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果たして僕の不安は的中した。
メアリーというらしいそのオバさん先生は、痩せて尖った鼻に丸眼鏡をひっかけて、その奥の小さな目で隅から隅まで僕を観察しては、少しでも気を抜いた所を突いて四角い声で責め立ててくる。
本人は頭のてっぺんで引っ詰めた白髪混じりの髪が少しも溢れることなくツルツルしていて、黒いドレスからは手と顔の他全く肌も見えず、一分の隙もないという感じだ。
「ほら、また足が開いていますよ」
こんくらい何ともないだろ、と思いながらも渋々と足を揃える。
「不機嫌が顔に出ております。レディーたるもの常に微笑んで。あなたのお母様もそうしているでしょう」
微笑み?そんな表情したことないような気がする。
口角を上げる。
多分変な顔になってるな。
もっと力を抜けばいいのか?
というかそもそもそんな表情小っ恥ずかしくてできないぞ。
百面相をする僕に、メアリーは仕方ないという感じでため息を吐いた。
「全く、そんなことではお嫁に行けませんよ」
「嫁になんて行きたくないよ!」
大声を上げた僕に、メアリーは右眉をぴくと動かした。
男に嫁ぐなんて冗談じゃない。
「シンシア様もいずれわかるでしょう。立派な旦那様に嫁いで家庭をもつことが女性の幸せなのですよ」
「そんなの一生わからないと思うけど」
「わからなかったとしても、それが女性の役割です。あなたがアデレート家に報いるには良家の男性と結婚することが一番です。そのためにこうして作法と教養を身につけているのではないですか」
メアリーの口調は子供に優しく諭すと言うより事務的な説明でもしているかのようだった。
確かに僕はここではしがない子爵の令嬢。
年頃になっても居座り続ける娘など、両親の頭痛の種だろう。
前世のように目の前の知識や教養を身につければどうにかなるだろうと無意識に思っていた。
だけどそれは嫁ぎ先の選択肢の問題にしかならず、結局令嬢の人生の大枠からは逃れられないのかもしれない。
「だったらもうこんな授業なんて受けない!男に媚びるための勉強なんて意味ないじゃないか」
僕はメアリーの止める声も構わず部屋を飛び出した。
泣きたいような気がした。
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