噓告に絶望した僕はカノジョの目の前で飛び降りてトラックに轢かれました。するとうすら剥げの自称神が最強の力をくれました!みんなは地球を守れと言ってきますが、フルシカトで滅びに臨もうと思います。

園業公起

第1話 嘘告白からのトラック『転生』♡

 縋っていたものに裏切られた時、人はどうすれば救われるんだろう?


















 それは僕が家族を失ってまだ少ししかたっていない頃だった。


院瀬見いせみ縁慈えんじくん!あなたが好きです!付き合ってください!」


 僕はその日、クラスで一番、いいや世間的に見てもすごく美人で可愛い多々羅たたら美矛みむさんに告白された。その時は衝撃で胸がいっぱいだった。だからすぐに言葉が出てこなくてぼーっとしてしまった。


「あの、えーっと駄目かな?」


 不安げな顔で多々羅さんは僕の顔色を伺う。その時考えたのは亡くした家族のことだった。たった一人だけ生き残ってしまった僕に恋人ができて幸せになるなんて許されるんだろうか?そんなことを。だけどそれ以上に多々羅さんは美しく魅力的で。僕の罪悪感はどこかへと消えてしまったのだ。


「僕でよければお付き合いします」


 無駄に敬語になったのが今思えばダサい。だけどそういう経験は初めてだったし、仕方ないんだって思いたい。


「うん!うん!よかった!これからよろしくね縁慈くん」


 多々羅さんは俺の手を両手で握って嬉しそうに笑みを浮かべてくれた。家族を失い友達もいない僕に初めて必要としてくれる人ができた。それが何よりも幸せだったんだ。

























 付き合うことは順調だったと思う。というよりも俺には経験がないのでよくわからなかったけど。放課後にデートしてみたり、頑張って手をつないでみたり、少し遠出して思い出を作ったり。多分一番甘い思い出はある日映画に行ったことだと思う。アクション映画のラストシーンでヒーローとヒロインがキスをした。そしてエンドロールに入った。劇場はまだ暗かった。


「どんな感じなのかな?」


「え?」


「さっきのほら…あれ…」


 キスのことだろう。


「わかんない。僕したことないし」


「わたしもないの」


 映画を見ていた時、俺たちの手は自然と重なっていた。そこからさらに会話をきっかけに指が絡まった。そして俺たちはキスをした。まだ暗い映画館の中で唇が重なっていたのはほんの一瞬だったと思う。そしてすぐに俺たちは席を立って映画館を出た。そのあとは何の言葉もお互いに出なかった。この後の予定とかも全部吹っ飛んでたただ他二人で手を繋いで街をうろうろしていた。そして気がついたら夜になって、彼女は門限になってしまって手が離れた。だけどその日はさようならするまで彼女は笑顔だった。それはよく覚えている。













 それから少しもたたないうちにそれは起きてしまった。俺と美矛の付き合いがちょうど一か月になった頃だ。


「クラスのみんなー!見てくれー!青春の記念ってやつを!!」


 クラスのリーダー格の幸野谷こうのや陽太はるたが休み時間、教卓の前にノートパソコンを広げて動画を流し始めた。


『僕で良ければお付き合いします』


 そこには告白された瞬間の僕と美矛が映っている。あの瞬間が撮られていた。そのことにショックを受けた。だけどそれは序章に過ぎなかった。


「僕で良ければwwwwくっそうけるしwwwww」


 そして動画は続く。それは僕と美矛のデート風景を盗撮したものだった。


「うへぇみてよ!必死に手つなごうとしてるしwwwwきも!ぎゃははは!」


 それは他人から見たら確かに気持ち悪い行為なのかもしれない。だけど僕はその時、本当に必死に頑張ってたんだ。


「まあ幸せな一か月だったよねぇ。まあお手々繋げてデートできただけでもしあわせだよねぇwww」


 幸野谷はとてつもなく卑しい笑みを浮かべながら僕に向かって言った。


「美矛がした告白。嘘だから。俺が仕組んだどっきり。残念でしたー!ぎゃははは!」


 告白が嘘?そんなの信じられない。僕は付き合って幸せだったし、彼女も笑っていたはずだった。僕は縋る様に美矛に顔を向けた。美矛はただただ静かに顔を伏せていた。僕と目を合わせようとしない。


