Bonus Point +4 それだけで長谷川君には経験値になるんだよ
「シュガー様は神。全ての生徒はシュガー様の為に」
「なんか洗脳されてる!?」
翌日の昼休み、池君の報告を聞こうと昨日のメンバーが図書準備室に集まったのだけど、池君は目をグルグル回しながらロボットのようにパクパクと口を動かしながら言葉を出していた。
……で、どうしてこうなった?
「池君。昨日の放課後に佐藤君と話をしたらしいんだけど……さ」
「見事に論破されたみたいなんだわ」
「その結果が洗脳!?」
本当に何者なんだ佐藤光。
万能中の万能と称される池君ですら歯が立たないなんて……
池君が無理だったら話し合いも難しいだろうなぁ。
「池の説得じゃ甘いんだよ。こいつの説得は相手の言葉を全部聞いてから言いくるめる方法だろ? それじゃあ自分よりも頭のいい奴には勝てねーんだ」
「おぉ! 青士さんが何か凄いキレ者みたいな発言してる!」
「ふっ、やっとアタシの凄さに気付いたか。よしっ! 次はアタシが行ってやる。説得なんてこっちが一方的に喋ってればいーんだ。相手に一言も喋らせねー勢いでやってやるぜ」
なんて頼りになるんだろう。
同級生なのに姉さんと呼びたくなるこの気質。
青士さんは本当に私に無いモノをいっぱいもっているんだなぁ。
「さぁ、決戦は放課後だ。まぁ、見てなって」
昨日の池君と同じように親指をビっと立てて切り返す青士さん。
まるで昨日のデジャブだ。
……あれ? デジャブじゃマズイのでは……?
「この世はシュガー様を中心に回っている……全ての生徒はシュガー様の為に」
「やっぱり洗脳されてる!?」
「メンタルイケメン。共にシュガー様の像をここに建てよう」
「なんていい考えなんだ。今すぐ工事に取り掛かろう」
「私の城に変な物を建てないでっ!」
シュガー教と化した二人が鬱陶しすぎる。
一時的な洗脳ならいいんだけど。いつまでも洗脳が溶けなかったら首トンでもしようかな。
「でもこの二人で駄目となると説得の道は諦めた方がいいかもしれないね」
「何言っているんですか。まだ一郎君が居るじゃないですか!」
「僕っ!?」
「一郎君はあの深井さんにすら物怖じせず話せていましたし、こんな風に洗脳されることはないはずです」
月ちゃん。それすごい無茶ぶり。
「出たよ! 謎の過大評価! 無理無理! 絶対無理だから!」
慌てる高橋君。
まー、でも高橋君ならもしかしたらという期待はできる。
彼は自分を過大評価されていると思っているみたいだけど、高橋君自身は自らを過小評価していると思う。
もっと自信を持てばいいと思うだけどなぁ。
「よーし、高橋君行ってこーい!」
「小野口さんまで!?」
「月ちゃんも言ってたけど、深井さんを倒せた高橋君なら佐藤君もやっつけられるよ!」
「別に僕、玲於奈さんを倒したつもりないんですけど!?」
「大丈夫大丈夫。たぶん佐藤君と深井さんだったら深井さんの方が強敵だと思うから」
「僕、その佐藤君という人に会ったことすらないんだけど!」
「それでもキミなら何とかしてくれる気がするんだ」
「まるで根拠のない励ましを受けた!」
「応援してますよ! 一郎君!」
「……わかった。でも月羽も一緒に来るんだよ」
「ええええぇぇっっ!? わ、私も!?」
「当たり前だよ。二人一緒でミッション達成してこその僕らでしょ?」
「うぅぅぅぅ……わかりましたぁ」
月ちゃんを巻き込むことで高橋君の瞳にやる気が灯った。
この二人なら何とかなるに違いない。今までは一人ずつ挑んでいたから駄目だったんだ。
「どこまで出来るか分からないけど、精一杯説得してみるよ」
「小野口さんの為に頑張ります!」
この二人の良い所は何だかんだで協力的な所だ。
