6-2
僕を含めすべての自己紹介が終わると、さらに馬鹿馬鹿しい時間が待っていた。
周囲の令嬢たちが、アーキア公爵令嬢とマイエル伯爵令嬢にわかりやすい媚を売り始めたのだ。
3人の身に着けるドレス、髪飾り、アクセサリーを我先にと取り立てては片端から褒めていく。
公爵家の姉妹はさすが落ち着いてあしらっているように見えるが、マイエル伯爵令嬢と来たら明らかにつけ上がっているので目もあてられない。
反対にこの中では下から数えた方が早いような序列の僕には、わざわざ話しかけてくるような奴はいない、というかこの様子じゃ自己紹介すらちゃんと聞いていたかどうか怪しいな。
別に構われたいわけではないが、あまりに浅はかすぎて気分が悪くなってきた。
だいたい僕はあと1年も経たずにアカデミーの入試を受ける身だ。
マナがわかるようになって以来、どうにか空気中の粒子から氷を作るところまで来たが、まだまだ試験に受かるには足りないレベルだとネイピアは言う。
こんな下らない集まりに時間を使っている場合じゃない。
ああ、この令嬢たちは暇そうでいいな。
これから自分より身分の高い者に諂いながら社交活動と花嫁修行に励み、さぞご立派な奥様になるのだろう。
そんな人生のどこに価値があるのか僕にはさっぱり理解できないが。
どうせ僕がどうしようが誰も構わないだろうし、ここで寝て休んでおいて、帰ってから魔法の練習でもするか…
「ねえ、ちょっといいかしら」
突然背後から話しかけられて、僕は思わずびくと体を跳ねさせてしまった。
振り返るとそこには、いつの間に令嬢たちの輪の中から抜け出したのか、クラリスがいた。
「ごめんなさい、驚かせるつもりでは無かったのだけれど。あなた、シンシアと言ったわよね」
クラリスはびっくりした僕に驚いたようで、申し訳そうにしながらも親しげに続ける。
僕はなぜ彼女がわざわざ僕に話しかけに来たのかわからなくて、「そうですけど…」と歯切れの悪い返事をした。
「シンシア、あなた魔法が使えるの?」
「え、なんでわかったの…あ、もしかしてクラリスさんも?」
意外な言葉にちょっと落ち着かない口調で聞き返した僕に、クラリスは頷いた。
僕はあいかわらずマナに鈍感でよく分からないが、人によっては他人のマナを感じ取ることができるらしい。
「リズでいいわ。私は来年の王立アカデミーの魔法科を受けるつもりなの。シンシアも?」
「そうだよ。もしかしてネイピアに習ってる?」
「ええ、じゃあ今度から一緒ね!」
ネイピアの授業でいよいよ魔法の実践を本格的にするために今度から週に1度、魔法練習のための施設を借りて練習することになっている。
わざわざ広い施設を借りるわけだし、刺激にもなるだろうということで、この実践の授業ではネイピアが教えている他の受験生たちも一緒に来るらしい。
全部で4人いると聞いていたが、そのうちの1人が公爵令嬢だったとは。
「もしかして、他に誰が来るか知ってる?」
「私も知らないわ。だけど多分テレジアナも魔法が使えるわよね。でも彼女は忙しそうでなかなか話しかけられないのよ。」
え、あの高飛車令嬢も?
いやいや、魔法が使えるからと言ってネイピアの教え子とも王立アカデミーの受験生とも限らないだろ。
リズみたいな落ち着いた子なら歓迎だけど、あんな面倒臭そうな奴と関わるなんてごめんだ。
…これもしかしてフラグか?
ーーー
フラグだった。
練習初日のその日、ネイピアに教えてもらった施設まで行くと、ちょうど少し前に到着したらしいマイエル伯爵家の紋章付きの馬車が停まっていた。
白馬に引かせている無駄に豪華な馬車だ。
従者に手を取られて降りてきたのは、実習だと言うのに動きにくそうなひらひらしたワンピースに身を包んだ縦巻きカールの金髪。
テレジアナはこちらを見つけると、「ごきげんよう、アデレート子爵令嬢」と微笑んだ。
覚えられていたことに少し驚きながら僕も挨拶を返す。
どうやらこの高飛車お嬢様とこれから長い付き合いになることは避けようのない事実らしい。
ため息を殺しながら練習場の方を見ると、ネイピアがこちらにやってきている。
その後ろにはリズと、おそらくもう一人の生徒の男の子がいた。
「これで全員そろったわね、それじゃあまずは自己紹介をしましょうか」
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