最終話
───────憑依解除まであと90分──────
私達はようやく古賀の姿を見ることができた。でも、古賀はずっと目を覚まさない。ずっと呼びかけてるのに。
衣舞ちゃんは疲れちゃったのか知らないけど病室の机で寝ていた。
外はすっかり暗くて寒い。
「古賀……」
私は古賀の手をギュッと握る。お願い。私の憑依が終わるまで起きて。まだ言いたいことあるのに。やり残したことだっていっぱいあるのに。
「永音?」
誰もいないはずの後ろから声をかけられた。誰?古賀じゃない。
私は後ろを振り向くと。
「お母さん?」
そこには半透明の私のお母さんがいた。
お母さんは一年前くらいに火事で死んでしまった。
「永音。久し振り」
「う、うん。久し振り」
でも、何で今お母さんが出てきたの?
「ごめんね」
お母さんは急に謝る。
「え?何で謝るの?」
「だって、永音よりも私が早く死んで。永音を1人にさせちゃって」
「いや、そんなことで謝る必要なんてないよ。お父さんもお兄ちゃんもそんなこと気にしてないよ」
「ホント?」
「うん!」
お母さんは私を見てフフッと優しい笑みをこぼす。
「ねえ、そこにいるのって翼くんと衣舞ちゃん?」
「え?」
古賀とは幼馴染みだからお母さんも知ってるだろうけど何で衣舞ちゃんも知ってるの?
「何で衣舞ちゃんを知ってるの?」
「何でって、翼くんと衣舞ちゃん同じ保育園だったでしょ?」
「え!?そうなの!?」
古賀と同じ保育園なのは覚えてたけど衣舞ちゃんもいたっけ?
「あなた達すっごく仲良しだったんだから」
「そうだったんだ……」
私は振り向いて2人を見る。
みんな元々1つだったんだ。
「ありがとうお母さん。教えてくれて」
───────憑依解除まであと45分──────
私はずっとお母さんを喋っていた。ホントに久し振りだし会いたかった人だから。
「そう……事故」
「うん。医者が言うにはまだどうなるか分からないって」
お母さんはそっと古賀を眺める。
「ねえ、衣舞ちゃんはどう?」
「なにどうって?」
「どういう子なの?」
どういう子?お母さんは何でこんな質問をしたのか私には分からなかった。
「えーっと。静かで、恥ずかしがりやさんで、人見知りで、泣き虫で、寝るのが好きで……」
「うん」
「古賀が好き」
お母さんはちょっと驚く。
「へー、じゃあ永音の恋の敵って感じ?」
「え、ちょっとやめてよ」
「そうか衣舞ちゃんも古賀くんが好きなんだね」
お母さんは「やっぱり」という顔をして頷く。
───────憑依解除まであと1350秒─────
「ねえ、衣舞ちゃん起きて」
私は衣舞ちゃんの耳元で囁く。
「……ん」
衣舞ちゃんは目を擦りながらゆっくりと起き上がる。
「衣舞ちゃん、私もうすぐでお別れだからさ」
「え?」
時計はもう5時半を過ぎていた。あと20分くらいだ。
「ねえ、最後に1つお願いがあるんだけど」
「なあに?」
「6時が来るギリギリまで憑依させてくれない?」
中年さんが言ったことを思い出す。
「……うん。いいよ」
衣舞ちゃんは優しく言う。
───────憑依解除まであと675秒─────
6時まであと10分くらいとなった。
私と衣舞ちゃんは最後の入れ代わりをした。そして私は古賀が起きるように祈りながら古賀の手を握っていた。
さっき医者が言っていた。「もうすぐ目を覚ますはず」だと。
「もうすぐっていつだよ……」
早く目を覚ましてくれマジで時間ないから。
「古賀……早くしてよ」
「もうちょっと待ってみようよ」
衣舞ちゃんが優しくカバーする。
「お前、こんな時でも私だけに優しくないんだな……」
「永音ちゃん?」
私の古賀への悪口は加速し始める。
───────憑依解除まであと338秒─────
「おい古賀、あと5分しかないんだけど。いい加減起きろ」
「ねえ永音ちゃん。さすがにひどくない?」
「他人の寝坊にはうるさいくせに自分は寝坊するのか古賀?」
ホントに早く起きろ。ガチでもうすぐ6時なんだから!
「あ、衣舞ちゃん。1分前くらいになったらもう諦めるよ。元に戻ろ」
「……うん」
───────憑依解除まであと169秒─────
「……あと2分……」
「……ねえ永音ちゃん」
「早く起きろ古賀!」
「……ねえ永音ちゃん?」
「あ、ごめん何?」
───────憑依解除まであと85秒──────
「もうこのままでいいよ」
このままでいい?私は衣舞ちゃんが言ってることの意味が分からない。
気づけば半透明の身体は大分消えかかってる。
「このままでいいってなんのこと?」
「永音ちゃんはもう私に憑依したままでいいよってこと」
───────憑依解除まであと43秒──────
「……え?」
憑依したままでいい。ということは。
「いや駄目だよ!だって私がずっと憑依してたら衣舞ちゃんが消えちゃうんだよ!」
「……うん、知ってる」
「衣舞ちゃんはもう古賀とは話せないし古賀に好きになってもらえないんだよ!」
「……うん」
───────憑依解除まであと22秒──────
「衣舞ちゃんは私の変わりに死ぬってことだよ!」
私は必死に抗議する。
「だって……だって。私なんかより永音ちゃんが憑依したままの方が絶対いいよ」
───────憑依解除まであと11秒──────
「古賀くんは私より永音ちゃんのことが好き。永音ちゃんだってホントは古賀くんのこと好きなんでしょ?」
「……それは」
───────憑依解除まであと6秒──────
「……確かに私は古賀のことが好き!でもこれは衣舞ちゃんの身体だし!」
───────憑依解除まであと3秒──────
「ねえ衣舞ちゃん最後に聞いて!」
───────憑依解除まであと1秒──────
﹁
あ
り
が
と
ね
!
﹂
───────憑依解除まであと0秒──────
衣舞ちゃんはゆっくりと空気に身体が溶けていった。
衣舞ちゃんが消えた。私に代わって。ホントは私が消えるべきなのに。ホントは衣舞ちゃんの方が弱いのに。衣舞ちゃんの方が……。
「千葉……?」
私は後ろを振り返る。衣舞ちゃんの身体に憑依してるはずなのに古賀は「千葉」と私の名前を呼ぶ。
「古賀……!」
「お前どうした?すげえ泣いてるじゃん」
「そりゃあだって……」
私は泣いてることに今気づき涙を拭う。拭っても拭っても涙は落ちてくる。
「ねえ古賀。ううん翼!」
「なに?」
私は深呼吸をする。
衣舞ちゃん。私は貴方のことを絶対に忘れないからね!絶対!
﹁
私
、
翼
の
こ
と
が
好
き
!
﹂
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