Bonus Point +9 私以上に先輩っぽくない人だから

「お姉ちゃん」


「ズッキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!」


「わわっ! ど、どうしたの!?」


 翌日の昼休み。いつものように図書準備室でお昼を食べようと思って移動していると、突然七海ちゃんに話しかけられた。


「妹萌え~!」


「本当にどうしたんですか!?」


 七海ちゃんに自然な感じで『お姉ちゃん』と呼ばれたことで私の中で何かが目覚めていた。


「ごめんごめん。七海ちゃんが可愛いから悪いんだよ?」


「よ、よく意味がわからないのだけど……」


「いいのいいの。気にしないで。それでお姉ちゃんに何か用?」


「あっ、そうだった。ちょっとお兄ちゃんのことでお話ししたいことがありまして。あっ、でもこれからお昼だったかな?」


「んーん。平気だよ。じゃあこっちこっち。一緒に図書準備室でお昼食べよ」


「はい」


「あっ、でもこの時間だと私の友達も一緒だけどいいかな?」


「は、はい。私の知らない先輩ですか。何だか緊張します」


「んー、緊張しなくても大丈夫だと思うよ。私以上に先輩っぽくない人だから」


 お昼はいつも図書準備室で月ちゃんと二人で食べている。

 月ちゃんが相手なら七海ちゃんも恐縮しないで済むだろう。

 そう思っていたのだけど――


「こ、こここここんにちはっ!」


「わわわっ。え、ええええっととと……こ、こここここんにちはっです!」


「は、ははは、初めましてっっ! はせぎゃわにゃなみと言いますっ!」


「にゃなみさん……ですか。わ、私は、その、ほ、ほほほ、星野ちゅきはです!」


「こ、この度は突然お邪魔しちゃって……その……」


「こ、こちらこそっ! 私なんかが居ちゃってごめんなさい!」


「そ、そんなっ! ちゅきは先輩は何も悪くないです」


 ……似た者同士か。キミらは。

 史上最大に合わせてはいけない組み合わせだったのかもしれない。


「二人とも落ちついて。月ちゃんごめんね。この子は……えっと……」


 長谷川佐助君の妹さんだよ、と言いかけて止める。

 そういえば月ちゃんに佐助君の紹介や説明をしていなかった気がする。

 仕方ないので私は互いの自己紹介をすると共にこれまでの経緯を説明した。







「そうだったのですか。C組の方と試験勉強を」


「そうなんですよ月羽先輩。あの面倒くさがりなお兄ちゃんが勉強なんて信じられなくて」


「でも学年三位の方なんですよね。面倒くさがりなのは表の顔で、裏では凄い努力家な方だったりするんじゃないですか?」


「ないない。それはないですよー。兄を買いかぶり過ぎです」


 ……なんか物凄いスピードで仲良くなったなぁ。

 似た者同士だけあってどこか波長があったのかもしれない。


「ところで七海ちゃん。何か私に話があるって聞いたけど?」


「あっ、そうなんですか? なら私は席を外しますね」


「いいですいいです。月羽先輩も居てください。突然お邪魔しちゃったのは私ですし、聞かれて困ることでもありませんので」


「そうですか? ありがとうございます七海さん」


「わわっ、私に『さん』付けなんていりませんよ~! どうぞ呼び捨てにしてください」


 残念ながらそれはしない子なのだよ七海ちゃん。私にも未だに名字呼びだし、恋人にも『くん』付けする人だから。


「それで、兄のことなのですが、お姉ちゃんはお兄ちゃんのことをどれくらい知っていますか?」


 意味深な聞き方をする。

 そういう言い方をされると、まるで佐助君に超能力的な特殊能力が隠されているみたいだ。


「えっと……優しくて、面白くて、頼りになって、気が利いて、面倒くさがりで、でも私の我儘に付き合ってくれて、超が付くほどお人好しで、あとあと――」


「も、もういいよお姉ちゃん。なんか濃厚なのろけ話を聞いている気分になった」


 うーむ。まだまだ言い足りないのだけど止められてしまった。


