堕ちる錬金術師

坂餅

第1話 自称錬金術師の懐事情

「どうしよう……お金がない」


 今は夕刻、灯りのない部屋で、一人の女性のため息がこぼれる。


 窓から差すオレンジの光を頼りに、ささくれだった木のテーブルの上で自分の全財産を数えている。


「給料は金貨が十三枚で……家賃が金貨五枚。多めに見積もって食費が一ヶ月金貨二枚、中央までの一ヶ月の馬車の定期代に金貨三枚。あれ? なんで残っているんだろ……」


 腕を組んでムムム……と唸っている女性の名はプロメス=エテルナールこの国で働く自称錬金術師だ。


「あっ。本だ!」


 思い出したプロメスは机を叩いて立ち上がり、大量の本が積まれている場所を目指す。薄暗くてよく見えないが本の置いてある場所は分かる。


 プロメスは一番手前の本の山に置かれてある一枚の紙をぺらりと開く。


 窓辺に移動して開いた紙を確認する。


「うげっ、こんなに買ったの⁉」


 その紙は本を買った請求書だった。本好きのプロメスはよく本屋に通っており、その都度面白そうな本を買ってくるのだ。


「へへっ、まだ先月買った本も読み終えてないんだけどなあ~」


 次から次へと増えていく本になにか幸せなものを感じながら、請求書に書かれた金額を確認する。


「わーお今月もギリギリ」


 約金貨三枚分。給料がほとんど無くなった。


 プロメスには友達がおらず、休みの日は本しか読んでいないため、お金が残らなくても問題ないのだが。


「でも今読んでいる本のモデルになった場所に行きたいんだよねぇ」


 本に出てきた場所に行くにはお金が必要だ。他にも本に出てきた食べ物や、魔道具などが欲しくなった時もお金が必要だった。


「明日錬金術使うか!」


 そういった時、プロメスはいつも錬金術でお金を増やしていた。


 小銅貨一枚が金貨百枚にもなり得る、身を滅ぼしかねない錬金術――競箒きょうそうで。

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