Bonus Point +3 助けて♪
【main view 小野口希】
「高橋一郎はいるかぁー!?」
「うぉう!? お、小野口さん?」
図書委員会議から一夜明けて、翌日の昼休み、私は隣のA組の戸を開けていた。
突然名前が呼ばれて高橋君は目を見開いて驚いていた。
「んだよ、小野口、その登場は。若干池っぽかったぞ」
「って、なんで青士さんまで居るのさ!?」
「いや、昼だから隣のクラスで飯食うのは当然の流れだろ?」
「『当然の流れ』なのに疑問符しか浮かばないんですが!」
昼休みになった直後いつも居なくなると思ったらこんなところに居たのか。
でもどうして高橋君と二人きりで食べてるのか。恋人かキミら! とツッコミたくなる。
それ以前に本物の恋人は置き去りか! 高橋一郎! それで大丈夫なのかキミらは。
「って、そっか。月ちゃんは私が図書準備室に拉致してたんだっけ」
てへっ、と小さく舌を出す。
「何がてへっ、だよ。んなあざといキャラじゃねーだろお前。番外編で主役だからって調子乗ってんじゃねーぞ」
「番外編の時くらい調子に乗らせてよ!」
私に一生モブ的キャラで居ろというのか。希ちゃんだって目立ちたいんだぞ。
「メタはいいから。それで突然どうしたの? 小野口さんがウチのクラスに来るなんて珍しいね」
「あー。そうだそうだ。青士さんのせいで話が脱線するところだったよ」
「いや、おめーが勝手に脱線していったんだろうが」
「うっさいやい。ちょっと相談したいことがあったから高橋君も拉致しようと思っただけなの。ついでだし、青士さんも来て」
「いいけど」
「やだけど」
「回答がそれぞれ違うと困るよ! とりあえず高橋君はオーケーっと。ていうか青士さん、ここに残って一人でお弁当食べてる気?」
「小野口さん。残念ながらこの人は平気でそれが出来る人なんだ。たぶん普通にここでお弁当を完食して僕の机で寝始めると思うよ」
「勇気の塊か! もー! 一緒に来なさい! 青士さんも来るの!!」
「どこにだよ?」
「図書準備室」
「別塔の三階じゃねーか。そんな長旅、アタシが出る訳ねーじゃん」
「だぁぁぁぁぁ! もう! 来るの! 高橋君、青士さんをオンブして」
「経験値が2000くらいあってもそれは出来ないと思うよ」
出た。経験値。
月ちゃんもたまに言うけど二人の仲の暗号か何かかなぁ?
そういえばずっと二人でコソコソ何かやっているけど、未だに教えてもらえてないんだよなぁ。寂しい。希ちゃん寂しい。
「仕方ないなー。青士さんは私がオンブするから高橋君はその私をオンブして」
「僕だけとんでもない苦行じゃない!?」
「ご褒美に図書準備室でパインケーキあげるから」
「よっしゃ! 小野口! 早く行くぞ」
「パインケーキに食いついてきた!?」
青士さんは凄く俊敏な動きですでに廊下まで飛び出し、突き当りで手招きして私達を呼んでいた。
意外と甘い物好きだったようだ。女の子だなぁ。
「ほら。高橋君も行こう。月ちゃんも先に行っているはずだよ」
「オッケー」
「……オンブ」
「……しないからね?」
残念。
希ちゃんの上目使い攻撃も効かなかったか。
やっぱり高橋君と居ると甘えたくなる不思議があるなぁ。
「いでよ。池君!」
「……ここにっ!」
「「「「うぉぉぅ!?」」」」
私の召喚の合図と共に池=MEN=優琉くんがこの図書準備室に現れる。
「全員集まったね」
昨日会議が行われた図書準備室に、私、月ちゃん、青士さん、高橋君、池君の五人が集合した。
深井さんの一件以来そんなに集まる機会も無かったので、久々のグループの空気に安心する。
「池君の召集の仕方雑じゃない?」
「むぅ。高橋君にツッコまれてしまった」
これは屈辱。
番外編だからって楽なポジションのツッコミモブに徹するつもりだな。
そうはさせない! 嫌でも高橋君に活躍してもらおう。
「それは良いとして、小野口クン。今日の召集の理由を早速聞かせてくれないか?」
「あー、そうだったね」
当の本人がまるで気にしていないみたいなので高橋君のツッコミの件は気にしないことにした。
「みんな、E組の佐藤光くんって知ってる?」
「知らないなぁ」
「知らね」
高橋君と青士さんが即答する。
そこそこ有名人かと思ったけどそうでもないのかな? それともこの二人が他人に関して無関心すぎるのかな? あっ、後者だ。絶対後者が正解だ。悟った。
「シュガー=ライトっていう異名を持つ人なんだけど」
「別に知りたくもなかった情報!」
「この学校異名持ち多すぎじゃね? 池臭が半端ねーんだけど。そいつ」
やっぱり引いたか。
この二人でも引くレベルかぁ。恐るべし佐藤光。
「この間の期末試験が一位取った人ですよね」
「学年一位!?」
さすがに驚きを見せる高橋君。
「そんな妙な異名を持った奴がアタシらの学年の代表なんて……やるせねーな」
全く持って同意するよ青士さん。
二年生はただでさえ変な人多いのに、その変な人の筆頭が一位だなんて。
これじゃあ他学年から私達まで変人に見られちゃうよ。
「シュガー=ライト。俺と同じクラスの男子生徒。属性は雷だ」
「属性って何さ!?」
「雷属性か。さすが強者だね」
「安定感ある属性ですよね。弱点も少なくて、万能なイメージです」
どうして通じてるのか。この夫婦は。
話題に着いていけなくなってしまう前に本題へ戻っておこう。
「まー、なんというか、その雷属性と付き合うことになるかもしれないの。助けて」
「「「「…………」」」」
「タスケテ」
「「「「…………」」」」
あっ、全員が一瞬で固まっちゃった。
「そ、その……おめでとう。小野口さん」
「うおりゃあああああああああああっ!!!」
ガスッ!