「美矛?嘘だよね?」


「…嘘じゃないよ。嘘告白は嘘じゃないの」


 美矛はそう言った。その瞬間クラスは爆笑に包まれた。


「まあいい思い出は作れたんじゃね?これもさぁクラスメイトを思う俺たちの優しさなのよ。お前って家族いないんだって?事故って死んじゃったとか。だからさぁ俺たちはお前に立ち直ってほしかったわけよ!こんな美人と一か月だけでもデートはできたわけじゃん!しあわせいっぱいで家族が死んじゃったことだって忘れられたんじゃね?だろ?な?楽しかっただろ?ん?」


 体が震え続ける。怒り屈辱悲しさ何もかもがないまぜになったような震え。そのあとのことはよく覚えていない。普通に授業を受けて。普通に家に帰ったんだと思う。









 なんでしあわせは一瞬にして壊れてしまうんだろう。僕はベットの中でそれだけをずっと考えていた。家族もいない友達もいない僕は弱い。弱いから嘘告白のターゲットになって心をボロボロにされた。家族の死さえもクラスメイト達にエンターテイメントとして消費された。僕にとっては唯一の家族なのに。その死さえも僕が弱かったから他人の玩具にされてしまった。そして家族が死んでからずっとこの世界を幽鬼の如く彷徨い生きていた僕は美矛の存在に縋った。彼女がいれば辛くたって生きていけた。また幸せになれると信じたんだ。そのあとの僕は頭が真っ白になった。何も考えられなかった。ただただ弱い自分を呪った。そして他者に縋りついたことを恥じた。それは間違いだったんだ。だったら裁かなければいけない。そう裁くのだ。救ってくれる振りをした偶像を僕は呪うのだ。一生消えない傷を負わせてやる。そう誓った。







 次の日。ひそひそ声と共に登校した。そして教室について、クスクス笑われながら席に着く。美矛は先に来ていたけど僕に目を向けずずっと外を眺めていた。その後しばらくは静かに過ごした。昼休みになってから僕は教室を出て美矛にメッセージを送った。


『屋上に来て』


 今どきの学校は屋上に入れない。だけど僕には関係ない。僕はドアノブを思い切り蹴っ飛ばしてドアを破壊して屋上に出た。そして美矛を待った。彼女はすぐにやってきた。


「話って何?こんなところに呼ぶってことは大事なことなんだよね?」


「話?そんなことするために読んだ覚えはないよ」


 僕は美矛の言葉をぴしゃりと拒絶した。美矛は悲しそうな顔をした。


「あのね。私はね。その…」


 美矛は手を伸ばして僕の方に近づいてくる。だけど僕はその手を払いのけて彼女の胸倉をつかんで足を引っかけてその場に倒す。


「きゃ!?…すごくおこってるんだよね。でもね。聞いて。わたしは」


「お前の話を聞くために呼んだわけじゃないっていったよね?」


 僕はフェンスを昇る。そしてフェンスの反対側に降りる。


「何してるの?!やめて!!」


「そこで見てろ。一生傷つけ」


 僕はそこから中庭に向かって飛び降りた。


「いやあああああああああああああああああ!!!あああああああああああああああああああああああああ!!」


 美矛の悲鳴が響く。だけどもう知ったことじゃない。一生引きづる心の傷を負って、メンクリ通いで人生台無しにすればいい。それしか考えてなかった。だけど。


「ぶべ?!」


 僕は地面に落ちる途中で中庭に生えている木の枝にぶつかった。それがよくなかった。そこで衝撃は吸収されてしまったようだ。そのまま地面に落ちたけど、反射的に両足で着地できてしまったのだ。少し足が痺れるけど生き延びてしまった。


「ええ…何これぇ…」


 突然中庭に現れた僕に周りの生徒たちが驚いている。そしてふっと気になって上を見ると美矛がフェンスに掴まってボロボロと大粒の涙を流しながら泣いていた。だけどまだ生きている僕をみて嬉しそうに笑ったのだ。なんでそんな顔をする?そんな顔をするくらいなら最初からなんで僕を傷つけようとしたんだ。どす黒い感情が僕の胸に渦巻く。その時だった。


