第52話 れんあいかん……?

 今日もアタシは多目的室へ足を運ぶ。

 最近、この時間を密かに楽しみにしている自分が信じられなかった。

 このアタシがベンキョーの集会を楽しみにするなんて、まー、我ながら丸くなったもんだ。


「ちわーっす」


 ノロノロと足を運んだもんだから、きっとアタシ以外のメンバーは勢揃いしているはず。

 と、思いきや、教室内には三人しかいなかった。


「よう、メンタルイケメン。今日もイケメンしてるかい?」


「あー、してるしてる」


 コイツは適当に流すのが一番良いのだと最近気付いた。

 池にはとにかくイケメンイケメン言っていれば、意外に無害な奴なのだ。


「遅かったわねぇ、青士さん(どやぁ)」


「あー、わり、ちょっと喉乾いたからお汁粉飲んでたわ」


 なんでこの人、挨拶でもドヤ顔をすんだ?

 池の野郎が妙なアドバイスをするもんだから、センセのウザさ――もといおかしさが増してしまった。

 でもまぁ、それさえなければ一生懸命で面白いセンセなんだ。正直この人が担任で在って欲しかったくらいだ。堅物野郎の田山とぜひ交換して頂きたい。


「喉乾いたからって飲むものじゃないでしょ、おしるこって」


 アタシの中で一番面倒くさいのがコイツだ。小野口希。

 例のカンニングの一件を根に持って妙に刺々しく接してくる。

 まぁ、完全にアタシの自業自得なのだから文句の言える筋合いはないのだが、それ故にコイツとの接し方が分からないのだ。

 とりあえず今のアタシが小野口に対してできることは、出来るだけ逆ギレしねーように自分を抑えることくらいか。


「いーじゃんよ。アタシ的におしるこは夏の飲み物だから。おめーも今度飲んでみろって。騙されたと思って。ホットで」


「飲む前から騙されていることが分かるよ!」


 おかしいなぁ。女子は甘い物好きっつーのは定番のはずなのに、どうしておしるこだけ受け入れられないのか。不思議でたまらない。


「……で、高橋と星野はどしたん?」


 何気にこのメンバーの中心である二人の姿が今日は見えない。

 黄身の無い目玉焼きみたいなメンバーだけがこの場に揃っていた。


「月ちゃんは今高橋君を呼び出し中だよ。もしかしたら今日はここに来ないかもね」


「ふーん」


 よく分からんが、今日は来れないかもしれねーのか。

 なんで小野口がそれを知っているかは……なんか聞いちゃいけねーことのような気がした。


「そういえば彼らはどんな関係なんだい? イケメンの俺が見るに彼らの仲はただの友情を超えている気がするのだよ」


 急にエセメンが妙なことを言いだした。

 でも確かにちょっとだけ気になる話だな。あいつらの仲の良さはイケメンの目からじゃなくても度を超えている。


「付き合っているんだよ。あの二人。ラブラブぅ~♪」


 やっぱ付き合ってんのかあいつら。まぁ、そうだよな。


「ふむ、やはりそうか。イケメンの目に狂いはなかったな」


 なぜか自慢げにしている池。

 予想を当てた自分に酔っているんだろうな。イケメンって種族はいちいち反応が面倒くさい。


「あら? 私は親友同士って聞いたわよ?」


 ここでセンセが今までの意見を否定するように口を挟んできた。


「あはは。先生~、そんなわけあるはずないですよ。あのラブラブっぷりはどうみても『恋人』ですって」


 小野口に賛同するのは癪だが、アタシもそう思う。

 そもそも男と女で『親友』という関係が成り立つなんて思えねーし。


「だって、本人達がそう言っていたわよ?」


 マジか。

 本人同士がそう言っているのであれば、付き合っているってわけじゃねーのか?


「ただの照れ隠しですよ照れ隠し。あの二人、アレで関係を隠しているつもりなんだから~、可愛いなぁ」


 なんだかわけがわからなくなってきた。

 結局付き合ってんのか? 付き合ってねーのか?