「ぐほぉぉっ!」
場違い100%な返しをしたこの
「助けてって言ったの! 私は付き合いたくなんかないんだよ!」
「そ、ソウデシタカ……ゴメンナサイ」
痛そうにする高橋君に月ちゃんが頭を優しく撫でている。
いいなー。高橋君。私もチョップされたら月ちゃんに撫でてもらえたりするのかな。
ガスッ!
「ぅおおう!?」
そんなことを考えていると本当にチョップが飛んできた。
「な、何奴!?」
「『何奴!?』 じゃねーよ! どういう経緯でそんなことになったんだよ? 何かの罰ゲームでも受けてんのか」
青士さんだった。
おお。本気の目だ。青士さんが心配してくれている。
ちょっと前まで『ぎゃははーっ。マジウケるー。テラウケる―!』みたいな風に大笑いしていたエセビッチをやっていた人とは思えないぞ。
でもその前に――
「ねえねえ。月ちゃん。私には頭撫でてくれないの?」
「え? えぇ……と?」
ガスッガスッ!
「ぬおぉぉぉぉぉぉっ」
今度はダブルチョップが飛んできた。
「話を逸らすな。なんでそんなことになったのかと聞いているんだ」
「そうだぞ。キミの様子を見る限り合意の上の付き合いではなさそうだが。どうしてそうなった?」
割と本気で心配してくれている、青士さんも池君も。良い人達過ぎる。
「実は昨日ここで委員会議があってね」
「おいこら小野口。話を逸らすなと言ったろーが」
「いやいや、本題に関係ある話なんだなこれが。委員長会議でさ図書室の冬季開放について話されたんだけど、委員長の佐藤君が最後にとんでもない話題を持ち出してきてね」
「佐藤さんって図書委員長だったのですね」
「そうなんだよ! 無駄に成績がいいから委員長に推薦されてて……って、それはどうでもいいか。それでさ、最後にこの部屋の使い方について指摘されたの」
「この部屋って……この部屋? 図書準備室だっけ。ここ」
「図書とは関係のないものが多すぎてもはや何の部屋なのか分からなくなっていますよね」
むむっ、高橋夫婦が痛い所を付いてきた。
でも希ちゃん負けない。
「ここは本来図書準備室なもんだから古本や書類を保管する場所にするなんて言い出したんだよ! 信じられる!?」
「ふつーに正論言われてるだけじゃねーか」
「しかも冷蔵庫やお菓子を撤去するとも言われた!」
「いや、図書準備室に冷蔵庫がある方がおかしいんだから」
「この部屋の主として! マスターとして! 私は誇りをもって反対したよ」
「……どう探しても相手の非が見当たらないのだが……」
「敵か! キミ達全員私の敵かー!」
ゲシッ! ゲシッ! ゲシッ!
「なんで僕だけ叩くの!?」
「何となくだよ!」
さっきは心配してくれたのに、どうして私が悪いみたいになっているのか!
仲間としてそれはどうなんだこらー!
「わ、私はお昼休みにここにお世話になっていますし……今の形が崩れると悲しいです」
「つ、月ちゃんっ!」
なんていい子なんだ。どうして私は二年生になるまでこんなかわいい子を放っておいたのだろう。彼女にしたい。私と浮気してくれないかな。とりあえず頭を撫でまわそう。
「あっ、あの、小野口さん?」
困った顔で見つめる月ちゃん可愛い。
って、また少し話が脱線してきた。本題はここからなのだ。
「話し合いは最後までもつれたんだよね。そこで佐藤君が妥協案として私に勝負を挑んできたんだ」
「勝負?」
「そう。勝負! 私と佐藤君ってさ期末試験のランキングで一位二位なんだけど、今度一位になった方が二位の人に何でも言うこと聞いてあげるって条件の勝負なんだ」
「なるほど。それで勝てばこの部屋はこのままで在れるというわけだな」
さすがに池君は察しが良い。話が早くて本当助かるなぁ。
ていうかここに居るメンバーは全員察しだけは良いんだよな。
つまり、この勝負の問題点もすぐに気付いてもらえるわけで。
「もしかして……小野口さん。負けてしまったら……」
「……うん。『アレ』の付き合うことになるようです」
「「「「…………」」」」
「助けて♪」
ビシッ! ビシッ! ビシッ!
