第16話

 木々の葉がおちていった。

 アルベリアは、庭のブランコをこぎながら(空太とペトラレインにわがままをいって、作らせた代物だ……)紅葉した落ち葉をながめていた。

 遠くの山々は、黄金色にかがやき、雪で白く染まった。

 気温はさがり、風が冷たくなった。

 夜、庭を駆ける狐が、あやかしを子どもたちにみせ、おどかしたあと、樹木の影へとすがたをけした。

 遊び相手にと罠で捕獲をこころみるも、彼らはつかまえた途端、落ち葉の束にすがたをかえてしまう。

 年に一度、すずしい季節に『夕べのゆうぎ会』がひらかれる。

 子どもたちは、グループを作り、楽器を演奏したり、歌を歌ったり、おとぎ話をモチーフにした演劇を披露したりする。

 ペトラレインは、木の実をつかって、お菓子をつくる。

 お城の壊れた個所から、小鳥やフクロウ、コウモリ、リスたちが、ゆうぎ会の様子をながめている。時々、そこから入ってくる動物たちに、子どもたちは、木の実をわけあたえる。

 このお城のお姫様……アルベリアは、そんな光景を、大事そうにみつめ、ほほ笑んでいる。


 アルベリアがたおれたのは、空太と草介が出し物をしている最中であった。


 リビングにいた子どもたちは騒然としたが、ペトラレインの一喝によって、平静をとりもどした。「ゆうぎ会は終了とします。みんな、協力して後片付けをおこないなさい。おわったら、歯をみがいて眠ること」そういって、アルベリアをかかえて部屋をあとにした。

 子どもたちは、しずかな声で話し合い、それぞれ分担して、ちらかったテーブルや、仮設の簡易ステージを片付け始めた。

「今日、おいのり、どうなるのかぁ」「そりゃ……お姫様、たおれちゃったし、ないだろ」「お姫様、大丈夫だといいけど」「パイがあたったんじゃないかな? ホラ、ペトラレイン様のつくったやつだし」「えぇ……お姫様の胃袋は、鋼鉄でできてるってきいたよ? ペトラレイン様の食べ物でも、おなかこわさないんだ」


 空太は呆然と立ち尽くし、ペトラレインのきえた場所をみつめていた。


「どうした」草介が声をかけた。

「イヤ、私たちのせい※2ではないか? と」赤色のタキシードをきた空太が、心配そうにつぶやいた。

「ム?」壊れた個所から、ムクドリが一羽、とびこんできて、赤色のタキシードをきた草介の頭の上にのった。草介は木の実をひとつ手にとり、ムクドリにあたえた。

「悪夢にくわれたのかも」ムクドリの頭をなでながら、草介がいった。「心までくいつくされていなければ心配はない。無論、アイツに心があればの話だが」

「悪夢」空太は以前、アルベリアから、悪夢に苦しんでいる、ときいていた。「草介……君は、アルベリア様の悪夢の正体をしっているのか」

「オマエにもいずれわかるだろう」そこまでいうと、少女がひとり、ゴミを回収するため、草介のもとにきた。

「わぁ……鳥さんだぁ……そうちゃんの髪、巣とまちがえているのかな?」

 さらに空太は追求しようとしたが、草介の頭にのったムクドリをアイリークがさわりたいとごねだしたため、話は中断となった。


 悪夢の正体がわかったのは、その日の深夜だった。

 子どもたちが寝しずまった頃、空太は、壊れた個所から、木にとまった、白色の体毛をもつ、赤目のフクロウをみつめていた。

 彼はよく、空太のまわりをさまよい、物体の力学や構造を無視した方向に、首をねじ曲げる。

 みつめていると、混濁とした思考が、夢幻にとらわれていくような気がして、空太は好きであった。

 フクロウがふいに、月にとびあがった。

 蝋燭の火が空太のもとにちかづいてきた。

 燭台をもったペトラレイン、それから、その背後には草介もいた。

「アルベリア様がお呼びです。『祈りの間』におこしいただけますか?」







※2 私たちのせいとは……多くの読者はこんな最下部まで読まなくても物語の全容をくみ取ることができる。だが、ここまで読んでくれた善良な読者のために追記しておこう。筆者はふたりの名誉のために記述を避けていたが、ゆうぎ会において、彼らは一昔前に流行ったお笑い芸人のまねごとを行った。……が、その結果は、凄惨たるありさまであった。子どもたちは気まずそうに顔をみあわせ、なごやかであった雰囲気は、一気に凍りついた。終わった……と空太が絶望しているさなか、アルベリアは倒れたのである。空太は、自分たちの失態によって、アルベリアが気絶したのではないか? と不安になっていたのだ。

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