七輪
むかしむかしのおとぎ話。
世界には白の国と黒の国の二つしかありませんでした。
朝が来れば、光に照らされ白い色。白の国の人たちが起き出します。
夜が来れば、闇に飲まれて黒い色。黒の国の人たちが起き出します。
二つの国は隣同士にありましたが、けれどけっして交わることはありませんでした。
白の国の人たちには黒い色は見えず、黒の国の人たちには白い色が見えなかったからです。
見えないものは、はじめから無いものと同じこと。
二つの国の間には、争いも、友好も、良いも、悪いも、何もかも。一切のすべてが、起こることはありませんでした。
それから互いに互いを知らぬままに、数百年の時が流れた頃。
この世界の神さまが、隣り合う二つの国を見下ろして、そしてたいそう驚きました。
それからひとつ、けっして消えない七色の虹を空に架けると、満足してどこかへと去って行ったのです。
さて、その不思議な虹は「他の色が見えるようになる」という奇跡をもたらしました。
ですから、白の国の人たちは黒い色があることを知り、黒の国の人たちは白い色があることを知ったのです。
「すぐ隣に、こんなに頼もしい人々が、とても優しそうな人々が、住んでいたなんて驚いた。今日はなんと嬉しい日だろう」
「二つの国の良いところを教えあって、悪いところをわけ合おう」
白黒二つの国の王さまは、固い握手を交わして、それぞれ国の民に向かって言いました。
「皆の者よ、さあ、神に感謝を。虹の色にちなんでこれから七日間、国をあげて盛大にこの奇跡を喜ぼう」
そうして人々は、朝夜問わずに飲んで、食べて、歌い、踊って、語らいあって。夢のような七日間を過ごしたのです。
けれども心の中で誰もが思っていました。
「どうして突然、神さまは互いの色を見えるようにしてくださったのだろう?」
そのわけは八日目に皆が皆、知ることになりました。
何者にも区別なく、白黒つけない美しい日々が終りを告げて、夜明けがやって来ました。
すると、どうしたことでしょう。
朝陽と共にあの虹が消えてしまったのです。
消えた虹の向こうの空を見上げて、人々はやっと気がついたのです。
「ああ、そうか。神さまは互いの国の友好のために、我々に色を与えたのでなく…」
皆が皆、目を白黒させて、そうしてさあっと青ざめました。
誰彼かまわず抱きあって、泣いて震えて後悔しましたが、もう手遅れでした。
白い国と黒い国。二つの国をぐるりと囲むようにして、空に届くほど背の高い、赤い竜、青い竜、黄色い竜に、緑の竜、それから紫色の怪物が、涎を垂らして、こちらを見下ろしていたのでした。
「白の国と黒の国。七日間、化物たちとの間に消えない結界を張った。今頃、彼らは脅威から逃れて、私に感謝して祭でも開いている頃だろう」
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