「きゃああああ!中庭にトラックだわ?!」


「しかも運転手寝てるぞ!?やばい!」


 僕の目に大型トラックの姿が見える。いやここ校舎の中庭だぞ?!トラックが入ってこれるスペースとかないんだけど?!そしてトラックは僕の方に向かって猛スピードで迫ってきて。


「ぶはぁ?!」


 僕はトラックに跳ね飛ばされた。体にすさまじい衝撃が走り、そして校舎に体を叩きつけられる。さらに駄目押しにトラックは校舎に叩きつけられた僕の体を押しつぶすように突っ込んできた。凄まじい痛みを感じた後、僕の意識はそこで真っ暗になった。




















 死後の世界にはちょっと期待している。だって家族に会えるはずだから。だけどこの何もない真っ白な空間で目の前にいるのはうすら禿げたおっさんが一人。


「わしは神じゃ。すまんのう。こちらの手違いで本来ならば今日死ぬはずじゃなかった運命のお主を死なせてしまったのじゃ」


「何処から突っ込んでいいのかわかんねぇようすら禿げ」


 まず神なる存在がうすら禿げで自分の髪の毛もふさふさにできない無能らしいということ。でもそれは重要じゃない。


「手違いもくそも僕は死ぬ気満々で飛び降りたんだけど」


「じゃが木に引っかかったろう?」


「まあひっかかったけどね」


「そのあとトラックで轢かれてしまうはずではなかったのじゃ。こちらの手違いでトラックに轢かれて死ぬことになってしまった。大変遺憾に思っておるのじゃ」


「ロリでもないくせにのじゃのじゃうるせえんだよ!うすら禿げ!だいたい手違いもくそも物理的にトラックが入ってこれない中庭にトラックがいた理由がわけわかんねぇよ!」


「手違いじゃ」


「手違いなんて言葉で押し切るな!仮にトラックを中庭に入れられる能力がお前にあるなら間違いなく作為だろうが!!」


「でもお主は死ぬつもりだったんだんじゃろう?」


「うっ。それを言われるとツッコミ辛くなる。…まあいいよもうこの際手違いでも何でも。天国でも地獄でもなんでもいいけど死後の世界やってるっていうなら家族に会わせてくれよ」


 死んだというならせめてそれくらいのご褒美は欲しい。


「すまんのう。手違いで家族には会わせられんのじゃ。かわりに最強無双チート能力を与えてやるぞい!」


 手違いって言葉便利すぎじゃない?


「はぁ。はいはい。もういいよ。異世界転生ってやつなのね。好きにしてくれよ」


「ふむ。今度の人生は楽しむんじゃぞ!」


「そんな気分になれねぇよ。じゃあばいばい」


 そしてなんかしゅわーって感じで空間は切れて僕は『転生』したのである。















 目を覚ました。赤ん坊スタートか、果たして転生ではなく転移か。


「先生!患者が目を覚ましました!!」


「なにぃ!奇跡だ?!奇跡が起きた?!」


 目をきょろきょろと動かすと周りには手術着を着た医者や看護師が沢山いた。転生しとらんやんけぇ…これも手違いで押し切るのかな?もうどうでもいい。あれはきっと俺の妄想だったんだ。俺はベットからむくりと起き上がる。


「そんな?!君は体が動かせるのか?!」


「あんたが治したんじゃねぇのかよ」


「いや。運ばれた時点でほぼミンチ状態で手遅れで、とりあえずアリバイ作りであっちこっちを繋げただけんなんだけど」


「医者がそれ言う?医療過誤で訴えるぞ。でも治ってるのかぁ…もういいや。どうでもいい」


 体には痛みもないし痺れとかもない、動かないとかそういうことも全くなかった。元気である。


「元気そうだし!一般病棟に移ろうか!」


「ノリが適当…どうでもいい…」


 そして一般病棟に移った。一応面会謝絶だが、スマホは弄っても良かったので暇つぶしは出来た。そして二三日して退院させられた。









 退院後僕は学校に登校しないで、ひきこもり生活に突入した。ムチムチエロエロな格好の担任とかがやってきて学校に行くように説得されたけど、丁重にお断りした。本来の僕は死んだはずの人間である。うすら禿げの手違いでこの世にゾンビの如く残っているだけの抜け殻でしかない。一日中何もすることなくぼーっとするだけの日々。明らかにメンタル病んでる気がするけどそれもどうでもよかった。


