第2話 錬金術の下準備
次の日の休日、プロメスは馬車に揺られていた。
競箒場はこの国の中央にあり、同じく中央に仕事で通っているプロメスの定期券で来ることができる。お金のないプロメスにとってはありがたかった。
競箒は毎週休日の二日間開催されている、国に登録されている魔法使い達によるレースだ。
レースは短距離、中距離、長距離と三種類あり、それらが一日に二十レース実施されていて、一レースに魔法使いが六人から最大十六人まで走ることができる。そしてそれぞれ一着から五着まで賞金が出ており、魔法使いたちは賞金欲しさに出走するというものだ。
やがて中央に到着した馬車から降りたプロメスは真っ直ぐ競箒場へと向かう。
第一レースの時間はまだ時間があるのだが、早めに来たのには理由がある。
「へへっ、今週も勝っちゃうよ」
後頭部で一つに纏めて垂らした長い藤色の髪を揺らしながら、プロメスは競箒場に足を踏み入れる。
競箒場は大きなレース場の傍らには、レース場を一望できるレンガ造りの建物が建っている。その建物には観覧席や、飲食店などのお店、そして錬金術に必要な紙が小銅貨一枚から売ってある。
プロメスが向かうのはもちろん、錬金術に使う紙を売っている場所だ。プロメスは、今日一日の全レースの出走者の名前が載ってある紙を一枚取り、邪魔にならない隅っこで確認する。
「第一レースは十三人か……」
競箒とは、魔法使い達が賞金を争うレースだけでなく、プロメス達観客も賞金を獲得できるチャンスがある競技だ。
それはレースで魔法使い達がゴールする順番を当てるというもの。
「四、十は外せないね、あと来そうなのは……三と六、それから十三かな」
魔法使い達にはそれぞれ番号があり、その順番を当てる。
予想の仕方はこうだ。
・一着になる魔法使いを予想する単勝
・三着までに入る魔法使いを予想する複勝
・三着までに入る魔法使いを二人予想する拡大箒連
・一着と二着になる魔法使いを予想する箒連
・一着と二着になる魔法使いを順番通りに予想する箒単
・一着、二着、三着になる魔法使いを予想する三連複
・一着、二着、三着になる魔法使いを順番通りに予想する三連単
と七つの予想の仕方がある。
「金欠だからドカッと稼ぎたいんだよね!」
プロメスは備え付けの用紙に『三連複、軸四、十 紐、三、六、十三』と書く。
これは四番と十番の魔法使いが三着以内に入り、その中にあともう一人、三番、六番、十三番の魔法使いが入れば的中ということだ。
そしてその書いた紙を窓口に持っていく。窓口と言っても、レンガ造りの壁のレンガが四個抜かれた大きさの窓口だ。
その窓口にプロメスは紙と小銅貨三枚一緒に渡す。するとその窓口からプロメスが選んだ数字の書かれた小さな紙が三枚渡される。
これは箒券と言って、競箒に必要なものだ。今回のプロメスの予想は『三番、四番、十番』『四番、六番、十番』『四番、十番、十三番』の三通り、一つの組み合わせに小銅貨一枚から賭けることができ、見事的中させると配当金を得ることができる。
配当金の金額は、その組み合わせを買った人数によって倍率が変わり、買っている者が少ないほど配当金の倍率は高くなる。
それと逆で、誰もが買う組み合わせは、的中させても倍率が二倍だったりして、小銅貨一枚が小銅貨二枚になって帰ってくる程度だったりする。
「当たれば金貨一枚。当たれば金貨一枚」
今回プロメスが買った組み合わせは全て、小銅貨一枚が金貨一枚以上に変わる百倍以上倍率の組み合わせだった。
組み合わせの人気に加え、予想方法によっても倍率は変わってくる。
場合にもよるが、大体は複勝→単勝→拡大箒連→箒連→箒単→三連複→三連単の順に倍率は高くなる傾向にある。これは予想難易度の違いによるものだ。
どの予想の仕方が当たりやすいかは個人によって変わる。プロメスにとって、当てやすさと倍率の高さが丁度いいのが三連複だった。
「とりあえず支払いができるお金残して残りのレース買おっと」
とりあえず第一レースの箒券を買ったプロメスはその後、自由に使えるお金を全て使って第十レースまでの箒券を買うのだった。
堕ちる錬金術師 坂餅 @sayosvk
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