第18話 牢獄襲撃

 ったく、あんのクソガキぃ……とんでもない事考えるな。


 明朝。オレたちレジスタンスは全員でアマルティアにある地下道を進んでいた。

 あれから作戦会議をしたのだが、あのユベルという男、とても6歳とは思えない。


 ここ、アマルティアという場所を根底から覆そうとしている。

 そして、この場に居る全員が結託しなければ出来ない事を提案してきやがった。

 オレの側にやってきた仲間の一人が心配そうに声を掛けてくる。


「あの、リーダー。本気でやるんですか? こ、こんな作戦、俺たちレジスタンスにはかなり厳しくないっすか? やっぱり騙されてるんじゃ……」

「分かってねぇな。この作戦で一番つれぇのはクソガキと嬢ちゃんだ」


 どうやら仲間ではレジスタンスが一番厳しいと思っているのが大半であるらしい。

 確かに、オレたちレジスタンスがやるべき事は一つ。


 ヴァルテン牢獄へと繋がる地下通路を使い、牢獄を襲撃。それから鍵を使って囚人を解放後、出来るだけこっちに目を惹かせる為に大暴れする事。

 そして、牢獄にたんまり溜めてある武器たちを全て、外に出す、という役割だ。


 オレたちは己の身体で戦うだけで済むが、この作戦の要はクソガキと嬢ちゃんだ。


 クソガキは言い放った。


『この作戦は俺とエステルが要だ。むしろ、それで良いんだよ』

『どうしてそう思う?』

『これから先の世界は俺たちで作っていくからだ』

『私も大丈夫。やれるよ。ううん、絶対にやる!! だって、ユベルくんが信じてくれるから』


 真っ直ぐな目で二人ともこの作戦に懸けてやがった。

 何だかんだいって、根性の座った二人だと思う。


 これから先の世界、か。


 オレは足を進めながら考える。


 確かに、オレたちはそんな事考えていなかったかもしれない。

 オレたちの原動力はアマルティア家への憎悪。それだけだ。ただ、奴等を惨たらしく殺す事が出来れば、それで良い。


 でも、ユベルはその先を本気で見据えてやがる。その為に、ここ全体を戦火に包み込むつもりだ。


 それが正しいか、間違いか。なんて誰にも分からないだろう。


 むしろ、過ちなんだとオレは思う。


 あいつは両親を殺す。子として最低最悪の事だ。それによって掛かる精神的負担は大きい事だろう。そして、嬢ちゃんは凄惨な光景を見せ付けられる事になるだろう。

 アマルティアに、この地に対するとてつもない憎悪を見せ付けられる事になるだろう。

 

