第9話 最後の1日

──────憑依解除まであと24時間──────


 

 私が衣舞ちゃんに憑依したのは午後の6時。そして今日の午後6時。私達は病院に着いた。



「ねえ!古賀は……古賀はどういう状況なの!」

「ごめん、俺も分からないんだよ」

 私は病院にいた酒井っていうやつにあたる。

「俺もこのことを知ったのは最近なんだよ。あいつが自転車を運転中、車と接触して救急車でここに運ばれたって」

「であいつの荷物の中に「佐々木へ」って書いた手紙と箱があったからそれでお前に連絡しただけだ」

 手紙……?

「ねえ、その手紙って今ある?」

「ああうん。あるけど」

 そう言って酒井は封筒に入っていた手紙を渡す。

 そこにはこうあった。



 佐々木衣舞へ


 俺ちょっとあんまり手紙とか書いたことないから字下手だったらごめん。

 

 千葉がお前に憑依してから俺に必死に好意をアピールしてくれてありがとな。お前が俺を好きって気持ちは凄く伝わったよ。

 

 正直言うとお前のことちょっと可愛いと思ってたんだ。すぐ顔を赤くするところとか頷く仕草とか。

 

 でもごめん。やっぱ俺、千葉の方が好きだわ。確かに千葉はお前より天然でバカで頼りない。でもなんでだろうな。千葉には人を惹きつける力がある気がするんだ。

 

 俺はたぶんそれに惹かれたんだと思う。千葉も昔は俺に惹かれたんだと思う。惹かれた同士はくっついて離れないんだよ、磁石みたいに。


 でももうすぐ千葉の憑依が終わる。もう俺が好きな千葉はいないんだ。だから千葉が居なくてもまだ俺に好意をアピール出来るんなら。お前のことを好きになるかもしれない。


 あ、この手紙千葉には絶対見せるなよ。マジで恥ずかしいから。


 じゃ、また明日な。


                    古賀翼


 "また明日”か。ただ普通の言葉なのになんでこんな怖く感じるんだろうな。



──────憑依解除まであと12時間──────



「久し振りだな」

 病院を半透明のままうろうろしてると後ろから誰かに声をかけられた。

「……中年さん?」

「ああ」

 中年さんとは1ヶ月前に合った以来だった。

「もうすぐお前も憑依が終わると思ってちょっと様子を見に来たんだよ」

「……ああそうなの?」

「んだよお前、合った時と比べて全然元気ねえな」

「そりゃあだって、衣舞ちゃんの好きな人が危ない状態なんだよ!」

 私は思わず大きな声を出してしまう。

「じゃあ何でお前も気にしてるんだよ。好きなのは衣舞なんだろ」

「……で、でも私だって昔は好きな人だったの」

「今も好きなんじゃねえの?」

「……は?」

 私が今も古賀が好き?

「ま、とにかく明日お前の憑依が終わるのは変わりないんだ。どうあがいてもお前は衣舞と別れなきゃいけないんだよ」

 そして中年さんは少し間を開けてこんなことを言う。

「そうだ、お前が衣舞に憑依したまま6時になると憑依してる側の人間がまた幽霊に戻るからな」

「え?」

 ナニソレ。意味が分かんない。

「つまり6時に半透明になっていた方が消える。お前が衣舞に憑依したままだと衣舞が半透明になってるから消えてお前は一生衣舞に憑依することになる」

「え!?なにそれ!?」

 つまり私は消えないで衣舞が変わりに消えるってこと?

「だから気をつけろよ」

 それだけ言って中年さんは私の前から消えた。



──────憑依解除まであと6時間──────



 私達はずっと病院にいた。今はちょうどお昼。なので私は衣舞ちゃんに声をかける。

「ねえ、お腹空いたでしょ。私コレ買って来たからageる」

 私は衣舞ちゃんにコンビニで買ってきたパンを渡す。

「ありがと……」

 でも衣舞ちゃんはそのパンを持ったままで食べようとはしなかった。

「食べないの?」

 こくん、と頷く。

「でも何かしら食べないと」

 衣舞ちゃんはそれでもずっと下を向いたままだった。

 ぶんぶんと首を振る。

「ねえ衣舞ちゃん」

 衣舞ちゃんは何回も首を振る。

「衣舞ちゃん」

「やめて!!」

 衣舞ちゃんは私に向かって大きな声を発し、持っていたパンを投げつける。

「……衣舞ちゃん?」

 衣舞ちゃんがこんなに抵抗したのは始めてだった。

「もう、かまわないで!私なんかほっといてよ!」

 そして衣舞ちゃんは病院の奥の方へ走って行く。

「衣舞ちゃん!」

 衣舞ちゃんは涙目になっていた。

「……あれ?」

 私は自分の指先を見る。指が少し無くなって来てる?



──────憑依解除まであと3時間──────



 好き。ってなんだろう。

 そんなことを考えながら私は病院を歩いていた。

 私ってまだ古賀のことが好きなのかな?

 そうしていると私はどこからか誰かの泣き声が聞こえてきた。

 

「……衣舞ちゃん?」


 その泣き声を目指して歩くと病院の屋上にあるベンチに座っていた。

 衣舞ちゃんは何度も何度も誰かに電話をかけている。私も屋上へ入り衣舞ちゃんに近づく。


「ねえ衣舞ちゃん」


 衣舞ちゃんはゆっくり首を動かして私を見る。

「……なに?」


「誰に電話してたの?」


「……古賀くん」


「え?古賀に」


「うん……」

 衣舞ちゃんはまた古賀に電話をかける。出れないと分かってるはずなのに。

「ごめんね」


「え?なんのこと?」


「さっき怒鳴っちゃって」


「ううん、別に大丈夫」


 衣舞ちゃんは電話をひたすらかける作業をやめてベンチを立つ。

「ねえ、永音ちゃんってさ」


「ん?」


「古賀くんのこと好きでしょ?」


「え!?いやそんなことないから!みんなそう言うけど」


「ていうかずっと知ってたんだ。私と永音ちゃんが入れ代わってる時、古賀くんを見るとなんかドキドキしたもん」

 バレてたの?やっぱり私古賀のことが……。


「そうかもね。いやそうだよ。私は古賀のことが好き今でも」


 私はずっと心に秘めていたことを明かした。そうだ、古賀は私の幼馴染みで、初恋の人だもん。例え衣舞ちゃんが敵でも私は古賀にもう一回想いを伝えたい!



 そしてちょうど私達が話していた頃、古賀は──。



─────────あとがき──────────

   

 読んでいただきありがとうございます。

 残りあと1話となりました。そして最終話は明日投稿予定です(投稿できなかったらごめんなさい来週末になります)。

 最後まで読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします!

          NIZI



 

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