6-1

僕の変わり映えのなさに、メアリーは呆れたため息を吐いた。


ネイピアの授業では専ら魔法の練習と試験対策ばかりだから仕方ない。


仕方ないから許してほしい。


こっちこそ2年前と全く同じカチコチに凝り固まった口調で隅から隅までケチをつけられてうんざりだ。


早くも追い返してやりたいという気が湧き上がるが、ネイピアに免じてここは我慢か。


初めて魔法を使ってから1年半。


アンに頼み込まれるようにしてずっと伸ばし続けていた髪は、さすがに「長く伸びた」と言わざるを得なくなってしまった。


それに急遽母親とその友人のお茶会に参加することもあって、今日からメアリーを呼ぶことになったのだ。


なんでも、同年代の女の子をもつ友人たちの間で、子供同士の交流も兼ねてお茶会をしようという話になったらしい。


明らかに面倒そうな集まりだ。


だいたい僕はレディーの社交には参加しない予定だから、こんなところで人脈作っても意味ないし。


ため息を吐いたらまたメアリーに怒られた。



ーーー



アーキア公爵家。


700年ほど前にこの国で起こった宗教戦争で活躍した英雄魔道士を先祖にもつ家門のひとつ。


母親の実家はアーキアの遠い親戚にあたるらしく、公爵夫人とも友人のようだ。


今回のお茶会はその公爵邸で開催された。


アーキア公爵領まではそれほど遠くなく、しかも領地内の道はしっかり舗装されていたので、馬車は神殿に行く時ほど過酷ではなかったが、僕はすでにワープでもして帰りたいほど疲れ切っていた。


会場である邸宅の庭に到着してからと言うもの、初対面の貴婦人と令嬢との挨拶、挨拶、挨拶。


確か参加者は貴婦人12人とその娘だったと思うから、これで全部か。


お茶会としては規模が大きい。


その上慣れない貴族の作法と「令嬢の真似」に、使ったことのない神経を酷使している気がする。


一通りの辞令が終わると貴婦人たちはお茶を始め、子供は子供で芝生の上にシートを敷いて、お菓子を囲むことになった。


基本の礼儀作法教育を受け始める年齢ということもあって、僕が最年少だ。


この中で最年長は8才の2人で、片方は今回主催の公爵夫人の長女、ヘレナ・アーキアである。


珊瑚のような色の柔らかそうな髪を腰の辺りまで伸ばし、淡い水色の垂れ目が子供にしては落ち着いた印象を与える。


見た目だけでなく、振る舞いもさすが公爵家の長女と言ったところか、僕のような初対面の人間も含め参加者を把握しているようで、序列の高い方から順に挨拶するよう促した。


ヘレナの次はその妹、公爵家の次女である。


姉が挨拶するよう促すと、同じく珊瑚色の髪を頭の後ろで纏めた小さい女の子が返事した。


「皆様はじめまして。クラリス・アーキアです。お気軽にリズとお呼びください」


おっとりとした印象の姉と対照的に、ハキハキと話す。


猫のように目尻がツンと上がっているせいもあるかもしれない。


頭のリボンと同じ深い緑色の瞳がキラキラしているのを見ていると、不意にこっちと目があって親しげに笑った。


その次がマイエル伯爵家の長女。


透き通る白い肌、アメジスト色の瞳に金色の巻毛。


シルクや宝石で飾られた豪華なドレスと髪飾りも相まって、まだ子供ながらまるでアンティークの人形のような美少女だ。


しかし、そんなお姫様的イメージは口を開いた瞬間に消し飛んだ。


「どうも、わたくしテレジアナと申しますわ。マイエル伯爵家の一人娘でございますの」


思わず耳を塞ぎたくなるようなキンキンとした高い声だ。


言葉遣いこそ丁寧ではあるが、自慢気な内心が丸見えで高飛車に聞こえる。


「みなさまご存知でしょうけれど、マイエル伯爵家は我が国屈指の資産家。この国の繊維業はマイエル伯爵家が回していると言っても過言ではありませんわ。富の大きさで言えばその辺の侯爵家にも劣らないんですのよ。例えばこちらのシルクのリボンは…」


ご立派な伯爵令嬢はその後も自分の身につけているものの素晴らしさを延々と語る。


あまりにもどうでもいいので左耳から右耳にそのまま抜けていく状態だ。


もっとアホらしいのは、周りのマイエル家以下の家の令嬢が、嫉妬心を隠そうとしながらさも有難そうな態度でその話を聞いていることだ。


しかも、後に続いたその令嬢たちの自己紹介も、テレジアナお嬢様ほどではないにせよ端々にプライドが見え隠れする。


まだ幼いにせよ、これが「貴族のお嬢様」ってやつなのか?


僕は本当に今すぐ帰りたくなった。


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