ぶりっ子ポーズで決めていると、月ちゃん以外の三人が間髪入れずにチョップを入れてきた。
「痛い……」
「何やってんだよてめーは!」
「まさか小野口さんの自業自得の不始末だったとは……」
「キミはたまにどうしようも無いくらいどうしようも無くなるな」
うっ……予想は出来ていたけど、呆れ顔でため息を吐かれてしまった。
やっぱり私が全面的に愚かだったかぁ。言い返せない自分が悲しい。
でも受けてしまった勝負は取り消せない。
「こうなったら勝つしかないよ! 皆で力を合わせれば佐藤光に勝てるよ!」
そう勝つんだ。
連続一位記録を九連続で更新している佐藤光に勝つ。
勝算が無いわけじゃない。前回だって一点差だったし、前々回だって一点差だった。
そう、たった一点で佐藤光に並べる。並べるんだけど……
その一点差がどうしても埋められないのが悩みでもあるんだよなぁ。
「……いや、他の方法を考えるべきじゃねーか?」
「えっ?」
私が密かに意気込んでいると、青士さんが唐突に視点を変えてきた。
「即ち……佐藤光を……絞めるっ!」
「駄目に決まっているでしょうが!」
「……駄目か」
また停学したいのかこの人は。
ビッチ時代の記憶が抜け切れていないのが玉に傷だよなぁ。
「俺からも一つ意見良いだろうか?」
「おっ。なぁに? 池君」
「今の小野口クンの話の中で一つ気になることがあるんだ」
気になること?
「――佐藤光の目的についてだ」
「目的について?」
「図書準備室の件は正論だとしても、いくらなんでもいきなり勝負だなんて唐突過ぎる」
「あっ……」
言われ、気付く。
確かにおかしい。そもそも勝負の内容が図書準備室の件とは全く関係ないではないか。
こんなのただの個人の喧嘩だ。そんなのに図書準備室という公共の場の明暗を決めるのはおかしすぎる。
「この勝負。最初から仕組まれていたのではないか?」
負けた方が『何でも一つ言うことを聞く』。
佐藤光の願いは『私と恋人になること』。
ならば図書準備室はどうなる? この場合、佐藤光が勝っても負けても現状維持なのではないだろうか?
……いや、そうじゃない。図書準備室の件はあくまでも『会議』で決定しつつある事項だ。
つまりこのままでは私の城は確実に無くなってしまう。
だからここを現状維持させるには結局私が勝って『この場所はこのままにするよ!』と宣言するしかない。
「つまり……どういうことだ?」
青士さんが首を傾げて説明を求めている。
高橋君と月ちゃんも同じような表情をしていた。
「つまりだ。小野口クンは勝負に負けるわけにはいかない。しかし、佐藤光は負けてもそんなにデメリットはないというわけだ」
「……っ!? なんだよそれ!? 仕組まれていたってそういうわけか!」
「汚いけど、秀才が考えそうなことだよね」
「でも……こんなの卑怯すぎます!」
くそー。まんまとはめられていたことに気付かなかったなんて。悔しい。
そこまでして私を手に入れたいか。
悪い気はしないけど、でもこんな卑怯な手段を用いる人は好きになれない。
もっと酷い手段で人を絶望させようとしていた女子を知っているから。
「これは絶対に負けるわけにはいかないなぁ」
つまりは勝てばいいんだ。
勝ちさえすれば平穏は保てる。
「いや、勝負なんてする必要ねぇ」
「えっ?」
「やっぱり佐藤光は一度絞めなければならねぇ」
「だから駄目だってば!」
「小野口さん。僕も同じ意見だよ」
「ちょっと高橋君まで何言ってるのさ!」
こんな喧嘩腰なキャラじゃないだろう。キミは。
いつもの弱気はどうした高橋一郎。
「勝負とか喧嘩じゃなくてさ。話し合うんだ。絶対そうしたほうがいい」
「話し合う……」
話……合えるだろうか? あの佐藤光と。池君以上に厄介な性格をしているあの男と。
現実味が薄い気がする。
「小野口クンが話づらいのなら俺が話を付けてこよう。同じクラスだしな」
「えっ! 本当!? いいの!?」
「ああ。俺に任せとけ」
親指をビッと立てながら笑顔で切り返す池君。
おおぉぉぉ。池君が! イケメンに見える!
話し合いとか説得の上手い池君ならきっと佐藤光とも語り合える。
……そのはずだとこの時点では思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます