第15話 神の力
「リリィ、ここが屋敷の真ん中で合ってるか?」
「はい。見取り図的には……ここが真ん中かと」
エステルとリリィを連れた俺は屋敷の私室に来ていた。
俺は床に手をつき、軽く撫でる。
「なるほどな」
「ねぇ、ユベルくん。何をするの?」
「ん? ちょっと試したい事があってな。俺たちはレジスタンスに会いに行って、一つ取引を持ちかけられたんだ」
「取引?」
俺は床を撫でながら、エステルに説明をする。
「レジスタンスと協力する為にはヴァルテン牢獄の見取り図と牢獄の鍵が必要でな。生憎、俺たちはそれが何処にあるのか分からないんだよ。リリィも知らないらしくてな」
俺がリリィの顔を見ると、リリィは小さく頷く。
それを見ていたエステルがう~ん、と腕を組む。
「その二つが今は必要なんだね……それがもしかして、この部屋にあるの?」
「いや。この部屋に来たのは別の理由さ。まぁ、見てなって」
俺は心を落ち着かせる為に一つ息を吐く。
俺の力が想像通りならば、探す事が出来るはず。
俺は地面に手を触れたまま、呟く。
「
俺がそう呟くと、俺の脳内にこの屋敷の全ての情報が入り込んでくる。
物の場所、人の数、人の動きから、この屋敷にある文字通りの全ての情報が入り込んでくる。
この空間の全てを見透かすように。
何処だ? 何処にある?
俺はゆっくりと屋敷全体を見渡していく。
一階、二階、三階。その何処にも見当たらない。
だとすると、あるのは地下室か?
俺は地下室へと目を向けると、そこにあった。地下室の最奥。
あのメイドを解体していたあの場所におかれている宝箱。その中にヴァルテン牢獄の見取り図と牢獄の鍵があった。
しかも、牢獄の鍵はマスターキーらしい。
これは重畳。
俺は次に両親の動向を観察する。
今、両親は私室に篭っていて、午後の優雅なひと時を楽しんでいるらしい。
これは奪い取る好機だ。
俺は床から手を離し、リリィとエステルに声を掛ける。
「見つけた。地下室だ。地下室にある宝箱の中に丁寧に仕舞ってあるぜ」
「え!? い、今ので分かったの!?」
「どうだ? すげーだろ」
驚くエステルに俺はニヤリと不敵に笑う。
リリィも顔を驚愕の色に染め、口を開く。
「あの、ユベル様の力って一体……シズ様の力と言っていたんですけど……」
「そうだな。簡単に説明しとくか。俺の力ってのは『空間掌握』らしい」
「空間……掌握? って、何?」
聞き慣れない言葉だったのか、エステルが首を傾げる。
俺はエステルの目の前に自分の右手を向ける。
それにエステルが右手を伸ばし、掴む。ニギニギ、エステルが嬉しそうに手を握る。
その瞬間、ムっとリリィが眉間に皺を寄せる。
「手を繋ぐの?」
「いや、違うんだが? ていうか、何で握るの?」
「え? 手を出したから? それに握りたかったもん。それを察してくれたんじゃないの?」
「……そうですか。まぁ、左手でも出来るんだけどってリリィさん?」
俺がそんな話をしていたら、エステルの行動と同じ事を何故かリリィがやっている。
いや、あのどうして手を握るんですか?
