室と言えばラブコメなら男女が寸止め青春ラッキースケベをする場所だし、エロマンガならビッチなJKまたは保険医が童貞を食う場所である。あいにく俺の人生はハードボイルド復讐劇なのでそんな素敵イベントは起きない。おっさんの保険医に気持ち悪いからと言ったらベットを貸してくれた。俺はベットに横たわりスマホを弄る。例の怪獣退治の動画が世間には出回っていた。だけど俺の顔が鮮明に映っているものはない。ネットでは特定班が頑張っているが俺に辿り着くことはないだろう。


「失礼します。すみません調子が悪いのでお休みさせてください」


 可愛らしい女子の声が聞こえる。そして俺の隣のベットに女子が横たわったのを感じた。


「うう。やっぱりああいう想念が渦巻く空間には慣れないかなぁ」


「仕方ないボキ!アマハは魔法少女になったから人間の出す感情エネルギーに敏感になったボキ!とくにアマハはおっぱいが大きいから男子のエナジーをあつめやすいボキ!」


 ボキ?簿記?母機?ん?それより気になったのは魔法少女とか言うクソ単語である。最近の覇権アニメに魔法少女はなかったはず。というか女子の声だけでなく、なんかやたらとイケボな声でボキボキ言ってるのが死ぬほど気になる。もしかしてカップルがヤってるのかな?やってたらセンコーにチクって退学させて八つ当たりしようと思って、俺はカーテンをそーっとめくって隣のベットを覗く。そこにはベットに横たわるおっぱいのでかい地味だけど眼鏡とったら100%美少女な女の子と、お腹の出た小汚い狸みたいなちっさな謎の生き物がいたボキ!はぁ?え?なに?


「でもやっぱり納得いかないよ。感情エネルギーをいっぱい集めると強くなれるってわたしみたいな陰キャじゃ無理だよぅ。人選間違ってるよ…」


「そんなことないボキ!陽キャなだけで顔がいまいちの女子よりも陰キャだけどおっぱいが大きくて顔も可愛いアマハみたいな子の方がバズりやすいからすぐに強くなれるボキ!」


 その意見は一理も二理もわかる。


「でもいくら何でも第二ボタンまで開けるなんてやっぱり無理だったよ…」


「たるんでるボキよ!あの程度で感情エネルギーを集めるのに躊躇していたら世界を守れないボキ!」


「ううっ。でもエッチなことはやりたくないよぅ…」


「この間はたまたま他の誰かが倒してくれたボキ。でも今度怪獣が出たらアマハが戦うしかないボキ!今のうちに感情エネルギーを集めるボキ!ほらこっちを向くボキ!」


 小汚い狸?はスマホをおっぱいのデカい少女に向ける。少女は嫌そうな顔をしながらシャツのボタンを開けてブラを晒し、スカートを捲ってパンツをちらりと見せる。顔は掌で目元だけ隠している。ちなみにパンツとブラの色はピンクだよ!


「いいボキ!素晴らしい感情エネルギーがネットから集まってきたボキよ!」


「うう…恥ずかしいよぅ。もういやぁ…」


 この時。俺の頭の中で色々なものがフル回転した。このおっぱい女を飼い慣らせば、いざってときに俺が怪獣と戦うことにならずに済むのでは?と。


「チェストーーーーーーーーーーーーーー!!」


 俺は叫びながら隣のベットのカーテンを開ける。


「きゃ?!だ、だれ?!」


「貴様!アマハの感情エネルギーを集めるのを邪魔するなんて世界を滅ぼす悪い奴ボキ?!」


「そうボキ。俺は世界なんてどうでもいいボキ!って語尾が移った!死を持って償えぇい!!」


 俺は最強無双チート能力で謎の狸?をぶん殴る。拳が当たった瞬間狸は血の霧と化してこの世から消滅した。持っていたスマホがベットに落ちる。すぐにそれを拾い上げて、俺はおっぱい女の写真をアップしていたアカウントを削除した。


「え?ヌッキーが死んじゃった?!うそ!え?」


「え?あの狸ヌッキーって名前なの?名前からしてもうクソすぎやろ」


 ボキ!ヌッキー!うーん!下半身っぽい意味で中二っぽい!きっと魔法少女がもつ男性的心理のメタファー的存在だったんだろう。ということにしておく。


「おい。おっぱい女。俺に向かって言うべきことがあるんじゃないのか?」


「え?!えーっと。え、むしろこの状況何を言えばいいの?!相棒殺されてるんだけどわたし!」


「あれは相棒ではない。お前を性的に搾取する女衒の類だ。現代風に言えば風俗スカウトみたいなもんだ。目を覚ませぇ!本当はこんなことやりたくなかったんだろう?!だけど世界のためだとか人類のためだとかと脅されて他に出来る人間もいなくてまさに罪を犯してもいないのに罪悪感を植え付けられて洗脳されて流されるままに服を脱がされて辱められてたんだ!」


「でもそうしないと感情エネルギーが貯まらないって、そうしないと世界は救えないって…」


「エロなんかよりも素敵な感情がこの世界にはたくさんある。だからもう我慢しなくてもいい。お前は素敵な思い出をいっぱい重ねて感情エネルギーを貯めればいいんだ。だからもう我慢しなくていい。お前は泣いてもいいんだよ」


 俺も何言ってるのかわかんないけど、ホストのお兄さんの如く意味不明な理屈を捲し立てて怒鳴り倒せば女の子は感動して泣いちゃうって聞いたことある。


「うっ!本当にいいの!?わたしは!わたしは…!」


「ああ。もういいんだ。もう大丈夫だよ」


「ううっ。本当は嫌だったの。でもでも皆のためだから我慢してた…ううっうえええええええええええええええええええええええええんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん」