 それでも二人をそれを真正面から受け止めようとしている。


 本当に生意気なクソガキ共だ。

 オレは軽く仲間の胸を叩く。


「オレたちを何だと思ってんだ? この地に反逆するレジスタンスだぜ? 暴れ回るだけさ。いつも通りにな。おい!!! てめぇら!!」


 地下道を抜け、牢獄へと繋がる扉に到着する。

 その前でオレは後ろを見た。そこにはオレと同じバンダナを巻いた同士たちが立っている。

 そいつらの顔は疑念と困惑が見え隠れしている。まぁ、当たり前だ。


 所詮はクソガキの立てた作戦、オレの指示とは言え、納得できない部分はあるだろう。


 でも、それは鉄火場では命取りだ。オレは叫ぶ。


「てめぇら!! この作戦は正直、バカだ!! オレにも理解できねぇし、理解に苦しむ!! でもな、オレたちの目的は何一つ変わっちゃいねぇ!!」


 そうだ、最初から何一つ変わらない。


 あの恥辱と屈辱、絶望に塗れた日々を忘れた事は無かった。


 オレは両足を地面に突き立て、声を張り上げる。


「アマルティア家への復讐!! それこそがオレたちの生きる目的!! 戦う理由、そうだろ!!」

『っ……』

「だったら、てめぇら!! ここでいっちょ奴等に一泡吹かせてやろうぜ!! オレたちの憎しみはこんなもんじゃねぇって!! 見せ付けてやろうぜ!!」

『オオオオオオオオオオオオオオッ!!』


 怒声にも近しい歓声が起こる。それは地下道全体を揺らす程であり、オレの側に居るメイドも目を丸くしている。

 そう、こいつもまた作戦の要、だったな。オレはメイドに声を掛ける。


「おい、メイド」

「は、はい!?」

「この作戦はてめぇの立ち位置によっても変わる。本当に大丈夫なんだな?」

「はい。決して、ユベル様は皆さんを裏切りません。大丈夫です。武器は全てエステル様に送ります」

「分かった。こっからは二つに部隊を分ける!! 片方は武器庫を狙い、武器を回収し、所定のポイントまで運べ!! もう一つは全力で暴れまわって、囚人を解放するぞ!!」


 その声と同時に統率の取れた動きで部隊が二つに分かれる。

 さあ、先陣を切るのはオレたち。襲撃部隊だ。


 オレはメイドに声を掛ける。


「そっちは任せる」

「は、はいッ!! あ、あの……ご武運を」

「……ああ、行くぞ、てめぇら!! 全員――ぶっ殺せぇぇぇえええええッ!!」



 その声をと同時にオレは扉を蹴破り、突撃する。

 この地下道が通じているのは地下室にある拷問部屋だ。


 誰もいない拷問部屋を抜け、一気に階段を駆け上がっていく。

 

「各階で看守を皆殺しにして、囚人を解放しろッ!!」

「何だ!? 何事だ!!」

「襲撃ッ!! 襲撃だッ!!」

「何だと!? アレは、レジスタンスッ!!」


 それぞれの部隊が階段からフロアへと散っていく中、オレだけは単身で最上階を目指す。

 そこの囚人たちを解放し、看守たちをぶちのめす。それがオレの仕事だ。

 

「なっ!? パルマだと!?」

「死ねぇええええッ!!」


 立ち塞がる看守を皆殺しにしながら、オレは驀進する。

 返り血を浴びようが関係ない。このフロアにいる看守を全員、ぶっ殺す。


「お、おい!! つ、お、応援、応援を呼べ!!」

「だ、ダメです!! 他のフロアも襲撃されています!!」

「騎士団に応援要請!! 速くし――」

「何、呼ぼうとしてんだよ!!」


 応援を呼ぼうと背中を向けた看守の背中を剣で突き刺す。

 それと同時に力なく看守は倒れ、オレに向けられる恐怖の眼差し。

 ビリビリ、と地面が震える。恐らく、下でも始まったらしい。


 オレは最上階の看守たちを全滅させ、鍵で牢獄を開けていく。


「あ、アンタは……」

「レジスタンスだ。戦える奴が居たら、全力で暴れろ!!」

「ど、どういう事だ!!」


 助けた囚人たちに戦うように言うが、困惑した様子。オレは大きく溜息を吐く。めんどうくせぇ。


「戦えば、この地で自由が約束される!! これはそういう戦いだ!! だから、説明させんじゃねぇ!! 戦うか、戦わねぇか、選べ!!」


 囚人たちでも魔法くらいは使えるはずだ。だったら、戦え。

 オレはそう言い残し、この場を去る。そろそろだ。そろそろ、奴が来るはずだ。


 オレは一気に最上階から下へと降りていく。


「待て!! ここから先には」


 立ち塞がる看守も全員ぶっ殺していくと、次に見えてきたのは真っ白の甲冑に身を包んだ騎士たち。こいつ等がアマルティア騎士団。

 オレは剣の切っ先を輝かせ、嗤う。


「レジスタンス!! すぐに投降しろ!!」

「するわけねぇだろ!!」


 騎士団を剣一本で捻じ伏せる。それから聞こえてくる戦いの音。

 どうやら騎士団も到着し、大乱戦の様相を呈しているらしい。


 オレはそのまま階段を下りて行き、監獄の大広間に到着する。

 そこに居た。オレが待ち続けてきた男が。


 オレの目の前に居る男。長身金髪のいけ好かない男。その男はオレを見つけると、仲間たちに突き刺していた剣を引き抜き、口を開いた。


「また、貴様か? これら一連の事象は貴様が首謀者か?」

「だったら、どうする? グローリー」

「……我が父君の寵愛を受けながら何のつもりだ?」

「ハッ!! 我が身可愛さにアマルティアに堕ちたバカと一緒にするんじゃねぇよ。いい加減、決着付けようぜ……親友クソヤロウ

「相変わらず、理解できないようだな。あの方の崇高な願いが。仕方が無い。私もすぐに鎮圧したい所なんだ。どうせ、貴様を潰せば止まる烏合の衆……いざ、尋常に」


 その声を同時にオレは地を剣で蹴る。それと同時に刃を振るい、グローリーの振るった剣とぶつかり合う。


 こいつにだけは負けられない。何が、あろうとも――。

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