3-2
「つまり、王立アカデミーに入れと」
「そういうこと。そうすれば不思議と男性から敬遠されるようになるのよ。」
この世界の貴族の男は、7歳になる年から王立アカデミーか騎士団に入るが、女は読み書き計算、その他多少の教養と芸術の素養があればよく、あまりの才女は疎ましいらしい。
古い男性優位社会って感じだ。
しかしアカデミーも騎士団も実力さえあれば女でも入れる。
まあ結婚できなくなるから女子はほぼいないらしいが…
「アカデミーは9年制だから、卒業する年には15歳よ。それからは仕事をして実家から自立すれば、結婚しなくても生きていけるわ。」
そうか、この世界には女でも自分で稼ぐ線があるってわけだな。
半ば家出みたいなものになって貴族の生活はできなくなる気がするが、別に前世でも一般家庭の庶民だったわけだし、それも苦ではないだろう。
「それで、そのアカデミーの入学試験対策を、ネイピア…先生が手伝ってくれるってこと?」
「もちろんよ。どう?アカデミーを目指してみる?」
「やるよ」
即答した。
きっとこれがこの世界の勝ち筋だ。
だったらいくら難しくてもやってやる。
僕の返答を聞くと、ネイピアは満足そうに微笑んだ。
「じゃあまずは進路を考えないと。王立アカデミーは普通科と魔法科があって、入試が違うのよ。普通科は筆記試験だけだけど、魔法科は簡単な魔法の実技試験がある。しかも、魔法を使う職業には基本的に魔法科を出ないとなれないものが多いわ。」
「魔法を使う職業って?」
「代表例は魔導戦士ね。騎士団と一緒に戦争に行ったり、魔獣や災害に対処したりするのよ。それから医者もそうだし、薬品や機械を作るのも魔法を使うの。あとはアカデミーの先生や家庭教師になる人もいるわね…私も魔法科出身なのよ」
そう言って、ネイピアは右手を目の高さまで上げる。
指の間から、赤く細い光が指先に向かってするすると染み出していき、指先に届いたかと思うと、突然そこに火が着いた。
オレンジ色の炎がネイピアの得意そうな顔を照らしている。
そしてその手を一振りすると、何事もなかったかのように火が消えた。
「だから魔法科の実技試験は私が教えられるわ。もちろん、筆記試験の方もね。あなたは頭が良いから普通科を選べば余裕だと思うけど、もし魔法を使う職業を目指すなら早めに魔法の練習を始めないと。」
魔法を使う職業か…さっき聞いた話だと前世の世界で言う理系って感じだな。
大学入試では文系だったし、魔法を使う職業って、医者はともかく他は肉体労働っぽいな…。
「王宮の役職なんかは普通科なの?」
「ええ、官職、裁判官、学者…とか、所謂エリートって感じの職業は基本的に普通科出身の人ね。筆記試験も普通科の方が難しいわ。だけど、魔法科に入学して後で普通科に合流することもできるわよ。逆はできないけどね」
なるほど、それなら普通科に行った方が将来は安泰そうだ。
選択肢を広げると言う意味では魔法科の方が良い気もするが。
「まあ、色々急かしてしまったけど、試験はまだまだ先なんだし、悩む時間はあるわ。実はアカデミーを出た後の進路で参考になりそうな本を何冊か持ってきて、サラさんに預けてあるの。それも読んで考えてみて。」
そこまで言うと、ネイピアは腕時計をちらと見た。
「さて、残りの時間で今日の授業をさっさと終わらせるわよ!」
「え、今までのはなんだったんだよ」
「ここまでは全部雑談!今日は美術史の基礎をやるわよ!」
「げ、あと1時間もないじゃん!」
その後はとても3歳向けとは思えない、怒涛の詰め込み授業が待っていた。
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