「決戦は放課後だ!」
「はい!」
昨日の青士さん、一昨日の池君と同じように親指をビッと立てる高橋君と月ちゃん。
あっ、フラグが立った。
どうしてそういうことするかなぁ。
いや、でもこういうあからさまなフラグをブレイクできるのが高橋一郎と星野月羽という人間だ。
私はそんな奇跡を何度も見てきた。
彼らならきっとやってくれるはずだ。
「全宇宙を統べる者。シュガー=ライト様。全ての生徒はシュガー様の為に」
「星を創造する神。シュガー様。全ての生徒はシュガー様の為に」
「案の定洗脳されてる!!」
判りきっていた結果だった。
「うぅ、もう腹をくくるしかないよね」
こうなったら小細工はしない。
正々堂々勝負して、佐藤光に勝つ。
私に残された道はそれしかないのだから。
「エレガントイケメンシュガー様。いや、ゴッドイケメンシュガー様」
「アタシらの神の像をここに建てよう」
「シュガー様のポスターも作りましょう」
さて、まずこの連中をどうしようか。
とりあえず全員にデコピンしてみたけど、残念ながら洗脳は解けなかった。
親友四人が使い物にならなくなってしまい、結局私は一人で勉強するしかなくなった。
まー、そうなってしまった原因の半分くらいは私のせいな気もするけど。
後でアイスでも奢って許してもらおう。
洗脳解除も後々なんとかするとして、まずは自分のことを何とかしないとね。
「そういえば明日から冬休み……か」
遊んでいる暇はなさそうだなぁ。
休み明けの半月後には勝負の期末試験が待っている。
実際、試験まで一ヶ月を切っているんだ。
でも家でやる勉強は集中力が持たないんだよなぁ。
「そうだ! 図書準備室で勉強しよう」
せっかく図書室が冬季開放されているんだし、勉強する環境としてはベストプレイスだ。
それに勝負が終わるまでは今まで通り私が自由に使っていいはずだ。たぶん。
でもどうせならまた皆で勉強したかったな。だけど頼りになる友人達は現在洗脳中だし……
そういえば沙織先生の授業特訓楽しかったなぁ。
「――おっ?」
孤独の寂しさを内心で訴えていると、心の隙間を埋めてくれそうなおもちゃを発見する。
後ろ姿もだるそうだ。ヤレヤレ系を極めると気怠そうなオーラが違うなあ。
ちょんっ
「……!?」
ガンッ! ゴンッ! ズシャァァァァァァッ!
「背中をちょこんと触るだけでも駄目なんだね」
「半ば分かっててやっただろ!?」
「うーむ。羽根が触れる程度の接触のつもりだったからもしかしたらと思ったんだけどなぁ」
「妙な実験を本人の許可なく試すな!」
ツッコんでもらえるっていいなぁ。
例のメンバーと一緒だと私がツッコミに回るしかないからなぁ。私以外全員が天然さんだからなー。仕方ないか。
「長谷川君ってその体質治そうとは思わないの?」
「体質だから治らないんだ」
「努力するのが面倒臭いからだろー!」
ハッ! 結局私がツッコんでしまった。
やはり知的キャラはツッコミに回る運命なのか。
「仕方ないなー。私がお手伝いしてあげる」
「はっ? オテツダイ? 何の?」
「長谷川君の『女の子恐怖症』を治すお手伝い」
「いらない。どうして? そしていらない」
「面倒臭がらないの! いいじゃない。一生女の子と関わらないつもり?」
「大丈夫だ。免疫は無くても回避力には自信ある」
「回避Sでも防御Eじゃ雑魚なんだよ!」
長谷川君はステータスが極端に偏っている。
学力では学年三位の秀才。だけど面倒臭がり屋。
運動面では陰でかなり活躍するタイプ。だけど目立たない。
男子の友達は結構居るらしい。だけど女の子のお友達は希ちゃんただ一人。
「……ん? 私達、ちゃんと友達だよね?」
「えっ!?」
「どうしてマジに驚いているのさ!」
