4-2
ひどい乗り心地だ。
神殿行きの馬車に揺られながら、僕は吐き気をどうにか堪えていた。
初めて乗る馬車。
天気の良い初夏の午後に、緑豊かな田舎道を本でも読みながらのんびり行く。
そんなイメージは、屋敷の門をくぐる頃には消え失せていた。
ろくに舗装されていない道はガタガタとうるさく、リラックスできるわけがない。
空からは太陽の光が照りつけ、窓を開けているにも関わらず馬車の中を蒸し釜のように温めてくる。
僕は持ってきた本を読むのを早々に諦めて、酔い止めに窓の外を眺めながら、今日の「検査」について考えた。
神殿では人の体内にどの種類のマナがどれくらいあるか数値化できるらしい。
それは魔塔の役割のような気がしたが、どうやら魔導師はマナの種類や量を大まかに感じ取ることはできても、神殿で調べるほど正確には感知できないようだ。
そのため、魔法の練習を始める子供はまず神殿に行く。
ネイピアはあの授業の後にシンシアの母親と話し合い、今日神殿に行く許可をとってくれた。
魔法は日常生活にも役立つので、練習すること自体はそれほど珍しくないようで、あまり不思議に思われることもなく許可が下りたらしい。
王立アカデミーを目指すことはまだネイピアと僕の秘密にしている。
ネイピア曰く、「絶対反対されるから、勉強も魔法もある程度できるようになってから!」だそうだ。
しばらくはアカデミーの入試対策と、本来やる予定の授業を短い授業時間に無理矢理詰め込むという授業になるだろう。
「シディー、着いたわよ」
ネイピアが僕の肩を叩く。
目の前には草原ばかり広がっているので気が付かなかったが、確かに馬車を降りてみると、ドーム状の屋根の神殿、というより宮殿のような横長の白い建物が見えた。
その正面からは短い石段が下りて、馬車の手前にあるアーチ状の門との間を、周辺に広がる背の高い草原を切り裂くようにして敷かれている、石畳の細い道が繋いでいた。
深呼吸しながらその道を歩くと、新鮮な空気が入ってきて酔いも落ち着いてくる。
神殿の入り口では、白く軽そうな布を巻いて作ったような服を着た人が僕たちを迎えた。
神官だろうか、ヴェールで目元と頭を隠しているので、男だか女だか分からない。
ネイピアが事情を話すと、その神官らしい人は僕らを案内してくれるらしい。
それに続いて神殿の奥へしばらく歩いて行くと、突き当たりの部屋で止まって、ご丁寧に扉を開いてくれた。
部屋の中は少し薄暗いが、白い石の床は何色もの光で染まっている。
上を見ると遠くにドーム状の天井が張ってあり、その一部がステンドグラスになっていた。
円形の部屋の中央には円柱状の台座が生えるように立っていて、その上の大人に丁度良いくらいの高さに、占い師が使いそうな半透明の水晶が乗せられている。
「あの上に手を置いて、マナを測るのよ」
ネイピアが背後から促す。
そう言われても、手が届くのかな。
僕の不安を察したように、「とりあえず水晶に近づいてみて」と言うので、部屋の中に足を踏み入れてみる…
「うわっ?!」
踏み出した足の手前から水晶に向かって、石の床が盛り上がり、みるみるうちに僕が届くくらいの高さまで階段ができた。
後ろでネイピアがくすくす笑っているのが聞こえる。
僕は少し心もとなく感じながらも、その石段を登っていった。
急に緊張してきた。
ここで全然マナがないということになれば、魔導戦士になる夢は叶わないかもしれない。
逆に、実はチート級の魔力を持っていたりして…
あー、ちょっとドキドキしてきたな。
僕がどうであれ結果は変わらないんだけど…
とか思っている間に水晶の手前まで来てしまった。
僕は恐る恐るその上に手をかざす。
目の前に青い光が広がっていった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます