第9話 目立ってしまった



 「おい、授業始めるぞ」


 そう言いながら入ってきたのは中年のおじさん教師だった。何故だろう、あまり良い印象を持てない。なんか嫌な予感がする。


「おい、教科書開いておけよ。閉じたままで勉強する気か?」


 一瞬で分かった気がした。嫌な教師だ。まず、こんな言い方ないだろう。確かに行っている事は正しいのだが教科書を開くにも正しいページが分からない生徒だっているはず。現に蓮がそうだ。


「全く、三学期から始めるページ位覚えておけ。そんなんじゃ英単語も覚えられないだろうな」


 そう、この授業は英語なのだ。なので蓮にとってはとても簡単な授業なのである。少し補足すると海外で習う英語と日本の高校で習う英語は全く違う。日本の高校だと文法などを勉強するが海外であれば実際の本に書かれている内容なかにどんなテクニックが使われているか、などを勉強する。

 

 しかも蓮は父親と幼少期から一緒に英語の勉強をしていたため、ある程度の文法の構造などもバッチリだった。三学期が始まる前に日本の高校での英語はどんなものだろうと教科書を拍子抜けしたほどだ。


 しかし、そんな蓮でもどのページから始めるかなんて知るはずもなかった。そんな事を全く気にせずぶつぶつ何かを呟きながら黒板に教師は何かを書いていく。この授業の内容は仮定法らしい。


 蓮は急いで教科書の目次を確認し、仮定法のページを開く。さっと目を通すがどれも簡単だった。そう思いながら授業は始まった。


「もう既に書いたが今日の授業は仮定法だ。お前ら、ちゃんと冬休み中に予習してきただろうな?よし、藍沢。説明してみろ」

「は、はい... え〜と...」


 たった今呼ばれた藍沢という女子が椅子から立ち、説明しようとしている。


「か、仮定法は現実ではあり得ない事や事実とは違うことを言うときに使います。」

「はぁ... まぁ、良いだろう。そこまでは皆も知っているはずだ。他には何か無いのか?」

「う、う〜ん...」

「ちゃんと予習してこなかったのか?もっと言うことあるだろ。どんな文法を使うか、どんな単語を使うか、あるだろ。」

「す、すみません...」


 そう言って藍沢さんが座った。何がそんなに気に入らないんだろうか?藍沢さんが説明であっているはずだ。確かにもっと言えることはあるだろう。簡単なものであれば文章を作るときにIfを使う、などだ。


 「他に誰か居ないのか?まさかとは思うが、誰も予習していないなんて事は無いだろうな?!」


 急に声を荒げたことにびっくりするクラスメイトたち。蓮もそのうちの1人だ。こんな事で、しかも初日にこんな声を荒げられるとは思ってもみなかった。


「全く... 誰も説明出来んのか」


 であれば説明するべきだろう。そのための教師なのだから。実際に一言言ってやろうかと思った蓮。しかし、敬斗の言葉を思い出した。


『この授業ではあんまり目立つことするなよ』


 なぜこんな事を言われたのか、切実に分かった。確かにこんな教師の前で目立つ事をしようものなら目をつけられてしまうだろう。でも、何か言いたい、してやりたい。そんな事を考えていると


「そういえば今日から転入生がいたな... おい、転入生。そうだな、仮定法を使う場面はどんな時か、どんな単語を使うのか、説明してみろ。それと英文を作って黒板に書いてみろ」


 蓮にとって仮定法を説明する事自体は簡単だ。なんなら教科書に書いていない事も知っているので説明できる。文章を作る事もさほど難しくない。しかし、敬斗に言われたように目立たないようにしなければいけない。何を説明しようかなどと考えながら席から立って説明を始めた。


「まず仮定法で文章を作るときに使う単語はIfを用いて文章を形成します。しかし、Ifだけでは仮定法は成立しません。なぜならばIfは非現実的なシナリオと現実的なシナリオにも使えるからです。しかし、仮定法の場合は藍沢さんが説明したように非現実的なシナリオになります。」


 そう説明し終わった後、黒板まで移動し文章を書く。


"If I were you, I wouldn't teach students with that attitude"


 書き終わった後、自分の席に座ると顔を顰めた教師が見えた。それもそうだろう、蓮の書いた文章の意味は"もし私が貴方だったら、貴方の様な態度で生徒に教えない"と書かれていたからだった。


 「チッ、まぁ良いだろう。ただこの文章だと少し長くてまだ習っていない単語もある。他に文章を書ける奴はいるか?」


 流石にあんな文書を訳すわけにはいかないだろう思う書いたのだ。このとき既に蓮は少しだけ感情的になっていた。ただ、書いた後で少しだけ後悔した。確かに周りのクラスメイトに意味がわかる人は少ないだろうし、意味がちゃんと分かっているのは教師だけのようだった。しかし、敬斗に目立つなと言われていたのに目立つ様なことをしてしまった。ちゃんと分かっているのに、感情的な行動をしてしまった。


 しかし、起こしてしまった行動はもう無くなった事には出来ない。


「誰も出来んのか?!全く、冬休み中にいったい何をしていたんだ?!」


 そして、教師の火に油を注いでしまった。教師が授業開始時より機嫌が悪いのは一目瞭然だった。


「もういい。進めるぞ」


 もう諦めたのか授業を進めた教師。皆はノートを取っていくが蓮には必要のないことだ。しかし、何もしていないと小言を言われるだろうと思い適当にノートを取っていく。


 そうやって進んでいくと授業の終わりを告げるチャイムがなった。


「おい、日直。黒板消しとけよ」


 それだけ言うと教師は教室から出ていった。そしてクラスメイトの皆が待ち望んでいた昼休みの時間になった。


「ねぇねぇ、さっきの授業で黒板になんて書いたの?!」


 それが昼休みの最初の質問だった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 こんにちは、Ariesです。


 このエピソードでは蓮が感情的になったところを書きました。最近の話数だと蓮の境遇や環境に焦点を当てていて蓮がどんな人物なのかをあまり掘り下げきれていないと思ったのでこのエピソードを書きました。


 そして、ヒロインの純恋ですがもう少ししたら出したいと思います。絶対に出します。じゃないとラブコメではなくなってしまうので。


 これからの蓮の生活や純恋のとのラブコメがみたいと言う方はまたこのストーリーが更新されたときに読んでもらえると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る