第2話 新しい暮らし

「あ〜...」


 バスから降りた後、運よくタクシーを捕まえたと思った蓮だったが運転手さんが高齢で荷物をトランクに入れられず、蓮がする羽目になってしまった。もっとも、荷物を出来るだけ詰め込んだのは蓮なので運転手さんを責めることは出来ない。


「にしても疲れたな」


 今から高校が始まるまでに2週間ある。その間にすることは山積みだ。まずは荷物の整理、しかも持ってきた荷物だけではないのでそれの荷解きもしなければいけない。次に色々なものの契約だろう。電気や水道、ガスは目星がついてるので電話して契約するだけ。携帯も実際のショップに行ってするつもりだった。


「しかし何もないな」


 自分の借りた1LDKの部屋を見てつぶやく。それもそうだろう。今時、家具が全て付いている賃貸の方が珍しい。なので家の中は空っぽだった。幸いな事に前の住居者が置いて行った冷蔵庫などのキッチン家具とキッチン道具、洗濯機、そしてエアコンがあるのは良かった。しかし、高校生1人に1LDK。贅沢なんじゃないかと思うが蓮には譲れないこだわりがあった。それは寝具だ。


「寝る場所はベッドじゃなきゃ落ち着かないんだよな〜」


 今じゃ日本は敷布団の方が珍しいかもしれないが蓮が祖母の家にお世話になっているときはずっと敷布団で寝ていた。日本の文化などが大好きな蓮だがどうしても敷布団だけは合わなかった。それもそのはず。海外ではベッドが主流なだけに身体が海外仕様になってしまったのだろう。なのでベッドを置くとなると寝室が必要だったのだ。


「とりあえずベッドだけは買いに行かなければ」


 そうして買い物に出かけた蓮だが大きな問題に直面する。それもそのはず、ベッドなど自分で持って帰れるはずもなく、またマットレスやシーツ、枕や布団さえないのだ。持って帰れるはずもない。しかも時期が時期なため雑魚寝などできるはずもない。


 その場で蓮は急いでネットでベッドフレームやマットレスなどを注文しようとするが即日配達などはなく、早くても明日という事実に震えていた。流石に寝具が無いのは辛い。しかし、車はおろか運転すら出来ないのに寝具は買えない。ひとまず蓮は枕と布団だけを買って帰宅した。


「どうしようか...」


 道中でいろんな事を考えたが良い案が浮かばなかった。結局家に戻った蓮はそこから日用品を買いにドラッグストアに出向き、どうするかを悩みながら買い物をしていく。ホテルに泊まる事を考えたが蓮はまだ未成年。親の同意が必要な年齢なため、実現不可だった。幸い部屋にはエアコンが付いていた為、夜の間はあまり良くはないが暖房をつけたまま寝ることにした。


 それでも寝具が必要な事には変わりがないのでネットで色々と買い合わせた。机に椅子、クッション、ソファ、カラーケースなど。後々買い足せば良いものは後にし、一旦は必要なものだけを揃えた。


 そんなことをしているともう夜になっていた。すっかり忘れていた空腹の感覚が戻り、無性に何か食べたくなってきた。


「何かを食べに行こう」


 いくら料理ができる蓮といえど日本に着いた初日から料理できるほどの体力は持ち合わせていなかった。むしろ、昼寝をせずに一日中ずっと生活の基盤を作り上げていた事を賞賛するべきだろう。


「何か周りに美味しいレストランないかな」


 携帯を見ながら何が周りにあるのかを探す。スーパーで惣菜を買うことも考えたがせっかくなので美味しいものを食べたかった。そこで蓮が選んだものは。


「まぁやっぱり日本に帰ってきたらお寿司でしょ」


 海外だと生魚を食べる習慣はないが蓮は日本に帰ると必ず寿司を食べるほど好きになっていた。ちょうど近くに有名な寿司チェーンがあるため値段的にも距離的にもちょうどいいその店に決め、早速向かった。


「やっぱりお寿司は美味しいな〜」


 平日だったが夜のピーク時だったので少し待ったが蓮はとても満足した足取りで帰路に着く。


「あ、明日の食べる分の買い物だけしておかなきゃ」


 そう思い出し、帰り道にあるスーパーにより、菓子パン、パスタなど簡単に料理でき食べれるものを買っていく。そしてレジに向かい、お金を払って荷物を詰め終わった後、何気なく向けた視線の先に思わぬ光景が飛び込んできた。


「あ...」


 とても惹かれる女の子を見かけた。流れるような黒い髪、すらっとしたスタイル。そして、蓮が好みな顔をしていたのだ。落ち着きのある雰囲気をした顔だった。しかし、それらよりもより惹きつけられる物があった。それは彼女の笑顔だった。レジ係の人と知り合いなのだろうか、笑いながら何か話している。


「...」


 すごく綺麗で可愛い笑顔で蓮は目が離せなかった。しかし、あまり見ていると不審に思われるかもしれないと思い、すぐに視線を移しスーパーを出た。


「可愛かったな〜...」


 帰り道、蓮はずっと彼女の事を考えていた。それほどまでに印象に残り、脳裏に焼き付いたのだ。多分年齢はあまり変わらないだろう。しかもこの辺りには高校は1つしかないので彼女が遠方の高校に通わない限りこれから蓮と会えるかもしれない。そう思うとより高校に行くのが楽しみになってきた。


「早く1月にならないかな〜」


 そんな出会いと期待を胸に膨らませながら家に帰った蓮であった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 みなさん、こんにちは、もしくはこんばんは、Aries(アリエス)です。


 またまた読んでくださって本当にありがとうございます。今回のエピソードでは蓮がどれだけ日本に慣れていないのか、を少しだけ出してみました。皆さんはこれに関してどう思いましたか?もし不自然な点などがあれば教えていただきたいです。


 そしてこの物語のヒロインを少しだけ出してみました。本当はもう少し後にしようかと思ったんですが自分が早く書きたくて出しちゃいました。なぜならこの話で出さなかったらいつ出すかすごく迷ったからなのです... 個人的には良い判断なんじゃないかな、と思ってます。


 あとがきはここまでにしたいと思います。このエピソードも読んでくださりありがとうございます。次のエピソードも読んでくださると大変嬉しいです。

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