第2話 作戦開始!
憑依についてちょっとしたづつ分かった気がする。例えば私が衣舞ちゃんに憑依している時は体温をしっかり感じる。痛いとか暑いとかお腹すいたとか。幽霊にはそんな感覚ないから憑依するのは楽しい。
そして憑依してる時に衣舞ちゃんの記憶も入ってくる。だからクラスメイトの名前とか出席番号とか自然と私は知っている。衣舞ちゃんが喋らない理由も分かった気がする。
憑依してると衣舞ちゃんはホントに古賀が好きなんだと思う。古賀を見ると心臓の鼓動は早くなるし気付いたら古賀を目で追ってしまったり話す時はめっちゃ緊張したり。だから私は。
「おっはよ~!翼!」
教室にいる古賀に向かって私は大きな声を出す。今、私は衣舞ちゃんに憑依している。
「お、おはよ……佐々木?」
古賀もクラスメイトもみんな「え?」という顔で私を見る。そりゃそうだよね。普段、衣舞ちゃんはこんなことしないもんね。
『ちょ、ちょっと……』
半透明になってる本当の衣舞ちゃんが声を震わせながら私に話しかけてくる。
「今の佐々木の声?」
「しかもクソデカイ声だったし」
「なんであいつ呼び捨てにしてんの?」
衣舞ちゃんは恥ずかしさで顔を赤くする。
「任せてよ衣舞ちゃん。今日こそはコイツに好きになってもらうから」
衣舞ちゃんは「大丈夫かなコイツ……」という顔をして私を見た。
「ねえ、翼。私教科書忘れちゃった」
「だから何だよ」
「見せて」
「分かったよ……」
古賀は教科書を私に見せるだけだった。
「え?机くっつけないの?」
「小学生かよ」
コイツ……。私が憑依してるって見抜いてやがる。普段の衣舞ちゃんだと優しいのに私には塩対応かよ。
「ねえ、お弁当一緒に食べようよ!」
「ヤダ」
「だから返答が早いって!」
「ねえ、一緒に帰r――」
「――よし、部活行くか」
「無視!?」
「ねえ、放課後にさ!」
「あ、俺塾あるから」
「まだ言い終わってないのに!」
「くそあいつ……」
家(衣舞ちゃん)のベッドにうつ伏せになって私は疲れたきった声で言う。
『永音ちゃん……』
衣舞ちゃんが小さな声で寝ている私に言う。
『そんな必死にならなくてもいいんだよ……古賀くんは私のことそんな好きじゃないみたいだし……』
「いや、なんとかしてあげたいの衣舞ちゃんを」
私は起き上がって衣舞を見る。
「そうだ!」
私がなにかをひらめくと同時に衣舞ちゃんが首をかしげる。
「衣舞ちゃん。まず外見から変えたら?」
『……外見?』
衣舞ちゃんはメガネをしていて髪はそんなに可愛いというわけでもない。
「そう!まずはさメガネ外してみようよ。絶対可愛いから」
『え?』
「あと髪型も変えたら?いっそのことショートカットなんかにしちゃったら?」
『え!?』
「おっはよ~!翼!」
まだ衣舞ちゃんの大声挨拶にクラスメイトは慣れてなくて今日も一斉に私を見る。
「おはよ……って佐々木!?」
古賀は驚いた表情で私を見た。
「アレ佐々木さん!?」
「めっちゃ変わったね!」
「なんか可愛い!」
「佐々木ってこんな可愛いんだな」
クラスメイトも私を見て沸き立つ。
衣舞ちゃんはメガネからコンタクトレンズにして長い髪をただ結ぶだけだった髪型がショートカットになった。これを見てダサいと思う人なんていないだろう。
「どう翼?」
「どうって……まあ」
「可愛いな」
その言葉がズキューンと私と衣舞ちゃんに突き刺さる。やっと貰えたよ衣舞ちゃん。言って欲しかった言葉を!
