君の背中
赤目
末長くお幸せに。
俺は彼女、
俺は瑞稀を諦めた。瑞稀は俺じゃなく、
大智は瑞稀が好きで、瑞稀は大智が好きだった。そんな二人の仲に俺が入る隙なんてもともとなかったのだ。
じゃあ俺がすることは2人の恋を後押しすること。
俺は瑞稀に背を向けて歩き出す。後ろでは瑞稀が大地に向かって進んでいるのだろう。多分、明日から2人はずっと仲良く暮らすんだ。それでいい。俺はそれを選んだ。
俺が今から話すのは、そんな俺たち3人の青春ラブストーリーだろう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「よっ、
「大智か、いいよ。でも幼馴染もいるんだけど…」
「俺は一向に構わん!」
放課後、
俺はといえば面倒くさがりで、運動音痴、勉強はできるが人とのコミュニケーションが大の苦手。対照的に大智は誰にでも優しく、スポーツ万能、社交的な性格な上、なんでもそつなくこなすオールラウンダー。
混ぜるな危険もいいとこだ。因みにこの場合、危険は俺にしかないものとする。
「いや、相手が困るかもなんだよ」
「相手って?」
「言ったろ、俺の幼馴染」
外靴に履き替えて入り口に向かう。どうやらその幼馴染は俺を待っていてくれたらしい。
「やっと来た!と…どなた?」
「紹介するよ。俺の…」
「悠介の親友の
俺の気遣いをドブに捨て、大智はニコニコと笑っている。この笑顔を見ていたらそんな小さなことはどうでも良くなってくるのだが。
「私は
瑞稀は小学生の頃からの同級生で、この子と10年の仲と言うのは俺の数少ない自慢である。
それほどまでに瑞稀は完璧だと思う。どこから見ても美人。いわゆる八方美人…意味違うか。細やかな焦茶の髪と栗色の瞳、乳洞色の肌は乾燥や日焼けを知らず、長いまつ毛は彼女の魅力を引き立てる。まさに傾国の美女だ。そして、俺が長年片思いしている子でもあった。
「悠介のこと悠くんって読んでるんだ。仲良いな。俺もゆっくんって呼んでいいか?」
「辞めろ、
「なんでちょっと卑猥なんだよ」
大智んが、ガハハと口を大きく開けながら笑う。
「大智んはさ、なんで悠くんと仲良くなったの?」
「だいちん?!」
瑞稀が早速、大智んを取り入れている。
「
「めちゃくちゃだ。誰だよ琴ちゃん」
「琴乃葉さんだから琴ちゃん」
「ネーミングセンスよ」
「
「原型どこ行った。」とツッコんでまた3人で笑う。どう見ても俺だけ不釣り合いな組み合わせだけどそれでも良かった。
そこから何度か3人で遊ぶようにもなった。遊園地に映画館、テーマパークに遊園地…遊園地ばっかだな。
最初は2人の会話を俺が繋げ、大智がボケ始めたら俺がツッコむ、それを瑞稀が笑って見てる。と言う感じだった。
でも月日を重ねていくごとに二人の仲も良くなっていった。それは良かったのだ。でもある日から俺がついて行くだけの人になった。
買い物中も二人で話し、カフェでの休憩中も俺に話は回ってこない。3人なんだし当たり前だ。と割り切れていたのは数回だけだった。
気づけば3人で遊ぶことはパタリと止んだ。でもそれは2人で遊びに行っているだけだった。そんな事実を知った時、自分を呪うほど恨んだ。
大智とはクラスで仲良くしているし、大智が休みの時は瑞稀と2人で帰ったりもした。それでもなんとなく分かるのだ。3人の時に俺が邪魔と思われていることが。
ある朝、誰かが瑞稀に告白しているのが見えた。俺は悪いと思いながらも聞き耳を立てる。
「ごめんね。私、好きな子がいるんだ」
「そっか。誰か聞いていい?」
「大智くん」
その言葉を聞いた瞬間、俺は校門を飛び出て走り出した。行く当てなんてどこにもない。何がしたいかも分からない。ただ、俺の何年も温め続けた恋は冷めることも報われることもなく
その数週間後のバレンタインデー。瑞稀は大智を呼んでチョコを渡していた。大智は大喜びしながら俺に伝えてきた。正直、大智じゃなかったら手が出ていたと思う。
何ヶ月も経てば受け入れざる終えなくなり、俺は意を決して大智に聞いた。
「大智ってさ、瑞稀のことどう思う?」
「どう思うって……好きだよ…」
「それはラブだな?」
大智は頬を染めてこくりと頷いた。もともと俺と瑞稀なんて釣り合ってなかった。高嶺の花もいいとこだ。そんな俺がどうこうしたいだなんて馬鹿げてる。俺は自分の感情を押し殺した。
「応援してる」
「いいのかよ…悠介はそれで、」
「いいさ、自分の想いを伝えてそれで良かったって思えるほど俺は大人じゃない。大人になって飲みに行く時に話のネタとして温めとくよ」
「お前、本当にいい奴な」
次の週末、俺は2人を連れ出して大自然の山まで来ていた。ここは恋に落ちると言うことで恋愛の聖地とされる絶景の景色だ。それでも山と言うことだけあって貸切状態だけど。
恋に『落ちる』と崖から『落ちる』で掛かっているらしい。俺は多分、『浮かれている奴ら』と『落ちて浮かんだ』も掛かっていると思う。
「なぁ、大智、夕暮れ、ここで告白しろ」
「なんで…」
「俺が保証してやる。お前は絶対にOKを貰える。最悪フラれたら俺が付き合ってあげるし」
「なんの罰ゲームだよ。そうだな。悠介が言うんだから間違いないよな」
ブォッと強い風が吹き抜ける。にかっと笑った大智は涙目で、決意を固くしたように見えた。
「大智、ちょっとスマホ貸してくれ。充電切れてさ、充電中なんだけど急用思い出して」
「あぁ、良いぞ」
俺は大智からスマホを受け取る。
「–−−−」
…………、、
夕暮れ、崖の先端に立てば、真っ赤な太陽が円を描いて輝いて見える。普通なら地平線に隠れてこんな綺麗な風景は見れない。
「ねぇ、悠くん、大智くんに呼ばれてるんだけど、ここ居なかった?」
「大智は今、部屋だろ。どうしてだ?」
「言って良いのかな…?大智くんに話があるって…」
「おっ、遂にか」
頬を夕陽色に染める瑞稀。きっと大智も俺の言葉を胸に瑞稀が来るのを待ってるはずだ。あとは俺が瑞稀の背中を押してやるだけ。
「遂にって…」
「もう分かってるだろ。後は瑞稀が大智の方に行けば良いんだよ」
耳まで真っ赤にしてる辺り、この先の展開が瑞稀にも分かっているのだろう。普通に考えたら俺だって友達と幼馴染、2人が幸せになるんだ。願ったり叶ったりだろう。
「悠くん、ありがとっ、でもやっぱりちょっと怖いな…」
「瑞稀、これ見てみろ」
「何?」
「夕陽だ。綺麗だろ」
俺の言葉を繰り返すように、俺の隣に来た瑞稀は「キレイ…」と呟く。君の方がキレイだよって言うのは俺の役目じゃねぇな。
「ありがとうっ、勇気貰えたっ!」
「そっか」
そうして俺は、グッと瑞稀の背中を押した。あぁ、末長くお幸せに……
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
《解説》
ハッピーエンドルート……『背中を押す』を比喩表現として捉える
バッドエンドルート……『背中を押す』をそのままの意味で捉える
君の背中 赤目 @akame55194
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