八輪
たとえば国が滅んでも、時代がどれだけ変わっても。
僕だけは変わらず君を愛し続けると誓うよ。
この愛の証に君に毎日、美しい薔薇を捧げよう。
君は僕を信じて、待っていて。
今は二人結ばれることは無いけれど。次の世でこそ幸せになろう。
だから信じて、目を閉じて。
彼女はこっくりうなずいて、それからうっとり夢を見る。
世界を次に、この瞳に映すのは百年後。
彼が私にそっと口づけてくれたら。
小さくて弱いこの国の王家の姫と生まれたばかりに、恋のひとつも自由に出来ない、人の世の窮屈な呪いは解けるの。
そうして、きっちり百年後。
眠りの姫は目を覚ます。
百年前の美しい姿と、夢見る心をそのままに。約束通りの口づけで。見知らぬ男の口づけで。
驚いて辺りを見回す眠り姫。
部屋中におびただしい数の薔薇の花。壁にも床にもびっしりと敷き詰められている。
しかし、それは全部が全部、乾いて朽ちて果てていた。
張り巡らされた蜘蛛の巣と、積もった埃の白さが語る。
もう永い間、ここには誰も来ていなかったのだと。
たとえば国が滅んでも、どれだけ時代が変わっても。
僕だけは君を愛し続けると思っていたよ。
変わらぬ愛の証に、捧げた薔薇が枯れるたび、美しい姿で眠り続ける君と、僕との時間が遠くなる。僕の心も揺らいで変わる。
僕を信じて、待っている?
君は今でも本当に、僕の言葉を覚えてる?
最初に変わってしまったものは、国でも、時代でもなく彼の心だった。
五十年。何もかもに疲れはて、その髪がすべて銀色へと変わる頃、彼は涙のひとつも流すことなく、愛した彼女に別れを告げた。
姫を起こした見知らぬ男は、遠い国の王子様であるという。
姫の心も知らぬまま、王子は今しがた起きた奇跡を前に、興奮冷めやらぬまま、語りだす。
「あの魔法使いの言った通りであった」
彼の話によれば、醜く老いた魔法使いに導かれて、ここへ辿り着いたという。
「棘の城には百年眠り続けた美しい姫がいる。私でなければ誰でも良い。口づけて、目を覚まさせてあげてくれ」
永遠に変わらない愛なんて、この世界には無いのだ、と。
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