とある廃墟ビルディングにて

@Tadashi_Kimura

第1話

都内西北に位置する武蔵野台地を東西に京武鉄道が走っている。その路線の真ん中付近に村山台という駅がある。 


 村山台駅は京武線沿線の他の駅の中に比べると、その周辺に観光スポットやランドマークが少ないかわりに閑静な住宅街の中に気軽に利用できるスーパーやクリニックが多く、住みたい場所にナンバーリングされる程ではないが住み安いと評判のエリアだ。急行なら新宿まで30分程で行けるので通勤通学に利用する人々のベッドタウンとしても人気が高く、多摩動物公園や国営昭和記念公園にもアクセスしやすすいため家族世帯にも人気がある。


 その村山台駅に並行して東西に延びる幹線道路はよく整備されていて、並木の連なるその歩道を都立雛城高校の制服をきた二人の生徒が最寄り駅の村山台駅方面へ向かっていた。


 二人の少女は下校中のおしゃべりを楽しみながら歩いていた。自分の母親の愚痴から、今日行われた抜き打ちの英語のテスト、または今ネットで大流りしているサブスクドラマのことなどについて話題を変えながら、メガネを掛けた方の少女が突然なにか大事なことを思い出したように、一段階テンションを上げて、最近よく囁かれているある噂話を切り出した。


「ねえ、そう言えば知ってる?あの村山台駅の近くにあるビル?心霊現象が起きてるっていう廃墟なんだけど」


「え?どこのこと?」


「村山台駅のホームから見える廃墟ビル!」


「ああ・・・そういえば、夜になっても真っ暗なビルあるよね。たしかにあれ廃墟ぽいね」


「そう、それ!」レイカがテンションを一段上げた声で答えた。


「で、どんな話?」


「うーんとね、人によって話が違うみたいなんだだけどぅ。たぶん一番有名なのが夜中に誰もいないはずの廃墟の最上階で赤い二つの光が見える、っていう話」


「何それっ・・・てかそれあれなんじゃない?窓ガラスに反射したネオンの灯りとか、近くを通り掛かったクルマのテイルライトが反射した光とかじゃないの?」ヨウコは表情を変えないまま、合理的な思考の結果を表明した。


「いや一人じゃなくて、多数の目撃談があるんだってばぁ。見間違いじゃないと思うよ」


「ってかそういえばこの前マユカからその話聞いた気するわ・・・」


「なーんだ知ってたの?私が聞いたのは、うちのお姉ちゃんの彼氏の友達がその廃墟に行った時、実際にその赤い目の女の人影らしいモノを見たって体験談なんだけど・・・・」


「それって本人から聞いたの?」すかさずヨウコは質問を投げかけた。


「え?いやぁうーんと・・・お姉ちゃんからの又聞きだけど」


「なーんか怪しいなぁ・・・・にしてもその赤い光が二つって何なの?」


「えーと噂だとさ、そのビルの屋上から飛び降りた女性がいたらしいの。十年くらい前の話らしいんだけど、ビルの管理会社の人がその死んだ現場を見たらしいだ。それでその時倒れてた女の人は全身血まみれなわけなんだけど、何よりも恐ろしかったのが・・・・大きく見開かれたまま死んでるのに両目が真っ赤に染まってだったって・・・・目が出血してたのかもしれないけど」


「うーん・・・・あの廃墟ビルって十階未満くらいの高さだよね。確かに飛び降りってあったかもしれないけど・・・」


「でしょ?それでその飛び降り事件の後、しばらくしてから赤い目の幽霊が出るって言われ始めたんだって。それでその幽霊に出会って一度でもその赤い目の幽霊と視線が合ってしまうと、その女の幽霊に憑り殺されるらしいよ・・・・」


「てかそれな。それよくあるパターンだよ」


「あっヨウコ!なにそういうこと言うわけ?あんま馬鹿にしてるとマジで祟られるよ!おねえちゃんも言ってたけど、あのビルは事故物件拡散サイトの青島テルミにも詳しく載ってるらしいし、リアルガチなほんまモンの事故物件だって言ってたもん!」


「祟られるとかって、言うのは簡単だけど、それってどうかと思うよ。青島てるみとかで言う事故物件っていうワードはキャッチーだけど、それって結局PV稼ぎが目的でしょ?人の不安煽ってさ人の心を言葉でたくみに操るのは、オカルトや似非スピリチュアルで食ってる人たちの定番のやり口だよ・・・・」



「なんか反オカルト科学者みたいなこと言うね・・・・」



「わかったよ最後までちゃんと聞くからさ。そしてその続きは?」


「えーとねぇ・・・・赤い目を目撃してしまったビル管理人の男性は夢の中で、毎日のように暗闇の中で赤い二つの光を見るようになっちゃったんだって。一晩に何度も悪夢を見るから最終的に不眠症にちゃっちゃって、困り果てたその男性は、ある縁切り神社に行ってお祓い受けたらしいの。でその時相談した神社の宮司さんには、夢の中に出てくる赤い光の正体がそのビルで自殺した無念の女性の地縛霊に違いない!って言われたんだって。お祓いを受けたおかげでそんな悪夢は見なくなったけど、亡くなった女の怨念がさあまりに強すぎるからビルの除霊のほうは残念ながら不可能!って言われたらしくて、結局その男性はビルの管理人の仕事を辞めてしまったんだって」


「いやちょっと待ちなよレイカ、冷静に考えよう。まずひとつは、本当に自殺した女性がいたかも怪しいよ。十年前の自殺ってさ、あのビルが廃墟になったのって、もっと前のことじゃなかった?なのにビルの管理人がいてその自殺現場を見たってどういうこと?そしてふたつ目は、またメタ突っ込みなっちゃうけど『取り憑かれる』とか『怨念』とか『お祓い』とかのワード全部、さっき言ったようにベタ過ぎるんだよ。どうしても胡散臭さが消えないっててか、私はそこに誰かの思惑が透けて見えてしまう気がするよ」



「お祓いとか祟りとかの何処が胡散臭いの?」



「それじゃ例えば、事故物件住みました!みたいなYouTuberとか芸人いるでしよ?」



「うん」



「あれなんか逆に祟りなんかないっていう証明をしてるようなもんだよ」



「え?それどういう意味?」



「事故物件が怖いて感じるのは、そこで死んだ人の怨念とか生者への逆恨みとか想像してでしょ?」



「まぁそんな感じかな?」



「それが普通の感覚だとわかるけど、さわざわざ事故物件を選んで住むことそれ自体エンタメにしようって人は、そこで死んだ死者を別に怖いとも気の毒とも思っていないから出来るんじゃない?それどころか逆に不遇な死者を利用した自分の売名とお金が目的じゃないの?でさぁ祟るとするなら死んだ自分をダシにするそんなヤツが第一候補にしない?もし私が事故物件で死んだ怨霊だったら間違いなくそんな芸人から最初に地獄に落とす!」


「すげぇ怖いこと言うよなぁ・・・。もしかしてもう取り憑かれてる?たしかに一理あるかもしれないけどさぁ、霊感のない人が気づいてないだけで怨念とか祟りってあるんだと思うよ。この話も確かに胡散臭い噂話かもだけど、煙の立たないところに火が付かないだっけ?とか言うでしょ?」



「それわかるけど、かなりレイカの頭オカルト脳になってない?たしかに今は空前の怪談ブームとからしいから無理もないかもだけど」



「な、なにその憐憫の眼差し・・・。いやいや!そもそもヨウコのほうがさ、ガチってかこういう手の話好きじゃん?いわゆるオカルト系の話ってよっぽど私なんかより詳しいじゃん?だから話したんだけどなぁ・・・」



「いやそれはたしかに好きは好きだけね。ここでオカルト業界の大御所、アラマタ先生のお言葉を借りればさ、現代社会の大量消費されるファストフードみたい消費されるレイワの時代の怪談話の多くが、こすられまくったのテンプレ寄せ集めで、ヒップホップミュージックと同じような作りをしているって言ってるんだよ」


