第13話 反逆の翼
ユベルの私室にある地下室で私は本のページを捲る。
少しばかり暗がりで見づらいけど、周りにある蝋燭が照らしてくれているからまだ見える。
私はページを捲り、呟く。
「この『オーパーツ』はどのタイプなんだろ……」
ページを捲る手は少しずつだけど速くなっていく。
私のワクワクは今、最高潮だった。
だって、今、私の目の前には『ロマン』が落ちているから。
私の目の前にあるもの。それは『オーパーツ』と呼ばれているものだ。
空から落ちてくる謎の物体であり、物は様々。
どうして、空から落ちてきているのか。
何の為に存在しているのか。そのどちらも不明で、今、多くの人達が秘密を解明する為に研究をしているっていう話があるほどだ。
私はこのオーパーツが大好きだ。
だって、空から急に落ちてくるものがあって、それがどういうものなのか本当に誰も知らない。
誰も知らない事を知りたい、これは何だろうって想像するだけでも私の胸は大きく高鳴る。
それはまるで、ユベル君と一緒にいる時みたいに。
私はいつも読んでる本である『空の落し物』を読みながら、目の前にある物体を見つめる。
「これは……今まで見た事無いタイプかも」
私は婚約者の家に行ってはオーパーツを見てきた。
それは胸が高鳴って楽しかったけど、すぐに見つかり、大目玉を食らうのが殆どだった。
どうしてか。
オーパーツがどんなものなのか全然分からないからだ。
理由も、出所も、用途も不明。何も分からないものに多くの人が恐怖し、不用意に触るべきではないと考えているからだ。
過去にはこのオーパーツが勝手に動き出して、攻撃し始めたなんて話も聞く程だ。
そういう事もあり、場所によっては『神様からの贈り物』なんて言っている所もある。
でも、私は思う。そんなの勿体無いじゃんって。
だって、もしかしたら空の上に大きな世界があるのかもしれない。
本当に神様の贈り物なのかもしれない。それは知ろうとしなくちゃ決して分からない。
私は目の前にあるオーパーツに触れる。
何だか『女神像』のように見える。そんな身体を抱き締めるように羽のようなモノで包み込んでいる。私は首を傾げる。
「うぅ~ん、やっぱり。この本の中でも載ってないタイプだ……どうしよう……」
私は考える。
せっかく、ユベルくんに褒められるチャンスだったのに。
このオーパーツがどんなものだったのか、をユベルくんに話して、良くやったぞ、って頭をナデナデしてもらうっていう私の目的はどうなるの。
「何か分かる事ないかな? 魔力を流し込んでみるとか」
私は右手を翳して、オーパーツに向けて魔力を流し込もうとした時だった。
背後から足音が聞こえてくると同時に女性の声音が聞こえた。
「エステル様?」
「え? あ……メイド長さん」
目の前に居たのは黒い艶のある髪を後ろで纏め、頭には白いカチューシャでメイド服を身に纏った凛々しい女性。彼女はメイド長だったと記憶している。
名前は確か、ローズ=アマルティア。ユベルくんのお姉ちゃんだ。
ローズは私の目の前にあるオーパーツを見つめ、口を開いた。
「オーパーツを調べていたのですか?」
「あ、は、はい!! 私、オーパーツが好きなので!!」
「……そうですか。そういえば、ユベルの姿が見えませんが?」
「ゆ、ユベルくんはちょっと用事があるんだって!!」
今、レジスタンスの所に行っているなんて口が裂けても言えない。
ユベルくんは言っていた。彼女ももしかしたら、革命を邪魔する存在かもしれないって。
だから、私は不用意な事を言わずにオーパーツを見つめる。
すると、ローズが口を開いた。
「エステル様……この島に居たらいけません」
「え?」
「……この島は地獄でございます。エステル様もお話くらいは聞いた事がありますでしょう? それらの噂は全て真実です。この島には悪魔が棲んでいます」
ローズの真剣な眼差しに私は何も言えなくなる。
話には聞いていた。ユベルくんも言っていた。革命を起こすのはその両親を殺す事だって。
あの花畑で見たお墓は全部、ユベルくんの両親が殺した人達だって。
私はローズを見て、口を開いた。
「でも、私は帰れないから……」
「帰れなくても、ここにいるよりはマシなはずです。船ならば私も用意します。ですから、今すぐにでも……」
「だったら、だったら、どうして変えようとしないんですか? 戦わなくちゃ……ダメじゃないんですか?」
一度聞いてみたい事があった。
メイド長であるローズさんはユベルくんのお姉さん。
ユベルくんはあんなにも革命を目指しているのに、お姉さんは同じ気持ちにならないのかと。
私の言葉にローズの表情が消える。
その顔を私は見た事があった。きっと、その顔はユベルくんに見つけてもらえなかったときと同じ顔。全てを『諦めてしまった者の顔』だ。
ローズは虚無にも等しい顔で言う。
「戦ってどうにかなる問題ではありません……気付いた時にはもう、私の手は血みどろだったんですから。それに私は私が大事です。エステル様、どうして私がメイド長なんてやっているのか分かりますか?」
「え?」
「守ってもらえるからですよ。メイド長という肩書きが。私が居なくなれば、ここは回らなくなる事を御父様と御母様は理解している。メイド長である間は私があの悪魔から守られるのです」
ローズは歪んだ笑みを浮かべる。その顔に私は恐怖を覚えた。
「私は自分が一番大事なんです。変わる必要も、変える必要も無いんです。だって、ここはそういう場所だから。でも、貴方はまだ引き返せるんです。悪魔に魂を売らなくても良いのです」
「…………」
「それとも、エステル様は悪魔に魂をお売りになるんですか?」
そうローズが問い掛けた時だった。突然、別の声が聞こえた。それもまた女性の声だ。
―――覚醒、来たれり。
「誰の声?」
「エステル様? 何を仰っているんですか? ここには私とエステル様しかいませんが?」
「聞こえないの?」
―――自由の神 シズの目覚め。それは反逆の始まり。
「は、反逆?」
それと同時に私は気づく。ゴウ、という重苦しい音と共に女神像の瞳が光り輝く。
それにローズも目を丸くした。
「オーパーツが動いている?」
「え? え? 何で!?」
―――我、シズを支える反逆の翼。
「反逆の翼……」
私の呟きを聴いていたのか、オーパーツが強い光を放つと同時に胸元から触手が伸びる。
それは私の身体に絡みつくと同時に一気に引き寄せる。
「きゃっ!?」
「エステル様!? この!!」
ローズはロングスカートに隠れた太股からナイフを取り出し、それで私を掴もうとしている触手を一気に切り刻む。
しかし、それがオーパーツの逆鱗に触れたのか、触手が急激に数を増やし、ローズに迫った。
「なっ!? これは、捌き……」
声を上げるよりも先に触手が全てローズを吹き飛ばし、その衝撃で動かなくなる。
「ろ、ローズさん!? きゃあッ!?」
私が声を上げようとした時には既にオーパーツから伸びる触手が私に絡みつき、一気にオーパーツへと引き寄せ、吸い込まれた。
吸い込まれると同時に私の意識が一気に遠くなっていく。
何だか気持ちよくて、心地良くて。私は眠くなって……いく。
何だか凄く安心する……まるで、ユベルくんに包まれてるみたい……。
ああ、このままで良いや。
だって、こんなにも幸せなんだもん。こんなにも近くでユベルくんを感じるんだから――。
私は言いようも無い幸福感を胸に抱いて、そのまま意識を失った。
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