2-1

熱病を乗り越えて奇跡の力を手にした少女。


それがこの屋敷の使用人たちの、「シンシア・アデレート」に対する認識だった。


この世界で目覚めて1週間。


最初こそ寝て起きたら全て夢でしたみたいなオチを期待していたが、どうやらそう甘くはないようだ。


この1週間のうちに、僕はすっかり神童になってしまった。


そして今日から普通5歳で始まる礼儀作法教育、7歳で始まる語学、神学、史学、魔法学…等等の教育を受けることになっている。


そう、この世界には魔法が存在するらしい。


それに加えて「聖女」とか「魔獣」とか、いかにも小説やゲームに登場しそうな「設定」の数々。


しかし、どれだけこの「ソフィア王国」や他国のことを調べてみても、僕の知っていることは全く見当たらなかった。


まあ僕は勉強ばっかで、マトモにラノベもゲームも嗜んでこなかったんだが…。


どうやら未来を予知して無双という線もないらしい。


全く、前世の方がよっぽど良かった。


せっかく苦労して勝ち組人生を手に入れたというところで、童貞のまま死ぬなんてそんなの理不尽すぎるだろ。


せめてもっと身分の高い貴族の男に生まれ変わってたら、異世界転生ハーレムものみたいに美少女を侍らせてあんなことやこんなこともあったかもしれないのに!


デカいため息をついた所で、ドアの外からシンシアを呼ぶ声がした。


多分乳母のサラだ。


僕が返事すると、案の定彼女が「シンシア様、先生がいらっしゃいました…」と言いながら部屋に入ってくる。


そして僕を見ると、その顔色がみるみる変わっていった。


「シンシア様!またそんな下着姿で、先生がいらっしゃるというのに全く…」


「だってこれあっついし動きにくいんだよ、先生が来たら着替えるんだからいいだろ」


「またそんな乱暴な言葉遣いをなさって…」


脱ぎ捨てたドレスの皺をはたいて直しながらぼやく。


そんな文句を言われても、女物を我慢して着ているだけでも良い方だろう。


男としての18年の記憶があるせいで、スカートも女の言葉遣いも落ち着かないのだ。


もちろん流石に必要となれば善処するつもりだが…


もう少し女でいることに慣れるまで許してほしいものだ。


サラに言われてドレスに袖を通す。


「せめて先生のおっしゃることはちゃんと聞いて、お行儀良くするのですよ」


「げっ!今日行儀作法の授業じゃん!」


そうか、時間割では語学のはずだけど、先生の都合で最初はしばらく作法の授業ばかりになったんだっけ。


ああ、まだ女のフリには慣れてないのに…

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