長谷川君的には私すら友達ではなかったみたいだ。なんかショック。いや、かなりショック。
同時に何だか腹が立ってきた。
「もー決めた! 長谷川君の体質改元計画をここに発動します!」
「体質改善計画?」
「そう! これから毎日図書室で私と一緒に勉強してもらうからね! 決定事項だからね!」
「……あー、例のシュガーっちとの勝負ね」
「そう!」
「…………」
「…………」
「…………」
「……俺の体質改善と何も関係がない!?」
かなり間を置いてようやくツッコミをしてくれた。
「そんなことないよ。女の子と一緒に過ごす機会が増えるじゃん。それだけで長谷川君には経験値になるんだよ」
「そ、そうなのか?」
「そして私も寂しく勉強することは無くなるし、一石二鳥!」
「そ、そうか。一石二鳥……」
「んーん! 長谷川君も楽しく試験勉強できるから一石三鳥!」
「をぉ。なんかすげーお得感だ」
ふっふっふー。乗ってきたな長谷川佐助。
こうなったらもう希ちゃんペースだ。
「利害が一致したね。それじゃ今日から一緒に勉強だよ」
「……うーん」
「返事」
「え? マジで?」
「へーんーじー!」
「……面倒く――」
「へーーーんーーーじーーー!」
「は、はい。付き合いさせて頂きます。ハイ」
「うん。よろしい♪」
意外な所で頼もしい味方を手に入れた。
なんたって学年三位だ。
学年二位の私と学年三位の彼が協力すれば、学年一位の佐藤君を蹴散らすこともきっと可能なはずだ。
ようやく光明が刺してきた。
「光明とはなんだったのか……」
図書準備室に二人で入り、私はいつもの席に着いた。
長谷川君も適当な席に着く。
「んじゃ、面倒臭いけど、ここまで来たからには勉強始めますか」
『んー』と唸りを上げながら腕を天に伸ばす。
「始めてたまるか!」
珍しくやるきを出した長谷川君に対し、私は机をバンッと叩きながら反論した。
「な、なんだよ?」
「なんだよ? じゃなーい! なんでそんなに離れた席に座るし!」
「い、いや、これだけ広いのだからこのスペースを目一杯使うべきだと思ったんだ」
「そんなに広くないよここ! なのに私達の間にはかなりの距離があるよ!」
「心の距離……か」
「私達の心は椅子六つ分も離れているのかー!」
昨日は一緒に暗幕席に座ろうとか言ってくれたのに、どうして今日はそれが出来ないのか。
この人の女性恐怖症は思ったより深刻のようだった。
「とりあえず近づきなさい。そんなに離れてちゃ一緒に勉強する意味ないでしょ」
「……それもそうか」
納得してくれたようで長谷川君は重い腰をゆっくり上げる。
そして嫌そうに距離を詰めてくれた。
……椅子一個分だけ。
「舐めてるのかー! おのれはー!」
「いや……その……分かっているんだが、今はこれが精一杯というか……」
「いいからっ! 無理してでも隣に来なさい! 取って食ったりはしないからっ!」
「大丈夫。声量には自信あるんだ。これくらいの距離だったら俺の声量を持てば問題なく小野口と話をすることができるっ!」
「問題点が違うでしょうがー!」
駄目だこの人。思っていたよりもずっと手ごわい人だった。
『ちょっと不器用だけど、何でもこなせる人』という印象はこの数分だけで見事に崩れ落ちていた。
目の前に居る男は精一杯強がりを放つが、私を怖がりまくっている小動物そのものだった。
「わかったっ! 仕方ないから私がそっちに行くっ!」
「なら俺がそっちにいくとしよう」
「入れ違いになるなーっ!!」
せっかくツッコミが休めると思ったらこれだよ。
もう……先が思いやられ過ぎる。
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