 そしておっぱいのデカい地味だけど眼鏡とったら100%美少女な女の子は俺の胸に抱き着いて泣き始める。うわちょろ。だいたいあんな変な生き物にエロ写真撮らせるんだから絶対ちょろいと思ったけどやっぱりちょろかったわ。







 おっぱいのデカい女の子が落ち着いた後、俺たちはベットに座りながら自己紹介し合った。


「わたしは笹切ささぎり天羽アマハ。魔法少女をしてます」


「僕は、じゃなかった俺は院勢見いせみ縁慈えんじ


「あ、院勢見くんって。嘘告白で屋上から飛び降りてトラックに轢かれたって噂の?」


 改めて言うととんでもなくひどいな屋上から飛び降りてトラックに轢かれたって意味不明過ぎるだろ。


「そうそうそいつ」


(そっか。じゃあ今はふりーってことなんだよね…)←小声でボソッと言ってるから普通のやつには聞こえないけど、俺みたいな最強無双チート持ちには聞こえてるぞ!


「でも院瀬見君すごいよね!ヌッキーのこと一発で倒すなんて!」


「そうだな。この世界で魔法少女のマスコットキャラを一方的に殺戮できるのは俺くらいだろうね」


 称賛が気持ちいいけど、そんなことより重要なことがある。


「あいつ殺しちゃったけど、魔法少女の力は残ってる?」


「うん!それは大丈夫みたい!変身!」


 やたらとファンシーな女子トイレで流れてそうなBGMと共に真っ裸になった笹切はくるくると艶めかしいポーズを取りながらコスチュームを纏っていく。ちなみに謎の光が突然差してきて乳首とかあそことかは見えなかった。課金すれば見れるのだろうか?いいやソシャゲーだっていくら課金してもキャラの乳首は見れないのだ。円盤を買うしかないな。


「絶対道徳の執行者!アマハ・インソムニア!!」


 髪の毛がピンク色に染まり変身した笹切は可愛らしいポーズを取っている。でも持っている武器がおっかない。彼女の手には斧が握られており、背中にはスナイパーライフルを背負っている。戦闘スタイルがわけわかんねぇよ。


(大丈夫だよね。ひかれてないよね?頭ピンクとかどう見ても痛いし、わたしなんて胸がデカいだけで他は大したことないし)


「やべぇ!超かわいい!てかマジできれいだし!こんなに美人だったなんてマジ気づかなかったわー!」


 俺はチャラ男になり切って褒め倒す。こういう自信のない陰キャは褒め殺しておけば飼い慣らせる。って自分自身の嘘告白経験からよくわかっている。


「えへへ…かわいいって言われたの初めて…」


 笹切は褒められなれてないのか、もじもじしてる。でもよかった。これで俺に変わって怪獣と戦ってくれる人材がゲットできた。世界なんてくっそどうでもいいが、美矛への復讐を果たすためにはまだ世界が続いてくれないと困る。でも俺自身は戦いたくない。そのための魔法少女である。そのあとどういう経緯で魔法少女になったのかとか、魔法少女の敵とかの話とかを笹切は話したけど、俺は全部聞き流した。代わりにきれい、かわいい、君は可愛そう、俺が何とかしてやる。その四つの単語だけで乗り切った。俺は笹切の事情に興味はない。というかどうせまた嘘告されるだろうから、信用していない。だけど可能な限りは飼い慣らして、俺の復讐劇が終わるまで世界を生き永らえさせる道具として使ってやろう。これが俺と魔法少女との出会いだった。






 次の日。学校へ来ると玄関口で笹切と遭遇した。笹切は地味でやたらと長かった前髪とかを切って、清楚系美少女にイメチェンしていた。とりあえず褒めておいた。嬉しそうにしてたので選択肢は問題なかったはず。そして俺は自分のクラスに入る。


「お前、朝、挨拶してた清楚な美少女は誰なんだよ?!あん!?」


 幸野谷がいきなり絡んできてくそウザかった。てかなに?俺のストーカーなの?なんで目撃されてるの?


「隣のクラスの女子だよ。ただの知り合い」


「はぁ?!陰キャが誰に断って可愛いこと知り合ってんだよ!このタコ!くそ!腹立つぜ!」


 幸野谷は俺の机を蹴っ飛ばして去っていった。なお美矛は今日も俺のことを視界に入れず、窓の外を見ていた。いつかぎゃふんって言わせてやる!そして授業が始まってしばらくしてからだった。突然教室に黒づくめの男たちが入ってきた。手にはM4A1が握られていた。それをそいつらは天井に向かってぶっ放した。


「この学校は俺たち怪獣至上主義連合が乗っ取った!死にたくなければ大人しくしていろ!!」


 まさかのスクールジャックイベントの発生に俺は頭を頭痛が痛くしてしまったのである。

 



****作者のひとり言****


世界なんてくそどうでもいいけど、終わってもらっては困るし、かといって自分で戦いたくないから魔法少女を飼い慣らす主人公くんのDV営業が個人的にはツボ。


次回はみんなが一度は想像したことのあるスクールハイジャックだ!


出来ればいっぱい★★★を投げていってください。




あとMF10周年コンテストに

「嫁に逃げられたおっさん」

嫁コンに

「草原の花嫁」

って作品を投稿しているので是非とも読んでみてください。




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