第3話 作戦難航!

「えええええ!?」

 と、私は気付いたら叫んでいた。なんで私驚いてんだろ。古賀が私を好きなことは知ってんのに。私の好きな人だったのに。

「え!?衣舞ちゃん!?」

 衣舞ちゃんは階段の方へ走って行ってしまった。

「わああどうしよう、ちょ私衣舞ちゃん追うから……」

「おい千葉!」

 私の姿が見えるのか、古賀は私の目を見て叫ぶ。

「正直俺のことどう思ってる?」

 正直って何?どういうこと?

「え?」

「だから俺のことまだ好きなの?」

 古賀は真剣な眼差しで私を見てる。

「いや!そんな訳ないじゃん!」

「は!?」

 古賀は期待はずれの答えたを聞いたらしく驚く。

「だってお前、あの時『私も』って言ってただろ!」

「あれは!……あの時はホントにそう思ってただけで、今は好きとかそういうんじゃないから!とにかく今は衣舞ちゃんの力になりたいだけだから!」

 まるで言葉を投げ捨てるように言った後私は衣舞ちゃんを追いかけるために走った。

 古賀なんて好きだけだから。あんなやつ、悪く言えば私を殺した人だから。

 でもホントに私は翼のことが好きじゃないのかな?

 てか、衣舞ちゃんどこ行ったの?さっきから探してるけど見つからない。

「衣舞ちゃん!?どこーっ!?」

 教室、廊下、トイレ、下駄箱。どこにもいない。どこ行っちゃったの?

「衣舞ちゃーん!?返事してーっ!?」

 私は校舎を出て外までも探してみる。しかし、衣舞ちゃんは学校内にはもういなかった。

 ホントにどこ行っちゃったの?他に衣舞ちゃんが行きそうな場所……あ!

 案の定、衣舞ちゃんは公園に居た。私が衣舞ちゃんに憑依したあの公園。そしてあの時みたいに衣舞ちゃんはブランコに座っていた。

 静かにブランコを揺らしながらずっと下を向いていた。

「……衣舞ちゃん」

 私も静かに話しかける。いや、今話しかけるのはダメなんじゃない?衣舞ちゃんは失恋した訳だし古賀は私のことが好きとか行ってたし。

 そんなことが頭の中でぐるぐる回って時間が通り過ぎる。衣舞ちゃんは相変わらず下を向いてる。

「永音……」

 急に喋り出した衣舞ちゃんを私は見る。

「もういいよ。憑依なんかしなくても」

「……え?」

 なんでそんなこと言うの?

「え?どうして?」

 衣舞ちゃんはようやく顔を上げる。

「だって古賀くんは私じゃない、永音ちゃんが好きなんだよ。私のための作戦だったのになんで永音ちゃんを好きになっちゃうの?」

 その言葉は衣舞ちゃんの本心のように聞こえた。まるで今まで引っ込めてた思いをそのままぶつけたような。

「私だけの力で私を好きになってもらいたいから」

 衣舞ちゃんがブランコから立ったと同時に涙みたいな雨がポツンと私の手のひらに一滴垂れた。

 気づけば雨は本降りになっていた。パシャパシャとゆっくり歩く音を追いながら私は衣舞ちゃんについていく。

「ただいま……」

 衣舞ちゃんは家の玄関を開けて真っ直ぐに自分の部屋へ行った。濡れた身体は拭かずにそのままベッドへ倒れる。

「……ねえ、衣舞ちゃん。身体とか拭いたら?風邪引いちゃうよ」

 衣舞ちゃんは私の声を無視して1ミリも動かずうつ伏せになっている。

 そして衣舞ちゃんはご飯も食べないまま寝てしまった。



 ……うう。ん……。あれ?……もう朝?

 そうだ。私は久し振りに寝たんだ。別に幽霊は寝なくたって大丈夫だけどなんとなく寝たい気分だったんだ。で、なんか夢を見たような気がする。その夢には……。

「て、あれ?衣舞ちゃん?」

 ベッドの上に居たはずの衣舞ちゃんが居なくなってる。え?

