3-1

サラに髪を乾かし服を着せられている間、ネイピアはずっと応接室で待っていた。


これで1時間以上も潰れたはずなのに、予定を後ろにずらして授業時間はそのままらしい。


「こんなこともあろうかと今日の予定は空けておいたのよ。メアリー先生の授業を飛び出したのでしょう?予定通りにはいかないと思って」


ネイピアは誇らしげに語る。


さっきから何か違和感があると思ったら、その言葉遣いだ。


この世界に来てから、家族以外に関わるのは使用人と教師くらい。


基本的に自分より身分の低い者ばかりだから、敬語を使われないのは久々だ。


「私が敬語を使わないのが気になるの?」


どうやら顔に出ていたらしい。


流石に「敬え」とか言う気にはなれないので黙っていたが、ネイピアは続ける。


「だってジェネトーレは侯爵家ですもの。わざわざ堅苦しくする必要もないでしょう?」


げ、侯爵令嬢かよ!


何が楽しくて侯爵令嬢が子爵家の家庭教師なんてやってるんだよ。


「あはは、あなた全部顔に出るのね!」


僕の顔がそんなにおかしいのか、令嬢は眉を寄せて笑った。


それにしてもこのフランクな、貴族らしくない感じは何だ。


さっきの序列の話だって、本当に必要のない場面で作法に気を使いたくないからという意図のようで、侯爵家の地位を誇るような様子は全くない。


「まあ、色んな人に同じことを聞かれるからね。ほら、私みたいな令嬢って珍しいから」


だろうな、今までイメージしてた貴族の令嬢とは全然違う。


だいたいネイピアみたいな年の令嬢はとっくに結婚して働きになんか出ないはずだ。


メアリーの紹介で来たらしいけど、メアリーは一体どういうつもりで…


「あなた、嫁になんか行かない!って言ったのでしょう?」


「そうだけど…」


「私も政略結婚なんて絶対嫌だったの。だから回避したわ。どうやったか知りたくない?」


ネイピアは友達を悪戯に誘う子供のように笑った。

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