23. アッシュからマヌールへ(1)

 いったい、どこから話せばいいのか分からないし、手紙の冒頭からいきさつを連ねていくと、まるで弁解のようになりそうだから、まず、いまぼくがなにを考えているかについて、書きます。


 ぼくたちは、あまりに離れすぎた。距離的にも、心理的にも、まるで夢と現実のような別れ方をしていたと思う。だから、ぼくから離れて、呼吸を整えて、まずはこの手紙を読んでほしい。


 きみは信じてくれないかもしれないけれど、ぼくは、マヌールのことをいまでも愛している。愛していなかったときなんて、一度もない。けれど、きみがその愛にたいして、不信を抱いてしまうのもしかたがないと思う。


 机のなかにあった、短い小説の束は、心をゆるせる友人とのものです。というと、さらなる邪推をうんでしまいそうだけれど、本当にそうなのだから、そう言うしかないのです。ぼくはその友人と、お題に沿った短い小説を書くという「遊び」をしていました。


 遊び……そう、遊びのひとつです。文章を書いて生きていきたかったという夢が叶わず、小説家の真似事をしても、読んでくれるひとなんていなかった、そんなぼくに、「読者」があらわれたのです。


 しかしなぜ、この遊びをすることになったのか。きみという人がいるのに、なぜ、きみではなく「彼女」なのか。このことが、きみに悲しい想いをさせている理由のひとつだと思います。だけどこれには、ややこしくて複雑ないきさつがあるのです。


 とにかく、ぼくがいま、切に願っていることは、ひとつです。


 ぼくは、マヌールと幸せな結婚をしたい。しかしその願いは、いまとなっては、いくつかの条件が奇跡的に組み合わされないと、叶わないかもしれない。だけどぼくは、マヌールと結婚するために、残りの一生を捧げたいと思っている。


 これが、ぼくのいまの本音です。戸惑っているきみの顔が浮かびます。

 でも、これこそが、ぼくのうそ偽りのない気持ちなのです。


 それでは、これから、いまにいたるまでの経緯について記していきたいと思います。

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