「お兄ちゃんは本当に面倒くさがり屋です。たぶんお姉ちゃんの思っている以上に。世の中に『面倒くさがり屋選手権』があったら間違いなく優勝候補筆頭です」


 その選手権はどうやって競うんだろう。

 しかし、七海ちゃん、どうしても佐助君を面倒くさがり屋の権化にしたいみたいだ。

 本当にグウタラ兄貴好きの妹さんなのかもしれない。


「でもそんなお兄ちゃんが今回の試験勉強だけは積極的なの」


「あっ、それは私の我儘に付きあわせちゃったせいで」


「ううん、だとしても不自然だよ。お兄ちゃんの面倒くさがり屋はそんなものじゃない。怠ける為なら平気で仮病すら利用する人だもん。私がお願い事してもいつもお兄ちゃんは全力で拒否するんだから」


「そ、そうなんだ」


 恐るべき長谷川佐助の面倒くさがり。

 こんなに可愛い妹のお願いも聞けないとはけしからん。


「……たぶんお姉ちゃんだから」


「え?」


「お姉ちゃんのお願いだから、お兄ちゃんは頑張っているんだと思うの」


「それって……どういう……?」


「どうもこうもそういうわけだよ♪」


「…………」


 そういうわけ……って……もしかして……い、いやいや……で……でも……


「そのことをお姉ちゃんに知っておいて欲しくて今日はここに来たんだよ」


 すごく意味深な言葉を言い残し、七海ちゃんは撥ねるようにソファから立つ。

 そのまま戸の前まで歩き出し、七海ちゃんは出ていく前に顔だけをこちらに向けて可愛い笑みを浮かべた。


「そうそう。それともう一つ――」


 いい笑顔を浮かべたまま、七海ちゃんは最後に衝撃的な事実を言い放つ。

 それが学期末試験前日に起こった出来事だった。







 試験当日。

 冬休み前からの勉強の成果が試される日。

 そして私の運命を決める日でもあった。

 即ち佐藤光との勝負。

 勝敗は後日に張り出されるランキングによって付けられる。

 今回こそは意地でも佐藤光より上に名前を載せなければならない。

 大丈夫。自信はある。

 私は佐藤光と違って一人ではないのだから。


「小野口さん、頑張りましょうね!」


 月ちゃんから励ましを受ける。


「うん!」


「仮に負けても心配すんな。そんときはアタシがアイツを締めてくるから」


 青士さんからも励まし(?)を受ける。


「う、うーん……」


 相変わらず暴力的な思考だけど、残念ながらまた洗脳されて帰ってくる未来しか想像できなかった。


    ブルブルブルッ!


 カバンの中でケータイが静かに震えた。

 見ると、メールが三件も届いていた。




  ――――――――――

   From 高橋一郎

   2013/1/16 8:20

  Sub いよいよ

  ――――――――――


  今日が勝負の日だね

  応援しかできないけど頑張れ!


  -----END-----


  ―――――――――――




 高橋君……

 こういうほのかな気遣いが本当に嬉しい。

 ありがとう。頑張るよ。




  ――――――――――

   From 長谷川佐助

   2013/1/16 8:31

  Sub 無題

  ――――――――――


  勝負とか気にせずにいつも

  通りにな

  いつも通りの希ならきっと

  大丈夫だから


  -----END-----


  ―――――――――――




 佐助君……

 一緒に試験勉強をした私の相棒。

 昨日の七海ちゃんとの会話が脳裏に蘇り、少し赤面する。

 私の為に死力を尽くしてくれてありがとう。

 絶対に……勝とうね!




   ――――――――――

   From 池=MEN=優琉

   2013/1/16 8:35

  Sub Re: ( -`д-´)

  ――――――――――


  全ての生徒はシュガー様の為に


  -----END-----


  ―――――――――――



 忘れてたっ!!

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