第13話 これじゃただのぼっちの集合写真です

 5月3日、現在の戦績。


 ロックンミュージックでの経験値稼ぎ……10EXP獲得。

 クイズマジマジ学園での経験値稼ぎ……20EXP獲得。

 現在の総獲得経験値……100EXP。


 丁度三桁でキリがいいし、30EXPも稼いだのだから今日はいい頃合いかな。


「高橋君! 高橋君! 続いての経験値稼ぎなんですが――」


 アグレッシブだなぁ。星野さん。この子意外に元気っ子キャラだ。


「アレやってみましょう!」


 アレ――

 星野さんが指をさしたアレ。

 見た瞬間、一瞬表情が硬直してしまったのは自分でもわかった。

 ちなみにアレというのはゲームではない。

 いや、一応は『ゲーム』のジャンルに含まれるのだろうけど、今までのとは毛色が違っていた。


 『美顔プリクラ』


「そろそろ時間だね。今日はありがとう星野さん。楽しかったよ」


「なんで逃げようとするんですか!」


 ガシッと腕を掴まれてしまい、逃走不可能になる。

 先ほどまでずっと手を繋いでいたせいか、触れ合うことの遠慮が無くなってきている。


「駄目だよ星野さん。プリクラなんて。不良のやることだよ」


「高橋君の中でプリクラってどんなイメージなんですか!」


「だってプリクラ写真って、どれを見ても怖い人が映ってない? 怖い人がプリクラ魔術で更に怖く映ってない?」


「ひ、否定はできないですけど。で、でも苦手に挑戦してこその経験値稼ぎです!」


「う、うん。まぁ、そっか」


 そう言われるとなぜか挑戦したくなる不思議。

 最近僕も順調に経験値厨になってきている気がする。


「でもこれはやめよう! 他の楽しそうなプリクラにしよう」


 この『美顔なんちゃら』を批判しているわけじゃないんだけど、なんかこれをやるのは抵抗がある。


「わかりました。他にもたくさんあるみたいなので選びましょう」


 前々から思っていたけれど、アミューズメント施設で稼働しているプリクラの数は異常だ。

 そしてそのスペースへの近寄りづらさも異常だ。

 ていうか星野さんに腕を引かれていなければ今も進んで近寄ろうとは思わない場所だ。


「これとかどうです?」


 『秘書美女』


「僕が美女加工されたのみたいの?」


「高橋くん、素で可愛いから私より可愛くなりそうですね」


 この子、嫌味じゃなくて本気でそう思っていそうだから怖い。

 

「とにかく却下」


「むぅ、残念です」


 本当に残念そうに唇を尖らせる星野さん。


「じゃあこれは?」


 『woman heart』


「却下」


「んー、これはどうです?」


 『サハラ砂漠の女』


「今までの中で一番ありかな。でも却下」


「なんでこれがあり寄りなんですか! んー、じゃあコレーー」


 『じゃがいもスター来襲』


「よし、これ行こう」


「これですか!?」


 じゃがいもスターというキャラクターと写真が撮れるプリクラらしい。

 そしてこのキャラクターには見覚えがあった。

 ていうか先ほどクレーンゲームで取った不思議じゃがいものキャラクターであった。

 現在ソイツは星野さんの胸の中に抱かれている。


 『一回400円』


「「たかっ!」」


 他ゲームは高くても一回200円なのに、プリクラってこんなに高いのか。詐欺じゃないか?

 この『じゃがいもスター来襲』という機種だけが高いのかと思い、他の機種と見比べてみるが、どれも400円以上が相場らしい。一番高いので800円というのもあった。それこそ本当に詐欺だろう。


 とにかくやるからには値段も手ごろな『じゃがいもスター来襲』をプレイするのが妥当だろう。

 僕達は200円ずつ分け合ってワンプレイ行うことにした。

 にしてもこの狭い空間に二人きりというのも照れるな。先ほどのクイズゲームでの距離感もやばかったが、それに匹敵するくらい近い。


『フレームを選ぶイモ』


 マシンから音声が鳴り響き、選択画面に入った。語尾がウザい。

 写真のフレームを選ぶみたいだな。プリクラというのはここまで凝っているのか。

 赤、青、黄色、シルバーフレームもある、おお、金ピカのもある。


「わぁー。綺麗なのがいっぱいありますね。どれにします?」


「んー、シンプルなシルバーフレームとかいいかも」


「さすが高橋君! 無難なものを選ばせたら右に出る者はいませんね」


 星野さんに褒められた。でもなぜか嬉しくない。


「それか意外性を付けて遺影バージョンとか選んでみる?」


「――シンプルイズベストですね。次に進みますよ」


 星野さんが迅速な手つきでシルバーフレームを選ぶ。

 面白いと思ったんだけどな、この遺影バージョン。まっ、いいか。


『写りを選ぶイモ』


 またも選択画面に入った。語尾がウザい。

 透明度やら彩りを選ぶみたいだな。


「んー。よく分からないからこの辺は全部デフォルトで良い?」


「はい。いいですよ」


「それか意外性を付けて骨骨レントゲンバージョンとか選んでみる?」


「やっぱりデフォルトが一番ですよね。親切設定ですし」


 星野さんが高速の手つきでデフォルト設定を選んでいく。

 たまに素早い動きを見せるよなぁこの子。普段ボンヤリしてるのに。


『一枚目、撮影するイモ』


 ようやく撮影か。語尾がウザい。

 ここでポーズを取れる人は経験値の高い人だ。経験値100の僕達は棒立ちが精々だ。


『3・2・1・じゃが☆』


 空間全体にフラッシュが炊かれる、ような気がしたが全く眩しくなかった。それと語尾がウザイ。

 ともかく一枚目の撮影が終わり、その映像が表示される。

 なぜか二人とも視線が下を向いていた。


「た、高橋君っ。カメラが少し上の方にありますっ!」


「なんだって!?」


 すると、一枚目はフェイクか。

 カメラの位置を悟らせる為に初回は無駄にしても良い仕様なんだな。

 となると本番は二回目からか。今度こそカメラ目線で映ってやる。


『二枚目、撮影するイモ。3・2・1・じゃが☆』


 今度こそカメラから視線を離さず、ていうかカメラを凝視した二人の写真が表示される。

 妙に恐ろしい写真だ。そしてシュールだ。二人して何やってんだと声を大にしてツッコみたくなる写真だ。


「高橋君っ。もっと自然な感じで映ってくださいよ。これじゃただのぼっちの集合写真です」


「星野さんもね」


 ていうかぼっちの集合写真ってなんだろう? 矛盾してる。

 それにしても自然な感じで、か。確かにプリクラってもっと楽な感じで取るべきな気がするなぁ。


「高橋君。ちょっとフレームから見切れてますよ。もっと近寄ってください」


 只でさえ狭い空間なのに更に近寄れというのか。

 しかし僕は学んだ。この人はまだこの距離感に気付いていない。気付いた途端にこの子は赤面する。

 だから僕はさりげなく近寄り、彼女に距離感を悟られないように努める。


『三枚目、撮影するイモ。3・2……』


 肩がぶつかった。


「あっ……」


 瞬時に距離感が気付かれ、赤面が始まる星野さん。

 なんで僕はこうどんくさいのだろう。いつもいつも思い通りにいかない。


『じゃが☆』


 しまったっ。肩がぶつかってお互い見つめ合ったまま呆けた瞬間を撮られてしまった。語尾がウザイ。


『デコレーションをするイモ』


 嘘ぉ!? もう撮影終了!?

 画面が三分割され、三種類の写真に色々デコレーションできるようだ。

 ちなみにどの写真にもじゃがいもスターが隅っこに映っている。此奴の存在はデフォルトらしい。

 ていうか、目でか!? 人という幅を超えた目の大きさの僕達がそこに映っている。

 プリクラの謎仕様だ。なぜにここまで眼球を主張するのか。


 付属のペンで色々かけるらしい。さて、何を描くか。

 ふと隣をみると星野さんが黙々と何かを描いている。ちなみにまだ顔が赤い。

 うーん。描くことがないなぁ。世のプリクラマスター達はどんなこと描いているんだろう?