「ありがと。翼♡」
「うわキモ」
「はあ!?」
その日の放課後、再び古賀に告るためあいつを屋上に呼んだ。
「あ、あの佐々木さん」
屋上に行く途中、クラスの男子に話しかけられる。確かこいつバスケ部のエース。
「えーとその……」
「んだよ、早くしろよ」
その男子はずっともじもじとしてた。なんだよこいつ。
「いや……最近なんかすんげえ可愛くなってすんげえ口悪くなったなあ~って思って」
「何が言いたいんだよ……?用事あるから」
私はその場から去ろうとするとさっきの男子が「ちょっと待って!」と呼び止める。
「す、好きなんです!」
「はあ!?」
急は告白に私も衣舞ちゃんもビックリする。幽霊初の告白だわ。
「佐々木さんのような人がその……タイプでございまして、もしよかったら俺と付き合ってもらっても……」
「や~だ」
「ええ!?」
男子は愕然として口を開けたままだった。
「じゃ」
そう言って私はその場を去る。あービックリした急に告白されるなんて。
私は急いで学校の階段を駆け上がって屋上を目指す。
屋上には既に古賀が待っていた。夕日のオレンジがスマホをいじって立ってる古賀を照らしている。そんな美しい風景に何故か心が奪われる。きっと衣舞ちゃんに憑依してるからだ。
「おまたせ!翼!」
「お、やっと来たか」
古賀がスマホをポケットにしまって私の元に近づいてくる。
「用件は?また告白か?」
「当たり前じゃん!」
私も古賀に近づき告ろうとすると。
『永音ちゃん』
「え?衣舞ちゃん?なに?」
急に衣舞ちゃんが話しかけてきた。半透明の衣舞ちゃんは顔を赤くしながら私に言う。
『お願い。私から告白してみたいの』
「え?衣舞ちゃんが?」
「お前さっきから誰と話してんだ?」
そうか、古賀には聞こえないんだ。本当の衣舞ちゃんの声が。
「うん、分かった。いいよ」
そう言うと私と衣舞ちゃんは入れ代わり憑依する前の状態に戻る。私は半透明になって衣舞ちゃんを見つめていた。
「佐々木?」
目の前に古賀が居てビックリしたのか衣舞ちゃんは少し下がる。
「もしかしてお前、千葉じゃない方?本当の佐々木?」
こいつ見抜くの早いな!と私は思う。衣舞ちゃんはこくんと静かに頷く。
たぶん衣舞ちゃんは凄く緊張してる。元々他人と話すのが苦手な子だし好きな人の前で告白となるとよけいに。
「佐々木?大丈夫?」
衣舞ちゃんはポケットから咄嗟にスマホを取り出して文字を打つ。
そして衣舞ちゃんはスマホ画面を古賀に見せる。顔を赤くしながら上目遣いで少し涙目になりながら。
︽
好
き
︾
「……好き?」
衣舞ちゃんは目を閉じながら「うん!」と大きく頷く。そしてもう一回衣舞ちゃんはスマホを打つ。
《だから、付き合ってくれませんか?》
「付き合う……」
その文字を辿るように古賀はスマホに書かれてる文字を読む。
「衣舞ちゃん……」
私は思わず言葉が漏れる。衣舞ちゃんえらいな。言葉に出来なくても伝えられて緊張しても好きな人と向き合えて。
衣舞ちゃんは閉じた目をゆっくり開きながら古賀を見る。これはさすがにOKしてくれるでしょ。
「佐々木」
名前を呼ばれた衣舞ちゃんはビクッとして顔をますます赤くさせる。少し足が震えてる。
「ごめん、佐々木とは付き合えないや」
衣舞ちゃんは「え?」という表情で古賀を見る。
「ええええ!?」と私も叫ぶ。
衣舞ちゃんは戸惑ってもう一回スマホに文字を打つ。
《どうしてですか?》
その文字を見た古賀は少し間を置いてから口を開く。
「俺、好きな人他にいるから」
「……え」
「はあああああ!?」
私と衣舞ちゃんの声が重なる。
「誰だよ翼!」
「お前だよ」
古賀が急に私に向かって声を出す。
「……え?私の声聞こえるの?」
「まあ、少しだけ霊感はあるし」
え、なにこいつ。私のことも見えるってこと。しかも……。
「え!?今『お前だよ』って言った!?」
「ああ、そうだよ」
「俺はお前が好きなんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます