28. アッシュ作『デートの前日』

 今度のお題は『告白』でお願いします。


 深い意味はありません。恋愛小説を読んでみたい気分になっただけです。なお、研究多忙のため、あまり長いものは読み切れないかもしれません。しかしあなたの小説を読みたいという気持ちは消えていません。(フレア)


 きっと、こういう小説を望んでいないのかもしれませんが、テーマ通りに書きました。(アッシュ)


     *     *     *


 タイトル『デートの前日』


 眠れない日々を送っているけれど、まったく苦しみがない。苦しみを押し潰すほどの興奮が、ぼくの五感を酔わせてしまっている。


 もう一度、手紙に目を通す。間違いなく、デートの約束だ。明日だ。なにを食べても味はしないけれど、幸福感のようなものが染みだしてくる。紺色が光り輝いて、水色に見える。風の吹く音のなかに、彼女の声が聞こえてくる。


 彼女は、ぼくが初めて告白をした女性だ。それは、大きな意味を持っている。


 ぼくはいままで、3人の女の子と付き合ってきた。それはいずれも、向こうからの告白を受け入れた形だ。しかし、どれも長続きしなかった。その原因は、ふたりの関係性がからなのだけれど、自分が告白された側だからだというように思ってしまうこともあった。


 だから彼女もまた、に、思い入れを感じなくなるかもしれない。それは、おそろしいことだ。彼女をぼくの近くに繋ぎ止めておきたいと、強く思う。


 窓を開ける。むっとした風が吹き込んでくる。嫌な予感がして顔を上げると、そこには曇天があり、どうも雷をたくわえているようだった。


 夜は大雨になった。明日の朝、晴れ上がったとしても、水たまりがたくさんできていることだろう。湿気にうんざりすることだろう。そのせいで、ぼくたちの仲が険悪になったりしないだろうか。


 ぼくは眠れなかった。晴れわたる明日がなくていい、雨のままでいい。傘の下でふたりむつまじく歩ければ、それでいい。一番避けたいのは、晴れたなかに水たまりがあり、むっとした空気がぼくたちを包みこんで、不快な気持ちにさせられることだ。


 いつの間にか、泣いてしまっていた。なかなか一緒に過ごすことのできないぼくたちが、長らくできなかったデートをする日がなぜ、最悪の舞台になってしまうかもしれないのだろう。これが、ぼくたちの間に敷かれた運命のようなものなのだろうか。


 眠れないなかでも、意識はうすれていく。うすれていく感覚が、雨の音を強調させてくる。あと少しで、まったくの無音の世界が待ち受けているのに、そこへ到達することができない。


 これほどまでに悶え苦しむのは、彼女のことを、愛しているから――愛しすぎているからだ。しかし彼女は、ぼくと同じようなことを、いま考えているのだろうか。煩悶はんもんしているのだろうか。その疑念もまた、ぼくを悩ませる。


 びゅうびゅうと吹いている風。雨が斜めに走っている音が聞こえはじめる。


 眠りから覚めたとき、まったく雨の名残のない、心地よい快晴が広がってくれていないだろうか。ぼくの嫌な想像がことごとく、裏切られてくれないだろうか。そんな望みを抱きながら、ぎゅっと目をつむった。

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