 一度気になり出すとイライラしてくるのがアタシの悪い癖だな。


「よし。じゃあそれを探っていこーじゃねぇの。すっきりさせようぜ!」


「すっきりさせるって……どうやって? たぶん聞いてもはぐらかされると思うよ」


 問題はそこだよなぁ。

 どっちも頑固に『自分達は親友だ』なんて言い張りそうだ。真相はどうであれ。


「んー、明日だ! 明日アイツらの関係を暴いてやろーぜ。なるべく間接的に、奴らの関係を暴くように仕向けるんだ。小野口が」


「私!?」


「ん、アタシや池じゃぜってードジるだろ。秀才であるおめーの出番だ」


「なんかアタシに投げっぱなしにしてない!? 頑張るのアタシだけだよね!?」


「それとなくフォローはしてやんよ」


「なんか上から口調だ!」


 とは言いながらも、『やりたくない』とは言わない小野口。

 コイツも高橋と星野の関係がどーなんか気になっているみたいだな。


「よし。んじゃ作戦会議すっか」


 一つの机を囲むように座り、一冊の真っ白なノートを開く。


「ポロっと真相を吐き出しそうな方は高橋と星野どっちだ?」


「セカンドイケメンは警戒心が強いから星野くんじゃないか?」


「私は高橋君の方だと思うよ。さりげなくノリの良い人だし、警戒心うんぬんを言ったら月ちゃんの方があると思うんだ」


 いきなり意見が割れやがった。

 でも確かに池達の言う通り、あの二人は常に周りの動向を覗っている節があんだよな。進んで自分が主体にならないというか、人に合わせて日々過ごしているというか。

 故に一度警戒し出したらそれを崩すのは難しい。


「必要なことは二人に警戒させないことだと思うんだ~。ていうか、一度警戒されたらゲームセットだと思っていいと思う」


 小野口もアタシと同じことを考えていたか。


「ふむ。ではその二人を油断させる役割は俺に任せてもらおうかな」


「「…………」」


「なんで無言なんだい!?」


 いや、だって、池が……なぁ。

 なんというか嫌な予感しかしない。実行前から失敗フラグ立ってんじゃね?

 でも、そうだな。

 アタシや小野口が変に態度変えて接するよりもいいかもしれねーな。


「よし! その役はおめーに任せた!」


「任されよう」


 不安はあるが、アタシは真っ白なノートに『油断を誘う役:池』と書き込む。


「次に、具体的にどうやって二人の関係を聞き出すか……だけど」


 本題が問題だ。

 池が油断させた後、どうやって二人の関係を聞き出すか……


「つーか、難しいこと考えねーで、直接聞いちゃえばいんじゃね?」


「甘い! 直接はNGだよ青士さん。警戒心うんぬんより以前に、二人は恥ずかしがり屋さんだから絶対に誤魔化されるよ!」


 恥ずかしがり屋? あの二人がか?

 星野はともかく、高橋はそんなタマじゃねーような気がするんだが

 でもまぁ、小野口の方があの二人のこと詳しいみてーだし、きっとその通りなんだろう。

 アタシはノートに『直接はNG』と書き足した。


「じゃやっぱり間接的に聞き出すのか。やっぱアタシには無理だな。っつーわけで、頑張れや小野口」


「やっぱり丸投げだ!」


 なんつーか……小細工系? アタシにそういうの向いてねーことは分かりきっている。

 小細工が上手くいかなかったからカンニングの件で自滅したんだしな。

 とりあえずノートには『小野口が頑張る』と書いておこう。


「よし。作戦会議しゅーりょー。あとは何とかなるだろ」


「なんの意味があったの!? この会議!」


 具体的には何にも決めてねーけど、成り行きでなんとかなるだろ。


「んじゃ今日は解散な」


「おう」


「もー!」


 自信満々な表情の池と不安げな表情の小野口に見舞われながら、ちょっと早いが今日の集会は終わりとなった。

 っつーか、今日全くベンキョーしてなかったな。

 まっ、高橋と星野いねーし、全員そろわねーとやる気もでねーしな。


「……あの……私の授業の特訓……(シュン)」


 後ろでセンセが何かつぶやいていた気もするが、今日はこのまま解散でいーだろ。







 さて、具体策がないまま、次の日となってしまったという訳だけども。

 とりあえず高橋と星野を警戒させないことが第一だ。


「月羽。取って」


「どうぞ」


 目線も合わせないまま、星野が高橋に消しゴムを手渡す。

 具体的に何を『取って』欲しいのか言わずまま、その意図が伝わっていやがる。

 熟年夫婦のような以心伝心を見た気がすっぞ。


「(ほらぁ。アレ絶対付き合ってるって~)」


 小野口が楽しそうに耳打ちしてくる。

 人の恋バナになると急にイキイキしてくるなコイツ。ある意味昔のアタシよりもギャルっぽいんじゃね?


「ぅう~、一郎君。世界史お勉強のコツ教えてくれませんか? どうしても暗記って苦手で……」


「んー、コツって言われてもなぁ。歴史物のゲームにハマれば関連性付けて覚えることが出来たりするよ」


「私、RPGメインなんですよ。なんていうか、経験値があるゲームじゃないとゲームっぽくないというか……」


「安定の経験値脳だね。まぁ、オーソドックスに重要ワードを書きまくって覚えるしかないんじゃない?」


「ぅぅう、やっぱりそうなりますよね」


 項垂れながら教科書の単語をノートに記しまくる星野。

 こいつら妙にゲーム脳だな。歴史物ゲームとかRPGとか。でも趣味が一緒ってことはやっぱり相性良いみてーだな。それが付き合っているか否かの証拠にはならねーけど。

 しかしいいことを聞いた。歴史物ゲームに関連性を付ければ世界史はらくしょーなのか。

 アタシ、ゲームはやんねーけど、歴史を題材にしたラノベでも今度呼んでみっかね。


「それよりも月羽、数学の勉強のコツ教えてよ」


「いいですけど、一郎君の数学の成績はすでに絶望的ですから、上手くいく保障ないですよ?」


「僕の数学、そこまで絶望的なの!?」


「…………」


「無言で視線逸らさないでよ!」


 こいつら仲がいいのかそうでないのかわかりづれーな。星野、ふつーに高橋を罵倒してるし。

 いや、これは互いに遠慮がいらねー関係ってことを示してんのか?

 やはり、こいつらの会話から二人の関係を調べることは難しそーだな。

 小野口の『間接的質問による尋問』に期待するとしますかね。


「突然だがここでイケメンタイムだ。セカンドイケメン、星野君、俺を見ろ!」


 ぅおおい!?

 このエセメン、何の前触れもなく、作戦を開始しやがった!


 こいつの役割は『高橋と星野に警戒心を与えないこと』。

 しかし、不意に高橋と星野に話を振りだしたコイツはあまりに奇行すぎた。


「知っての通り、俺はイケメンだろう?」


「う、うん……」


「は、はぁ……」


 超警戒してるじゃねーか!

 誰だよ! こいつを先導役にしたのは! アタシだよ! ちきしょう!


「今の俺のイケメン指数を100とする。だが、俺は秘奥義を炸裂させることにより、イケメン指数を300に上げることができるんだ」


 コイツは何を言っているんだ?

 先ほど高橋と星野をゲーム脳と言ったが、こいつのイケメン脳の方が重傷すぎる。

 高橋や星野は勿論、小野口のセンセもそしてアタシも展開に着いて行けずポカーンと池を見ていた。


「見せてやろう! これが俺の秘奥義! イケメン乱舞!」


 懐から例の薔薇を数本取り出し、瞬時に指の間に一本ずつ挟む。

 同時に腕をクロスに構え、片膝付きながら瞳を閉じる。

 そしてその姿勢から右手に挟んだ薔薇を天に放り、その際にバック宙を決める。

 着地と同時に放り投げた薔薇を再び指の間でキャッチをし、内一本だけ口で取っていた。

 最後にウインクを決めて、奴のイケメン乱舞は終焉した。


「「「「…………」」」」


 無駄に洗礼された無駄な動きを存分に見せつけられ、アタシら一同は更にポカーンとする。

 しかし、なんつー身体能力してやがるんだ。さりげなくバック宙したり、上に放り投げた薔薇を全部キャッチしたりと、中々できることじゃねーぞ。無駄な動きだけど。動きに意味なんて全くないけど。


「俺が出来るのはここまでだ! さぁ、小野口クン! セカンドイケメン達は今油断をしているはずだ! 今の内に存分に質問するがいいぞ!」


「それを言ったら意味ないでしょっ!?」


 駄目だ、駄目すぎるこのエセメン。

 無駄な動きだけ見せて、無駄な発言をして、全てを台無しにしやがった!

