7-2

リズが最後にお辞儀して下がると、間髪入れずにテレジアナが口を開いた。


「みなさまごきげんよう。マイエル伯爵家のテレジアナですわ。わたくしネイピア先生に魔法の才能を見込まれて魔法学科を目指しましたの。マナ量は756でしたわ。」


また聞いてない自慢話を混ぜてくる。


ちゃんと僕よりマナ量が多いところも腹が立つな。


テレジアナは他にもごちゃごちゃ余計なことを付け加えた後、おもむろに右手をピストル型にして、あちら側の的に向けた。


すると、肘の方から物凄い速さで黄色い光が伸びていき、鉄砲を打つ音とともに金色の巻き毛が突風で後ろ向きに吹っ飛んだ。


あっけに取られて指の先を見ると、的の真ん中から黒い煙が上がっている。


「わたくしの主属性は土の闇。今のように攻撃することも、固い盾を作って防御することもできますわ」


そう言って、さっき防御が苦手と言ったリズの方を自慢げに見る。


なんて嫌味な奴だ、と僕は思ったが、当のリズは素直な羨望のまなざしを向けていた。


「筆記試験のお勉強も順調ですの。みなさんご遠慮なくわたくしを頼っていらしてくださいね」


誰が頼るか!


しかし見たところ腹が立っていそうなのは僕だけで、もう一人の男の子の方も単純に感心しているだけのように見える。


二人ともまだ幼いからか天然なのかと考えていると、その男の子と目があった。


「あの、オレは子爵なので…」


「あ、こっちも同じなんで先どうぞ」


正直あの二人の後に魔法を披露するなんて冗談じゃない。


「じゃあ先に、オレはフューゴ・リオランドです。お父様はすごく強い魔導戦士で、オレもそんなふうになりたいです。家族からはフューって呼ばれてます」


ああ、なんかやっと普通の5才児っぽいのが来たな。


ちょっと安心したのも束の間、フューが右手を上げると、さっきのリズと匹敵するほどの明るい赤の光が、その全身を包み込んだ。


真っ赤なツンツンした髪の毛がまるで燃えているように見える。


そして、右手の上に大きな火の玉が燃えた。


「オレはネイピア先生と同じ火の光属性です。コントロールは苦手だけど体力には自信あります!みんなよろしくお願いします!」


元気な挨拶だ。


僕は帰りたくなった。


もしかして魔法科を目指してる奴ってだいたいこんなレベルなのか?


できることなら今すぐ逃げ出したい。


しかしそんなことできるはずもなく、みんなからの注目を浴びて、僕は渋々口を開いた。


「シンシア・アデレートです。シディーと呼ばれることが多いです。」


はやく終わらせたいから自己紹介もそこそこに、両手を向かい合わせてマナを発動させた。


気持ち程度の弱い光が指先に灯る。


左右の掌の間に、小さな氷の結晶がパラパラと降った。


「せ、繊細な魔法が得意です…」


引き攣った苦笑いを浮かべて見せる。


そう、僕はまだコイン程度の小さな氷の結晶を作るだけで精一杯なのだ。


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