 私は時計を見てみると8時半。そりゃいるわけないか。私は幽霊になっても寝坊癖が直らないことを恥ずかしく思いながら衣舞ちゃんの学校へ向かった。


 学校へ着いた頃にはもう朝のホームルームが終わっていて衣舞ちゃんも居た。あれ、衣舞ちゃんちょっと顔赤くない?それに体調も悪そう。

「なあ、佐々木。辛そうだけど大丈夫か?」

 隣に居た古賀は心配そうに衣舞ちゃんに話しかける。でも衣舞ちゃんはホントに辛そうで返事はせずそのまま立ち上がって廊下を出た。

「おい佐々木!?」

「衣舞ちゃん!?」

 私も思わず叫んでしまう。やっぱり風邪引いちゃったのかな?私が廊下に出たらもう一限を知らせるチャイムが鳴って先生が入ってくる。

「衣舞ちゃん!大丈夫!?」

 衣舞ちゃんは保健室に行こうとしたのかは知らないが力尽きて廊下に座り込んでしまった。

「衣舞ちゃん?」

 衣舞ちゃんはゆっくり赤い顔を上げる。

「衣舞ちゃん大丈夫?動ける?」

 ブンブンと首を横に振る。ヤバいどうしたら……。

 そうだ!と私は思い衣舞ちゃんに憑依する。


 よし、憑依できた。と思ったら何これ。身体は熱いしダルいし気持ち悪い。こんな状態で学校に来てたの?確かに動く気力もわかない。

 でも私は決めたんだ。1ヶ月間衣舞ちゃんのそばに居るって。古賀との恋を果たすって!

 私はまた幽霊に戻って思い切り叫ぶ。

「古賀ーっ!!」

 私の声は衣舞ちゃんと古賀にしか聞こえない。



 そういえば佐々木。なんか顔赤かったな。

 一限は情報の授業で聞いても意味不明なプログラミングの説明をタブレットを眺めながら聞いていた。

 あいつ今日はでっかい声で「おはよう」も言ってないし千葉の姿も見当たらない。なんかあったんかな。佐々木は授業に出ないし。

「じゃあ今日は15日だから古賀」

「……え?」

 情報の先生に急に指される。

「HTMLの見出しタグがh1。じゃあ改行タグは?」

 は?HTML?見出しタグ?h1?

 改行タグ……。改行だからkgとか……?根拠のない考察をしていると廊下の方からバカでかい声が聞こえた。

「古賀ーっ!!」

 この声って千葉!?千葉の声は俺にしか聞こえないらしくクラスメイトや先生はなにも反応しない。

「衣舞ちゃんが大変なの!!来て!!」

 反響しながら聞こえてくる好きな幼馴染みの声は俺を反応させた。千葉が俺を頼ってるんだ。

「古賀。改行タグは?」

 先生の質問をガン無視して俺は席を立ち廊下へ駆ける。

「お、おい古賀!?」

 先生の声とクラスメイトのざわめきももう俺の耳には入らなかった。



「あ、来た!」

「おい大丈夫か佐々木!?」

 困ってる人がいたら手を差し伸べる。やっぱコイツ変わってないな。そういう所が好きだったのかも。

「動けるか佐々木?」

「動けないからお前を呼んだんだよバーカ」

「おい、授業を無断で抜けてきたのにバカって!」

 そして私の毒舌も変わってないな。

「動けないなら仕方ないな……」

 そう言って古賀は衣舞ちゃんをお姫様抱っこする。

「え!?古賀!?」

 衣舞ちゃんの顔はもっと赤くなる。

「仕方ないだろ。行くぞ佐々木」

 そうして古賀は衣舞ちゃんを保健室まで運んでくれた。



「ありがとね古賀」

「まあ俺も言わないと。ありがと」

 衣舞ちゃんは早退することになって私は古賀を教室まで送っていた。

「あ、そうだ」

「ん?何?」


「衣舞ちゃんの風邪が治ったらさ衣舞ちゃんとデートしてよ」


「ヤダ」

「だから早いって!」

 元々コイツが私に告白して衣舞ちゃんは失恋して雨を浴びたから風邪引いたのに。

「お願いだよ。私達だってよくデートしたでしょ」

「いや一回もしてないだろ!お前病気だったんだから」

 まあ、確かに。私病気で遊んでる暇なんてあんまりなかったからな。

「そうだよ。私だってホントはデートくらいしたかったもん。だから……そうだ!」

 古賀は疑問の目で私を見る。

「最初は衣舞ちゃんとデートしてその後私が憑依するから私とデートするってのはどう?」

「はあ!?何言ってんだよ!?」

 廊下のど真ん中で古賀が大声を出す。

「なんで俺が二股してるみたいにならなきゃいけないんだよ!」

「外見はどっちも衣舞ちゃんだから大丈夫だよ。それに古賀は私のことが好き。衣舞ちゃんは古賀のことが好き。ある意味ウィンウィンじゃん!」

「どこがだよ!」

 ヤバい。めっちゃ楽しみ。どんなデートになるのかな?

「じゃ!そういうことでよろしく〜!またね!」

「おい待てよ!」



 デート当日。

 場所は古賀が決めたショッピングモール。

「おっせーなあいつ」

 古賀が腕時計を見ながらショッピングモールの入口で待っている。

 衣舞ちゃんはなんとか治ってデートも承諾してくれた。

「おまたせ!古賀!」

 私は古賀を見つけたので大声で名前を呼ぶ。

 今日こそは絶対、衣舞ちゃんを好きになってもらうからね!翼!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る