 もう作戦もあったもんじゃなかった。


「はぁ。もう作戦とかどーでもいいや。小野口、例の質問してやってくれや」


 と、言いつつ、小野口にアイコンタクトを送る。

 このアイコンタクトには『直接的じゃなくて間接的に質問しろ』というメッセージを籠めてみたけど……まぁ、伝わらなかっただろうな。アイコンタクトで意思疎通なんて都市伝説だし。

 ――なんて思っていたのだが、小野口は小さく首を縦に振り、何かを了承していた。


「実はね、私今恋愛モノの小説にハマってるんだ。そこでね、二人はそれぞれどんな恋愛観を持っているのか聞いてみたかったんだ」


 本当に間接的に質問しやがった!

 えっ? 何、コイツ。今のアタシのアイコンタクトで伝わったん? マジ? マジモンのエスパーじゃねえか。アタシの心を見抜かれた?


「れんあいかん……?」


「れんあいかん……?」


 アホの子みたいに揃って首を傾げる高橋と星野。

 うわー、こいつら、恋愛うんぬんに対して超疎そー。


「れんあいかん……」


「れんあいかん……」


 顔を見合わせて困ったような表情を浮かべる二人。

 本当にただのアホの子みたいだった。


「え、えっとね。二人が理想とする恋愛ってどんな感じ?」


 おっ、ナイスフォロー小野口。

 ……あっ、今思い出したけどフォローすんのってアタシの役目じゃなかったっけ? まぁいいか。


「うーん、『私に触らないこと』とか『貴方から私に話しかけてこないこと』みたいな妙な条件を出されない恋愛がいいなぁ」


 妙に具体的な回答をし出す高橋。

 つーか、それって恋愛なんか? そんな条件を出してくる相手に恋愛感情抱けたら正直すげーぞ。


「……一郎君、まるで過去にそういう条件を出された恋愛経験があるみたいにいいますね?」


 ジトっとした目で高橋を睨む星野。

 をぉ? これ嫉妬じゃね? もしかして星野から高橋への恋愛矢印はすでに伸びてんじゃね?


「い、いや……その……そんなことより月羽の理想のれんあいかんは?」


 焦ったように話を逸らす高橋。こりゃ過去になんかあったな。

 ちょっとだけ気になったが、今気にする本題はそこじゃねーしな。


「私は別に……どうせ私なんかを好きになってくれる人なんていないでしょうし……」


 こいつは対照的に消極的だな。星野っぽいといえばぽいけども。


「そんなことないと思うよ。うん。月羽みたいな人を好きな人は結構いると思うけどなぁ」


「そ、そうですか?」


 をぉぉ? あの高橋がまさかのフォローしたぞ?

 つーか、これも捉え方によっては高橋から星野への恋愛矢印なんじゃね?