「買い物行くのだるい。でも飯食わないと死ぬ。やった。死ねる。でも餓死は辛そうだからやめよう」


 どうせ死ぬならこんどこそ美矛に消えない傷を負わせないと気が済まない。しぶしぶ僕は家の外に出る。その時だ。スマホから災害時の時の警報音が鳴り響く。


「地震?…なにこれ?」


 地震警報とか洪水とかではなく、そこには怪獣警報と出ていた。


「なにこれ?バカなの?ハッキングでもされた?」


 僕は燻しがってネットを開く。僕以外にも怪獣警報を怪しんでいるネット民はいっぱいいた。だけど動画サイトの政府広報チャンネルがニュースサイトにアップされた時、僕は起きている事態に衝撃を受けた。


「本日東京湾から怪獣らしきものが横浜に上陸しました。現在自衛隊が対処を行っております。また在日米軍の出動も検討されており…」


 リンクにある動画をみるとマジで怪獣が横浜で暴れている動画が出回っていた。


--え?怪獣ってマジ?

--どうやらマジらしい。

--テレビが避難勧告一色になったんだけど(;´・ω・)

--自衛隊の友人からマジで出動命令が出てる連絡あった。

--いやでも怪獣はなくない?ダンジョンとかじゃなくて怪獣?

--今怪獣にころされれば異世界ワンチャン?


 ネットは怪獣騒動で大混乱だ。だけどこんな状況で僕に出来ることなんてあるはずがない。だけどその時思い出してしまった。うすら禿げから最強無双チート能力を僕は貰っていることを。


「いや。あれはゆめゆめゆめ。夢に決まってる」


 だけど医者も言っていた。ほぼミンチ状態だったのに僕は回復したと。そしてよくよく考えると、僕んちって横浜から目と鼻の先なんだよね。


「あーめんどくさい。もういいや。死のう!」


 僕は横浜目指して走り出す。途中逃げ惑う人々の群れとかに遭遇したけど、それでも走った。警察の検問もスルーして道路を走った。というかいまさらだけど僕は車と同じくらいの速度で走ってんだけど?


「でも関係ないよね!死のう!」


 とうとう自衛隊が陣地を張っている場所に辿り着いた。戦車はひきりなしに大砲を撃ち続けているし、戦闘機はミサイルを引きりなしに討ち続けている。海の戦艦からもミサイルがガンガン飛んですべてが怪獣にヒットしたが、それでも怪獣は無傷だった。


「もう考えるのめんどくさい!うおおおおおおおおおお!死なせろぉおおおおおお!」


 僕は自衛隊の陣地を超えてがれきの街を怪獣に向かって走る。走った勢いそのままにジャンプして怪獣の頭に向かって飛ぶ。そして。


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaa....』


 俺は怪獣の額に頭突きするようにぶつかった。すると僕の額は怪獣の額にどんどんめり込んでいき、そのまま怪獣の額をぶち破り、頭を貫通してそのまま外へと飛び出した。


「うそぉ…マジかよ…」


 俺に貫かれて頭がぐちゃぐちゃになった怪獣はその場に崩れ落ちた。どうやら死んでしまったらしい。そして僕は勢いそのままに海に落ちる。そしてそのまま沈んでいく。このまま海の中で流されていけば死ねるのか?いや無理だ。僕は確信した。確かに僕には最強無双チート能力が宿っていることに。だけどさ。それでなにすれってのよ?怪獣殺してなんになるのか?それで僕の壊れたしあわせが帰ってくるとでもいうのか?役に立たねぇなチート能力。リセマラできない?できませんか。禿げ運営じゃきっと補償の対象外だ。こうしてお僕は多分世界最強の存在として生まれ変わってしまったのである。何の目的もないままに…。


















***作者のひとり言***



定期的に気分が沈むことがあって。そういう時にこうやってお話が出来たりすることがあります。




よかったら

MFのコンテストに出してる

『嫁に逃げられたおっさん』

とか

嫁コンに出してる

『草原の花嫁』


とか読んであげてください。



あと★★★とかフォローとかいっぱいください。


よろしくお願いします。

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