「ラップ?」


「いや、ヒップホップはサンプリングっていう手法を使ってるんだけど、怪談も同じような感じで、過去に受けた怪談話を幾つか見繕って、筋や表現を継ぎ接ぎして新たに作ってるっていう意味。つまり魂のないプラスティックで出来た綺麗な造花や合成樹脂みたいなものだって。受けがいいからって即席的怪談業界人が増えてから仕方ないんだろうけど、いまや実話怪談と言っておきながら、ホラ吹きデマボークみたいな人たちの話にも見境なく手を出して痛い目に遭っちゃう怪談師もいるらしいよ。あとAIで作ってんのに実話とか言ってる怪談師ならぬペテン師もいとか・・・。だからレイカも人から又聞きした話を簡単に信じないほうがいいって」



「そんなこと言ってヨウコのほうこそ怪談とか好きなくせに。オタクっていうかほとんどマニアじゃん」



「もちろんまともな怪談師もいるし、その人たちの話って芯を食ってむっちゃエグ刺さるのしってるよ。ただあたしはなんでもかんでも心霊とか信じてるわけじゃないよ。あと怪談ていう枠でくくってるわけじゃなくて、幽霊や死者が出てくる話ってさ、物語として引き締まるんだよね。時々ガラスの天井突き破ってエモさが限界突破するし」



「言ってることちょっとわかるけど、あーしそのアラマタ先生て何者か知らんし」



「まあそっか、アラマタ先生隠居してあんま表に出ないからね。それは置いておいてさぁ、そもそもオカルトって言うのは、ラテン語で『秘められた』『隠された』っていう意味で、真実や因果が判明しないからこそオカルトなんだよ。だから真相とか因縁とか説明は必ずしも必要ないんだってこと。例えば、その廃墟のビルで自殺した幽霊で間違いないんだよ!って断言したら、もうすでに本質がオカルトじゃなくなるってわけ」


「なんでそんなこと知ってんの?女子高生普通知らんて。てかあたし難しい話は苦手だし。知ってるでしょ?」レイカが少々渋い顔をして答えた。


「はいはいごめんごめん・・・あやまるって。てかまあレイカくん、都市伝説とか噂話をそのまま真に受けたらイカンのだよ。それが知り合いに直接聞いたとしても話半分にしてたほうがいいっていう結論」 



 そんな感じでおしゃべりを続けた二人は、もうほどなく村山台駅という地点まで来ていた。このまま次の四つ角を直進すれば駅入り口。または右手に曲がりその道をまっすぐ歩いて行けば100メートルもしないでその右手に噂していた廃墟のビルディングがあるはずだ。



「せっかくだからさぁ、ちょっと近くで見てみない?」 レイカがそこでヨウコに提案した。



「えっマジで?いまからいくの?」



「実物見てみるのもいいでしょ?ヨウコ実際に見てどう思うか聞かせてよ?そのビルってこっからすぐ近くじゃん。あっちに曲がった先だよね?」




「そういや小さい時にはもうあのビルもう廃墟になってたけど、不気味っていうより変に不思議な存在感あったよね。なんかうーん・・・話に聞いてて気になるっちゃーたしかに気になる」




「でしょでしょ?行ってみようよ」



 ヨウコとレイカはこうして目に見えない不思議なチカラのせいか、はたまた若い彼女たちの溢れる好奇心に突き動動かされたかしていつも通りまっすぐ駅へには向かわず、右に曲がって廃墟のビルに向かうのだった。



(ここまできて・・・・・AIの肥やしやKadokawaに魂を売るのも嫌だなと作者は思うであった)



 その後二人が廃墟ビルディングに入って行く姿が近隣に備え付けの防犯カメラに捉えられていたものの、出くる姿がなかった。二人ともそれぞれ家族の元に帰ることはなかったという。

BAD END

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