俺の心の中には疑念が湧き上がるが、まぁ、両手が塞がっていても問題は無いだろう。
俺は何故か手を握っているエステルとリリィに声を掛ける。
「じゃあ、二人共。手を握ってていいから、目の前にある椅子を見てくれないか?」
「椅子? あ、あれだね」
「はい、見ていますよ」
俺は椅子を宙に浮かばせると、エステルとリリィが目を丸くする。
「えぇ!? う、浮いた!?」
「こ、これは魔法の類でしょうか……いえ、昔、聞いた事があります。何でもポルターガイストと呼ばれる霊的な現象があるとかないとか……」
「そういうんじゃなくて、あれは俺が操作してるんだよ。それだけじゃないぜ?」
部屋の中にあった本棚から本を動かし、それを部屋中をびゅんびゅん飛びまわる。
ちょっとしたテーマパーク気分なのか、エステルの目が楽しげに輝く。
「すごい、すごーい!! 何で!?」
「これは……すごいです」
「つまる所、この力は空間を支配する力って言ってもいいんだよ。いや、干渉ともいうべきか?」
「干渉、ですか?」
俺は本や椅子を元に戻しながら、説明する。
「俺を中心とした範囲内のありとあらゆるものを自由に出来るのが俺の力なんだよ。だから、まぁ、やろうと思えば何でも出来る訳よ。今、床に手をついてやったのはこの屋敷全体を見渡したんだ」
「それはつまり、ユベル様が屋敷全体を自由に出来る、という事でしょうか?」
「そういう事。だから、それで場所を全部探ったんだよ」
俺の説明を聞いたリリィが訝しげな表情をして、呟く。
「何だか探し物が見つかりそうな力です」
「実際、見つけられるんだけど。つまり、俺はありとあらゆるものを自由にする事が出来るって考えてもいい。正直、力が強くなればなるほど、世界をどうこうできる力って言っても過言じゃない」
「何か、全然イメージ出来ない。えっと、ユベルくんは何でも出来るって事?」
「ああ。俺を中心として範囲の中ならな」
その距離に関してもまだ詳しくは分からないが、このだだっ広い屋敷を全部見渡せるという事なので、相当広い。
ただ、この力に目覚めた影響なのか。無論、デメリットもあった。
「ただな、魔法が一切使えなくなったんだよな」
「魔法が?」
「ああ。多少使えてたものが何も使えなくなってな。そういう面では不便を掛けるかもしれないな」
この世界では魔法と生活が密接に繋がっている。
日常生活も魔法を扱う事が殆どだ。ある程度は力でカバーできるかもしれないが、無から有を生み出す事が出来ない為、そうした面では苦労する可能性があるが。
それに関しては心配要らないと言わんばかりにリリィが笑顔を浮かべる。
「大丈夫です。私がしっかりとお世話をさせて頂きますから。それがメイドの本懐、ですので」
「はは、そう言ってもらえると助かるよ」
「むっ……私!! 私もユベルくんのお世話をするんだから!! だって、私は婚約者だから!!」
その言葉と同時にエステルとリリィが互いに笑顔を浮かべ合う。
何だろうか。この居た堪れない雰囲気は。別に険悪、という訳じゃないんだ。
何だか互いにけん制し合っているような……。
でも、別に喧嘩をするような状態ではないし。とりあえず放っておくとして。
俺は二人に声を掛ける。
「二人共、とりあえず離れてくれないか? やりたい事が出来なくなるからさ」
「やりたい事?」
俺の言葉を素直に聞いてくれたのか、エステルとリリィが離れてくれる。
さて、空間そのものが俺の自由に出来る、という事は……。
こういう事だって出来るはずだ。
俺は地面に手をつき、
それから場所を特定し、一つ息を吐いた。宝箱そのものを持ってこればいいか。
俺は呟く。
「『
その声と同時に俺たちの目の前に小ぶりな宝箱が出現する。
それにリリィとエステルがビクっと肩を震わせる。
「た、宝箱がいきなり出てきた!!」
「これも力ですか?」
「ああ。鍵も掛かってるな。でも、これも」
俺は宝箱に手を触れ、その構造を把握する。触れる事なく鍵を解錠し、中を確認する。
入っているのは間違いなく『ヴァルテン牢獄の見取り図』と『牢獄の鍵』だ。
それを見ていたリリィが目を丸くする。
「本当に入ってます……これはすごい力です、本当に」
「すご……何か全然違う……」
「これで目的の品は手に入ったな。レジスタンスの本部に行くか。エステルはどうする? ついてくるか?」
もう物は手に入った。
これ以上の犠牲を出さない為にも、何よりもこれが奪われた事がバレるよりも前に行動しなければ。俺の問いにエステルは頷いた。
「う、うん。私も行く!! だって、一緒に行動するって約束だから」
「良し。行こう。……鍵は全部揃った。いよいよだ」
もうすぐだ。もうすぐ、革命が始まる。
この地を、この地獄を解放するための戦いが――。
そんなはやる気持ちを抑え、俺とエステル、リリィは部屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます