第44話 私は先生の授業大好きですよ

「イケメンとして問おう」


 問うな。

 ……とは言えないよね。


「D組に真更さんは居たけど、光さんは居なかったぞ!」


 居たのかよ、真更さん!

 小っちゃいミラクル起きちゃったよ。ていうか日本に『真更』なんて名字があるのか?


「じゃあその人が池君の探し人だよ、きっと」


「そんな訳あるか! 俺の見た真更さんはもっと色白で可憐な子だった! でもD組に居た真更さんはオレンジ色の肌で赤い髪で身長と爪が2メートル近くあったぞ!」


 そこまで聞かれると逆に気になる、何者なんだD組の真更さん。とりあえず人以外の何かがD組に居ることがわかった。ていうか変な人多すぎだろこの学校。


「池君。実はキミが見たサイドポニーの小柄色白可愛い系女子は実在しない人物なんだ」


「そんな馬鹿な! 俺は確かに見たぞ! ていうかキミと一緒に居ただろうが!」


「……見えたんだ、池君には……あの子が……」


「な、なんだと?」


「そう……あの子は……実は死んでいたんだ」


「なんだって!?」


 今回のホラ話、池君は信じてくれるかどうか心配だったけど、この人、物凄く食いついてきている。

 疑うという言葉を知らないのか? まぁ、その辺がイケメンたる所以かもしれない。


「死を遂げる前、彼女はどうしても見たい映画があったんだ。それが例の『学園殺人事件 ~ラブと10回言わせて~』だったんだ」


「そ、それで彼女は!? 映画を観た彼女はどうなんたんだ!」


「満足して……無事に……成仏したよ」


「……そうか……そうか!」


    ガシッ!


 うお。不意に肩を掴まれた。


「いいことしたな! セカンドイケメン! さすが俺の次にイケメンの男だ。そうか。成仏したのか。そういうことなら俺も諦めるしかないな」


 おお。絶対バレると思っていた嘘が通った。しかも上手い具合に諦めてくれた。

 これで明日からイケメンによる襲撃が無くなってくれるんじゃないか。


「じゃあ池君。そういうわけで僕は用があるから行くね」


「おう! じゃあなセカンドイケメン。今度俺とイケメンフォークダンスを踊ろうな」


 踊ってたまるか。

 最近池君がイケメン関係の競技に誘ってくるもんだから、クラスの女子がなぜか黄色い声を上げて喜んでるんだよ。

 本当にやめて欲しい。


 とにかくこれでイケメンによる襲撃の心配は無くなった。


 ――この時点では僕はそう信じて疑わなかった。







    ~~♪ ~~~♪


 旧多目的室へ向かう途中、僕のケータイ電話が震えだす。

 月羽からのメールのようだ。

 どれどれ……



  ――――――――――

  From 星野月羽

   2012/07/02 16:05

  Sub 経験値稼ぎしましょう

  ――――――――――


  西谷先生が楽しい授業できるように

  今日も頑張りましょう。

  それが成功したら30EXP獲得

  なんてどうです?


  -----END-----


  ―――――――――――




 なるほど。経験値稼ぎに結びつけたか。さすが月羽だ。

 でもその方が僕のモチベーションが上がる。

 今からやるのは西谷先生の授業特訓であり、僕達の経験値稼ぎだ。

 俄然、やる気が出てきた。



    ~~♪ ~~~♪



 あれ?

 再度ケータイが鳴る。

 またも月羽からのメールのようだ。




  ――――――――――

  From 星野月羽

   2012/07/02 16:08

  Sub ぴーえす

  ――――――――――


  それと今回の期末試験でも

  平均よりも10点以上だったら~(略)

  の経験値稼ぎやりますからね♪

  

  -----END-----


  ―――――――――――




『平均点よりも10点高かったら20EXP獲得。学年平均が100位以内だったら更に40EXP獲得』


 中間試験の時40EXP獲得したあの経験値獲得だ。

 前の試験であんなにひどい目に遇いながら今回もちゃんと経験値稼ぎやるのか。

 強いなぁ。あの子は。

 ……さすがだなぁ。


 っと、僕もメール返さないと。




  ――――――――――

  From 高橋一郎

   2012/07/02 16:12

  Sub 経験値ウマー

  ――――――――――


  期末は試験科目が多いから大量経験値

  獲得のチャンスだね。

  また一緒に頑張ろう!

  ついで……じゃないけど、西谷先生の

  件も絶対成功させようね

  

  -----END-----


  ―――――――――――







 放課後。旧多目的室。

 今日も西谷先生による模擬授業が行われていた。

 だけどその内容はやっぱりどこか地味で、飽きと睡魔が同時に襲ってくるという驚異的なスリーパー能力を発動させていた。


「うーん……」


 だけどそれを正直に言っていいのだろうか。


「地味ですね。西谷先生」


 小野口さんが僕の代わりに言ってくれた!

 しかも迷うことなく堂々と言った。


「うわぁぁぁぁんっ! やっぱり地味なんだ! きっと生徒達も『あーあ。次の授業、西谷の地味現国――略して地国じごくが始まるぜ』とか話してるんだ! うわぁぁん!」


 ほら、泣き出した。しかも妙な被害妄想も添付して泣き出した。


「だ、大丈夫ですよ、西谷先生。私は先生の授業大好きですよ」


 月羽が取ってつけたようなフォローをするが、若干笑みが引きつっていた。

 これじゃあ逆効果になり兼ねない。


「ほんと! ありがとう星野さん! んー、いい子ねー。撫でてもいい?」


 効果抜群だった!

 なんていうか……この先生チョロすぎないか?

 月羽の頭を撫でまわす西谷先生を見てつくづくそう思った。


「もー、甘いよ月ちゃん。西谷先生も離れてください。月ちゃんを弄り倒していいのは私だけなんですから」


「小野口さんの所有物みたいに言わないでください!」


 女の子同士でとても楽しそうだ。こういう光景を傍から見るのってすごく久しぶりな気がする。

 って、それじゃ話が進まないじゃないか。僕も西谷先生にアドバイスしなくちゃ。


「もっと先生の長所を授業に出してみたらどうですか?」


「長所を? でも私の長所って何かしら?」


 う~ん、と腕を組んで考え始める西谷先生。

 だけど僕にはすでに西谷先生の長所は見えていた。


「先生の長所はラップしかないでしょう?」


「「ラップ?」」


 先生の特技を知らない月羽と小野口さんが首を傾げながら先生の方を見る。


「あれは黒歴史! ていうか高橋君も忘れなさい! いーまーすーぐー忘れなさいぃぃ!」


 心底恥ずかしそうに悶え出す西谷先生。


「授業の中にラップを取り込めば先生の授業はもはや最強ですよ」


「最強だろうが絶対やらないわよ!」


 断固拒否する先生。

 うーん惜しいなぁ。ラッパー西谷を拝める日はもう来ないのか。


「わぁぁ。先生ラップやられるんですか? 見たいです!」


「うんうん! 見たい見たい! 先生、見せてよぉ!」


 女の子二人が好機の目で先生を見る。

 月羽と小野口さんにせがまれ、西谷先生も頬汗垂らしながら困ったように視線を泳がせる。


「ま、また今度ね。それより他にアドバイスない?」


 結局逃げたか。押しが足りなかったみたいだ。


「んー、そうですねぇ」


「あっ、じゃあ黒板に可愛いイラストとか取り入れてみたらどうですか? 参考書の隅っこに居るようなマスコットキャラです!」


「ぅう。私、絵はちょっと……それに教育的に良いのかなぁ?」


「化学の山下先生はたまにそれやってますよ。さりげなく可愛らしいキャラクターを描いて、その子が重要なポイントを指さして強調しているんです」


 そんな先生が居るのか。

 でも授業から堅苦しさを取り除くに至ってイラストというのはいいアイデアかもしれない。


「小野口さん。どうして山下先生の授業風景知っているんですか? 私達のクラスの化学は斉藤先生が受け持ちのはずなのに」


 山下先生受け持ちじゃないのかよ!

