五輪

春にだけ会える僕の恋人。

何年経っても相も変わらず、おんなじ場所で。

雨の日だって、風の日だって、僕を健気に待っててくれる。

けれど今年は、いつもと違うね。

どうして君は、光に透けて霞のように白い着物を纏っているの。

ああそうか。

足りなかったんだね。

分ったよ。


百年を経て異形となった一匹の大蛇。

彼が恋をしたのは、一本の桜の木。

化け物になっても所詮は蛇。

冬になると土の中、眠りにつく。

そのかわり。

春になって目覚めると、山越えをしようとする旅人達を

たくさんたくさん襲っては、その命を奪う。

残虐に残酷に。死んだ人にも、たくさんたくさんその牙を突き立てる。


なんのため?

もちろん僕の恋人が美しく赤い着物を着られるように。

白無垢なんて、可愛い君にはまだ早いもの。





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