3-3

授業が終わって先生を見送るころにはお昼の時間をもうとっくに過ぎていた。


ネイピアは僕を待っている間に軽食をとっていたらしいが、僕は朝食も食べずに授業の妨害工作を働いていたので、本当に腹ペコだ。


まあ、自業自得だな…。


帰りの馬車に乗り込む前に、ネイピアは僕を振り返って話し始めた。


「心の準備ができてからで良いから、作法はメアリー先生から教わった方がいいわ」


「メアリーから?」


正直、あのオバさんには全然良いイメージがない。


自分の価値観を押し付けてくるような頭の固い人間に教わるなんてごめんだ。


「ああ見えて繊細な方だから、きっとこのままでは先生、後悔なさると思うわ。…メアリー先生は私の先生でもあるのよ。そしてうちに教えに来た時は、旦那様である前男爵を亡くされたばかりだった。まだ今の私くらいの年齢だったかしらね。」


僕は何も言わなかった。


ネイピアは難しい顔をする僕の短い髪をそっと撫でた。


「シディー、あなたはまだこの世の中のことを良く知らないわ。メアリー先生や私のように働く女性がどういう目で見られるかもね。私はそれでいいって覚悟して普通のレディとは違う生き方を選んだけれど、先生は…」


「それでも先生は私のアカデミー行きを最終的には応援してくれたわ。」


そこまで話すと、ネイピアは少し重くなった空気を吹き飛ばすように、「それに私はこの通り、お行儀なんて気にしてないからさ」と、少女のように笑って見せた。


「だからそうね…この髪が長く伸びる頃で良いから、メアリー先生をもう一度お呼びしてみてよ」


「…わかったよ」


そこでもまた意味不明なことを言ってきたら、追い返してやるけど。


返事を聞いて満足すると、先生は別れの挨拶をして馬車に乗り込んだ。


僕は空腹のためか何なのか、少しぼんやりとしながら昼食を詰め込んで、サラに預けておいたと言う本を受け取った。


アカデミーを卒業した後の進路となる、王宮の仕事、学者の生活と人生、魔導師の仕事と階級…等等についての本が数冊。


魔導師のことが一番イメージできないから、僕はそこから読み進めていった。


やはり魔導師の中でも魔導戦士と医者が特に名誉ある仕事とされている。


魔獣が出没し、それなりに軍隊の出番のあるこの世界では、魔導戦士はかなり重宝される存在のようだ。


戦闘中において特に勇敢な行動をした魔導戦士に対しては、名誉勲章とともに「禁術」を一度だけ使う権利が与えられる。


「禁術」とは、際限なく使用することで世の中の社会的・倫理的秩序を乱す可能性のある魔術のことらしい。


例えば時間遡行、若返り、死者蘇生…


ファンタジーの世界で聞くような項目の間から、ある単語が目に飛び込んできた。


『性転換』


本人やその他の人物の性別を永久に変更する。


「これだ…」


確固たる社会的地位を手に入れ、美少女と遊びまくる夢の生活。


そのためだけに前世はずっと努力して来たんだ。


魔導戦士として功績を挙げて男になれば、それが叶えられる。


魔導戦士を目指そう。


そして今度こそ勝ち組人生を送ってやる!



こうして、僕の修行の日々が始まった…。

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