1-1

閉じた瞼の裏で照明のついていない部屋の薄明かりを感じる。


あれは夢?それとも実際病院なんかに運ばれでもしたのだろうか。


だんだんと意識が戻ってくると、頭が病み上がりみたいに痛む。


手足を動かそうとしても、なにか自分のもののように思えない変な感じがする。


あー、これは本当に事故ったかな。


五体満足だといいな。


なんて他人事のように考えながら重たい瞼を開けてみた。


白い天井。


なんだか無駄に遠くにある気がする。


てっきり狭い個室だかカーテンで仕切られた大部屋にいるものだと思っていたら、わりと広い部屋の中央に寝かされているらしい。


そういえば布団もフカフカだ…って、なんだこのレース。こんなシーツ使ってる病院なんてあるのか。


シーツを観察しながら軽く起き上がってみると、その上にはら、と落ちる長い黒髪。


なんだこれ。


と、その髪を掴む、幼稚園児のような小さな手。


………は?


慌てて自分の両手を見つめる。


短い腕の先に、レースがあしらわれた袖口から覗くその白く幼い両手は確かに「僕」の意志で動く。


僕は必死の思いでベッドを飛び出した。


裸足の下に毛の長い水色のカーペットを感じる。


視線がいつもより低い。


ひらひらしたワンピースのような服は足がスースーして気持ち悪い。


壁際には白いアンティーク調の、高そうな家具が並んでいる。


箪笥の隣に立てかけられた縦長の鏡を覗き込み、僕は驚愕した。



すべすべの白い肌に腰のあたりまで伸びたストレートの黒髪の幼女。


その瑠璃色の瞳が僕を見つめ返していた。



待て待て、一旦落ち着こう。


これは夢か?


いや、夢にしては感覚も意識も鮮明だ。


だったらこれは現実なのか?


現実でこんなことあり得るのか?


あれ、現実って何だっけ?



思考停止状態に陥った背後でドアが開いた。


振り返ると、黒いワンピースの茶髪の女が唖然といった顔でこちらを見ている。


と思うと、


「シンシアお嬢様!」


部屋中に反射するような大声で叫びながら、突進するように抱きついてきた。


「お目覚めになったのですね!!」


灰色の大きな目を涙で輝かせながら、幻覚じゃないことを確認でもするかのように、頭やら頰やら肩をあちこち触れてくる。


その背後の開きっぱなしになった扉から、


「どうしたんだよ、アン!」


と言いながら、今度は小学生くらいの男の子がちら、と覗いて、


「お母様!シディーが目を覚ましましたよ!」


と、これもまた声を張り上げながら、バタバタという忙しい足音が遠ざかっていった。

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