 とりあえず今日の日付を記入して……んと……それで……

 あ、閃いた。これを描こう。僕達らしい文字を描こう。

 僕は日付の隣に大きな字でこう書いた。


『5月3日 現獲得EXP100pt』


 いいな、これ。後々記念になりそうだ。

 僕はややドヤ顔で隣の星野さんの描いているものを見た。

 そこにはこう書いてあった。


『目標EXP100万pt』


 彼女の思考は僕よりも遥か遠くを見ていた。

 なんかドヤ顔をしていた自分が恥ずかしくなった。

 100EXPで満足していたのは僕だけだったようだ。まさか目標の一万分の一に達したばかりだったなんて。


「ん?」


 不意に星野さんと目が合う。

 そして僕の描いた文字を見て、赤面したまま小さく微笑んだ。


「私達、思っていることはいつも経験値のことですね」


「そうだね」


 嬉しそうにはにかむ星野さん。お互い順調に経験値脳が進んでいるようで何だか微笑ましい気持ちになった。

 デコレーションが終え、完了ボタンを押す。


『お疲れだったな。若人よ。また逢う日を待っているぞ』


「「誰だよ(ですか)!?」」


 最後の最後でキャラが変わったじゃがいもスターに、同時にツッコミを入れていた僕と星野さんであった。


「なんだか……グッと疲れた」


 ただプリクラを撮っただけだというのにこの疲労感はなんだろう?


「高橋君、どうぞ」


 星野さんが印刷されたプリントの半分を僕に手渡してくれた。

 三種類の写真。

 どれもこれもプリクラ慣れしていないのが丸わかりだった。

 だけど不思議な達成感が胸に渦巻く。


「それと……はい」


 星野さんが手を胸の位置に伸ばしている。

 瞬時に彼女がしたいことを察した。


「30EXP獲得です♪」


「なかなかの経験値量だね」


    バチィィィィィン!


 今までの経験値稼ぎで一番良い音が鳴った。


「ふふふふっ♪」


 このハイタッチには星野さんもご満悦のようだった。

 これが彼女にとっての理想的なハイタッチだったのだろう。


「そろそろ良い時間だね」


「本当ですね。時間が経つのが早かったです」


 日が完全に落ちかけている。

 こんなにも長いことゲーセンに居たのは初めてかもしれない。


「明日はどうする?」


「へっ?」


 自然に明日の予定を聞いてみただけなのに、星野さんはなぜかキョトンとしながらこちらを見つめている。

 あれ? 僕変なこと聞いたかな?


「あ、明日も付き合ってくれるの、ですか?」


「そのつもりだったけど。あっ、残り二日は休んどく?」


 せっかくの大型連休に僕なんかと付き合いぱなしってのは流石に疲れるだろうし、可哀想だ。

 僕的には残念だけど、まぁそれも仕方な――


「いいえ! た、高橋くんが良いのであれば、明日もやりましょう!」


 あれ? 意外と乗り気だ。なんか嬉しい。

 しかし、駅前は遊びつくした感があるな。明日はどこで遊ぶ――もとい経験値稼ぎをするか……


「そうだ! 明日は少し遠出しませんか?」


「おお。いいね。どこにいくの?」


「そ、それは、その、明日のお楽しみです!」


 ふむ。行き場所は決まっていないのか。

 これは今日の夜に考えて、明日までに思いつかないパターンだな。それが星野さんクオリティ。


 何はともあれ、今日は色々あったが結果だけを見れば大成功に終わった。

 なんだかんだで経験値稼ぎも順調で気分良い。


 ロックンミュージックでの経験値稼ぎ……10EXP獲得。

 クイズマジマジ学園での経験値稼ぎ……20EXP獲得。

 そしてプリクラ初体験での経験値稼ぎ……30EXP獲得。

 現在の総獲得経験値……130EXP。

 それと目標までの残り経験値数……999,870EXP。


 順調……だよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る