 あれ? これ、ふつーに両想いな気が……


「私は月ちゃんのこと好きだよ!」


 そしておめーの意見はきいてねーよ、小野口。

 無駄に話ややこしくなるから暴走しないで欲しい。

 って、ここか。ここがアタシのフォローの為所っぽいな。


「んじゃ、おめーらはどういう奴がタイプなん?」


 ちょっと直接的な気もするが、間接的過ぎても意味ねーしな。そういう意味ではこの質問はありだろ。


「私は月ちゃんがタイプだよ!」


「おめーには聞いてねえよ! んで、高橋と星野はどうなん?」


 小野口の口を手で塞ぎ、この暴走娘を抑えながら再び二人に問いを投げる。

 高橋達はまたお互いに顔を見合わせると、そのまま少し睨めっこし、やがて互いに赤面しあって視線を逸らしていた。

 うわ。桃色空間発生。なにこの茶番。

 ……なんか急に馬鹿らしくなってきたわ。


「あー、もういいや。大体わかったわ。つーか、もうズバリ聞くわ。おめーら付き合ってるだろ?」


「……え?」


「……へ?」


 不意を突かれたように驚きの表情を浮かべる二人。

 さっきから反応がシンクロしまくりだな、こいつら。


「青士さん、結局直接聞くんじゃないのよぉ」


「だってよ、もう丸わかりじゃねーか。ここまでラブラブオーラ見せつけられて付き合ってねーわけねえだろ?」


「まぁ、そうだけどさ」


 小野口も二人の様子をみて、こいつらがデキてることを確信したみてーだ。

 認めるのもアレだけど、中々お似合いのカップルだと思う。


「いや、付き合っては……いないよね?」


「そうですね。付き合っては……いないですよ?」


 今後に及んでまだ二人してそんなことを言ってきてやがる。

 そのお互いに疑問形な所が怪しいっつーの。


「もー! 今更隠さなくてもいいんだよ、二人とも♪」


「だな。別に照れなくてもいんじゃね?」


 さっさと本当のことを吐けよと遠まわしに攻め立てるアタシと小野口。

 しかし、高橋と星野の表情は変わらなかった。


「いや、本当に」


「はい。私達、『親友』ですよ?」


 こいつら、意地でも認めねー気か?

 どうしてそこまで意地になってんだ。


「いやいや、どっから見ても付き合ってるっしょ。おめーらいつも一緒にいるし……」


「それはまぁ……親友同士だからねぇ」


「ええ。一郎君と居るのが一番居心地良いので、つい」


 いや、待て。


「で、でもさ。二人の相性の良さというか、性格の一致というか、上手く言えないけど『親友』ってレベルを超えていると思うんだよ!」


「えへへ、そうですか? お褒め頂きありがとうございます」


「僕らの親友力はすでにMAXみたいだね」


 本当待て。


「待て待て待て! ほ、本当に付き合ってないん?」


「「うん(はい)」」


 間髪入れず、合わせて即答してくる二人。


「ほらぁぁぁ! 先生の言った通りでしょ!(どやぁ)」


 今までずっと黙って成り行きを見守っていたセンセが渾身のドヤ顔をアタシらに向けてきた。

 つーことはアレか? 本当にセンセの言う通り、こいつらはただの親友同士で、恋愛感情も何もない二人組だったってわけか?


「納得いかねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「「うわぁ!」」


 アタシの心からの叫びに驚き、半歩後退する高橋と星野。


「マジで!? おめーらマジで付き合ってねーの!? 本当に互いに恋愛感情持ってねーてか? 異性としての感情は一切無し!?」


「異性としての……」


「感情……」


 ここでまたお互いを見合い、何かを考え込むように硬直する二人。

 そしてまた同時のタイミングで照れ臭そうに下を向く。


「これのどこが『親友』だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「うわっ、ついに青士さんがキレちゃった! 池君、抑えて!」


「抑える? 俺のイケメンっぷりはもう抑えられないレベルまで来てしまっているよ?」


「揺らぎないね! キミは!」


「ねーねー、それよりも先生に何かいうことあるんじゃない? ていうかさ、もっと日頃から敬うべきだと思うんだよね。みーんなして先生の言うことまるで信じてなかったしさ……ぶーぶー」


「そういう風に子供っぽく拗ねるから威厳がなくなって敬えないんです!」


 もう抑えの利かなくなったアタシと、それを必死で抑える小野口。

 そんな状況でもぶれない池に、一人拗ね出すセンセ。

 もはや場は収集が付かない状態になりつつあった。


 その様子をポカーンと見つめている高橋と星野は、ぼそりとこんなことを呟いていた。


「どうしてこうなった……」


「本当に……どうしてこうなっちゃったんでしょう……」


「おめーらのせいだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 廊下にまで響き渡るような大声が旧多目的室に木霊した。

 今日も勉強会と称された集まりは勉強以外のことで一生懸命になっていた。

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