 なんというか……さすが小野口さんだ。


「細かいことは良いとして、他にアドバイスとしては~……ん~……そうだ! パフォーマンスなんてどうです!?」


「だからラップはやらないって言っているでしょ!」


「いえ、ラップじゃなくて。ほらっ! 授業の伝統『チョーク投げ』を実際にやってみるとか!」


 漫画とかで何度か見たことがある『チョーク投げ』。

 しかし実際にはそんなことする先生など見たことがない。

 小野口さんは伝統と言っていたけど、今や伝説レベルの超技だ。

 だけどこの技はデメリットが大きいのだ。


「チョークという不形態な物質を真っ直ぐ投げるのは難しいんじゃない?」


「そうだね。それにコントロールが良いだけじゃ駄目。ヘロヘロ弾が当たっただけじゃ迫力に欠けるしね」


「それにもし的が外れて他の人に当たってしまったら大変です」


 この三つが大きなデメリット。

 特に最後に月羽が上げたデメリットが大きい。実際の教師がチョーク投げをやらない一番の理由は恐らくこれだろう。


「ていうかチョーク投げなんてやりません! 今の教育現場だと下手すれば体罰として扱われちゃうじゃない」


 確かにそうだ。

 昔は叩いたり蹴ったりなんて日常茶飯事だったらしいけど、今そんなことしたら一発退職レベルだ。

 最近はその辺りの条例が更にデリケートになってきて、ちょっと触っただけでセクハラ扱いされる不遇な教師もいるくらいだし……

 それを考えるとチョーク投げなんて以ての外かもしれない。


「大丈夫。何も的は『人』じゃなくてもいいじゃない?」


「「「えっ?」」」


 どういうことだ?

 小野口さん以外の全員が首を傾げていた。


「アレよ!」


 小野口さんが僕らの背後を指刺す。

 そうか!


「後部黒板?」


「そ♪ アレだけ的が大きければ当たるよね」


「生徒の注目も引けます!」


 確かに先生が突然チョークを後ろの黒板に向けて投げ出したら注目も引けるし、話題にもなるだろう。眠気覚ましにもなると思うし。

 

「とにかく、今後の方針が決まりましたね」


「ええ」


「うん。高橋君。まとめよろしく」


 なぜか僕にまとめ役を引き渡す小野口さん。

 まぁ、いいや。

 えっと今回のアドバイスを要約すると、こんな感じか。


「つまり……ラップをしながらたまに黒板にイラストを描き、フィニッシュとして後部黒板にチョークを投げ出す授業を身に着ける……ってことでオーケー?」


「オーケー♪」


「完璧です! 一郎君!」


「完璧じゃなぁぁぁぁい! さりげなく『ラップ』を混ざないの!」


 ちっ、気付かれたか。流れてラッパー復活かと思ったのに。


「まぁ、ラップをしなくてもイラストとチョーク投げだけでも面白い授業になりそうですね」


「そ、そう?」


 西谷先生の表情が微かに緩む。


「まぁ、ラップを織り交ぜた方がもっと面白い授業になりそうですが……」


「しない!」


 結局の所、ラッパー西谷の復活はないようだった。

 その後、僕、月羽、小野口さんの三人の期末テストの勉強が始まった。

 その横で西谷先生が一生懸命チョークを黒板に当てる練習をしていたのが物凄くシュールに見えた。


 補足だが……

 先生の絵心は幼稚園児以下のレベルだった。

 特訓の道のりは長そうだなぁ。




―――――――――


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もしよければそちらもご覧いただけると幸いです。

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