18. アッシュの遺書(1)

 私はフレア・ルングマンと心中することに決めました。


 決めたといっても二人で同意した訳ではありません。私が身勝手にそう決意したに過ぎません。


 任務上、フレア・ルングマンの監視をしているうちに、私的感情が芽生え、自然と意中の相手と成りました。しかし、当人の方からはすげなく断られるだろうとも思いました。それに、私の立場上、ゆるされることではないと考えると煩悶はんもんに明け暮れるしかなく、ついに今回のことを決意したのです。


 よって、今回の事件には、フレア・ルングマンの意志は一切介入しておらず、私の一存であることは強調しておきます。私の愛した女性の名誉のためにも。しかし、私にこのような犯罪を決行させたのは、彼女の魅力に罪があると、私は今でも思っています。


 もし今、フレア・ルングマンが近くにいれば、無理やりにでも「カスミ」の下へと一緒に飛びおりていたでしょう。しかし彼女は、私の目を盗み逃走してしまいました。厳重に「監視」をしていたつもりでしたが、私がうとうとしているうちに、気付いたら消えてしまっていたのです。


 こうなれば、出頭するしかないとの思いもありましたが、死罪を宣告されることはたやすく想像されます。だとするならば、自ら命を絶つ方が、いくらか心が楽であるとおもいましたので、私はこの遺書だけをのこして、ひとり、「カスミ」へと落ちていこうと思います。


 私はこの小屋で、何度もフレア・ルングマンを愛しました。もちろん彼女は、そうではありません。私は、まごうことなき破廉痴漢はれんちかんでございます。いまでも申し訳なく思っております。不遜ふそんながらお願い申し上げたいのは、上記の理由から、彼女に事の詳細を問いたださないでほしいことです。


 また、私の家族、親類、同僚、上司……だれひとりも、今回の件には関わっておりません。すべて私ひとりの決意により、決行したものです。その点は、うそ偽りありません。


 よって、全ての罪は私が背負うべきですし、償いも私一人がするべきです。しかし銃殺刑を想像すると、その恐怖は耐えがたく、それならば自ら死を選ぼうと、首をくくろうか、自らの手で自分を撃とうか、色々と考えたのですが、やはり飛びおりた方が、気持ちとして楽に感じましたので、本日の明け方に、「カスミ」に落ちることを決めた次第です。


 繰り返しますが、今回の一件は、すべて私の身勝手な行動です。死後に待ち構えているであろう厳重な裁きも、一身で受け入れるつもりでいます。


 この度は、私のせいで、多くの人々にご迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした。

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